生物せいぶつ)” の例文
私は顔があかくなった。私の眼の前には、チェリーの真白なムチムチ肥えたあらわな二の腕が、それ自身一つの生物せいぶつのように蠢動しゅんどうしていた。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ほかの生物せいぶつ生存競争せいぞんきょうそうほろびても、協力生活きょうりょくせいかつをするありの種族しゅぞくだけはさかえるのだ、世界せかいじゅうどこでも、ありのいないところはないだろう。
戦友 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、猫のうしなっこぞを持って宙につるしながら、こう言い出したところへ、遥かに次の間から、猫よりもっと不思議な生物せいぶつが一つ現われました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼等かれらさらはるいたつたことを一さい生物せいぶつむかつてうながす。くさこゝろづいて活力くわつりよく存分ぞんぶん發揮はつきするのをないうちはくことをめまいとつとめる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
生物せいぶつのやうにうごめき、きらめき、なめつくす野火のびに燒かれるヒースの山が、リード夫人を呪ひ脅迫けふはくした私の心の状態に、ぴつたり適合するに違ひない。
天地の間に生物せいぶつ多しと雖、その最も殘忍なるものはけだし人なるべし。われ若し富人ならば、われ若し人の廡下ぶかに寄るものならずば、人々の旗色は忽ちにして變ずべきならん。
この長屋ながやは、そのときから八十八ねんまえの明和めいわ八(一七七一)ねんに、前野良沢まえのりょうたく杉田玄白すぎたげんぱくたちが、オランダのかいぼうがく生物せいぶつのからだをきりひらいて研究けんきゅうする学問がくもん)のほん
然し其悲鳴して他の雄犬を追かける声は、世にも情無なさけなげな、苦痛其ものゝ声である。弱い者素より苦み、強い者がまた苦む。生物せいぶつは皆苦む。思うにいたましく、見るに浅ましい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その闘争が激しくなった時には、赤ちゃんは最早もはや一個の物体に過ぎなかった。西洋流に云うと一本のパンのし棒に過ぎなかった。つまり生物せいぶつとしての存在を失ってしまうのである。
江川蘭子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あれ造物者ざうぶつしやが作ツた一個の生物せいぶつだ………だから立派に存在している………とすりや俺だツて、何卑下ひげすることあ有りやしない。然うよ、此うしてゐるのがう立派に存在の資格があるんだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
あらゆる生物せいぶつをしをれ返へしてゆく極熱風
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
この電燈でんとうひかりは、生物せいぶつ体内たいないにある心臓しんぞうのようなものです。ともりはじめたときがあって、またわりがあるのです。
「あれは本当に生きているのだよ。たしかに生物せいぶつだ。人間によく似た生物だ。の光なんか、おそれはしないだろう」
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ですから、二人ふたりはすぐしたしくなりましたが、このとき、島村しまむらは、生理学せいりがく生物せいぶつのからだのはたらきを研究けんきゅうする学問がくもん)の原書げんしょをほんやくしているところで、そのほんをもってきて
ある犬通の話に、野犬やけんの牙は飼犬かいいぬのそれより長くて鋭く、且外方そっぽうくものだそうだ。生物せいぶつにはうえ程恐ろしいものは無い。食にはなれた野犬が猛犬になり狂犬になるのは唯一歩である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
わたしは、風景ふうけいや、生物せいぶつの、たのしく生存せいぞんする姿すがたをかいて、みんなにしめし、そのよろこびをわかちたいとおもうのです。
托児所のある村 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もしもわしの予感があたっていれば、あれは、超人間ちょうにんげんなんだ。超人間、つまり人間よりもずっとかしこい生物せいぶつなのだ。わしは、あれのために、ひそかに名まえを用意しておいた。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どうです、よくえませんか。あのくものようなのが、山脈さんみゃくで、ぼつ、ぼつが、噴火口ふんかこうのあとです。つき世界せかいには、みずがないから、生物せいぶつもいない。んだ世界せかいですよ。
水七景 (新字新仮名) / 小川未明(著)
つめたいかぜは、おびやかすように、電燈でんとうおもてをなでていきました。心臓しんぞう規則正きそくただしく、生物せいぶつむねっているあいだに、いろいろなおそろしい脅迫きょうはく肉体にくたいおそうようなものです。
だれでも、こうした光景こうけいるなら、生物せいぶついのちのとうとさをるものは、かみすくいをいのったでありましょう。正吉しょうきちも、こころのうちで、どうかたまのはずれるようにとねがっていました。
春はよみがえる (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしは、おまえをとろうとはおもっていない。わたしは、いまなにもたべたくない。しずかに、むかしのことをおもっていたのだ。はるからなつにかけては、わたしたち、生物せいぶつは、だれもかれも幸福こうふくなものだった。
冬のちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)