狛犬こまいぬ)” の例文
ここの御社の御前の狛犬こまいぬは全く狼のすがたをなせり。八幡やわたの鳩、春日かすがの鹿などの如く、狼をここの御社の御使いなりとすればなるべし。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
徳永が嘆願する様子は、アラブ族が落日に対して拝するように心もち顔を天井に向け、狛犬こまいぬのようにうずくまり、哀訴の声を呪文のように唱えた。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
左側に御手洗、金燈籠、石燈籠、狛犬こまいぬが左右に建ち並んで、それから拝殿のひさしの下にくっつくようになって天水桶があった。その天水桶は鋳鉄いものであった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
まだそのそばにも何かくわの先にあたるものがあるので、更にそこを掘り下げると、小さい石の狛犬こまいぬがあらわれた。
こま犬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
巨財を貯えた四十の地下室は沙漠の砂丘を頭に戴き肩のほとりに秘密の入り口——すなわち狛犬こまいぬに守られたところの不思議なやしろを保ったまま落ちる夕陽
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その内に御影みかげ狛犬こまいぬが向い合っている所まで来ると、やっと泰さんが顔を挙げて、「ここが一番安全だって云うから、雨やみ旁々かたがたこの中で休んで行こう。」
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ときに親をわれて、ゆめでもみるように、なにかボウと考えこみ、石の狛犬こまいぬとならんでゆびつめをかんでいた竹童は、近よる足音にハッとして目をそらした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大鳥居から、狛犬こまいぬの石像にかけて、「若松金物商かなものしょう組合」という、紺の幕が張りめぐらしてある。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
後からあとから人集ひとだかりでしょう。すぐにざぶり! 差配おおやの天窓へ見当をつけたが狛犬こまいぬ驟雨ゆうだちがかかるようで、一番面白うございました、と向うのにごり屋へ来て高話をしますとね。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
華表とりいの形や社殿しゃでんの様式も寺の堂宇どうう鐘楼しょうろうを見る時のような絵画的感興をもよおさない。いずこの神社を見ても鳥居を前にした社殿の階前にはきまって石の狛犬こまいぬが二つ向合いに置かれている。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
眼をかえすと、狛犬こまいぬだの、御所車ごしょぐるまだの、百度石だの、燈籠だの、六地蔵だの、そうしたもののいろいろ並んだかげに、水行場すいぎょうばのつづきの、白い障子を閉めた建物の横に葡萄棚が危く傾いている。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
ムクは心得て、早くもお堂の前に大きな狛犬こまいぬの形をして坐り込んでいる。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
町子まちこにはかにもののおそろしく、たちあがつて二あしあし母屋おもやかたかへらんとたりしが、引止ひきとめられるやうに立止たちどまつて、此度このたび狛犬こまいぬ臺石だいいしよりかゝり、もれ坐敷ざしきわさぎをはるかにいて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
左右には二郎、三郎の二人の息子が狛犬こまいぬのようにならんでいる。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
牌楼パイロウの影は日向ひなたしづかなり狛犬こまいぬが見ゆうしろなで肩
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
足の短い狛犬こまいぬはポチに噛ませてやりませう
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
本尊様と狛犬こまいぬのように、常に、曹操のいる室外に立って、爛々らんらんと眼を光らしている忠実なる護衛者の典韋は
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お敏は薄暗がりにつくばっている御影みかげ狛犬こまいぬへ眼をやると、ほっと安心したような吐息をついて、その下をだらだらと川の方へ下りて行くと、根府川石ねぶかわいしが何本も
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
緑地は住みよさそうに思われた。常磐木の間にほこらがある。石の狛犬こまいぬがその社頭に二匹向かい合って立っている。「沙漠の老人」と土耳古トルコ美人とは私を祠へつれて行って私に拝めと云った。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
空腕車からぐるまきつけて、しゃがんで、畜生道の狛犬こまいぬ見るよう、仕切った形、にらみ合って身構えた、両人とも背のずんぐり高い、およそ恰好かっこう五十ばかりで骨組のたくましい、巌丈がんじょうづくりの、彼これ車夫。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたしたちは、そこに木のかげ一つ宿さない、ばさけた、乾いた大地の、白木の小さなやしろと手もちなくむかい合った狛犬こまいぬとだけ残して、くうに、灰いろにただひろがっているのをみるだろう。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
怪しげな呂律ろれつで取留まりもなく言いました。そうして酔っぱらい並みに頭をグタリと下げたり、怪しげな手つきをして、その手をすぐに膝の上へ持って来て、狛犬こまいぬのような形をしたりしていました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、石の狛犬こまいぬのそばに立って、のびをしながら、げたもののうしろ姿を見おくっているようす。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御影みかげ狛犬こまいぬが並んでいる河岸の空からふわりと来て、青光りのする翅と翅とがもつれ合ったと思う間もなく、蝶は二羽とも風になぐれて、まだ薄明りの残っている電柱の根元で消えたそうです。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
眼をかえすと、狛犬こまいぬだの、ごしょぐるまだの、百度石だの、灯籠だの、六地蔵だの、そうしたもののいろ/\並んだかげに、水行場みずぎょうばのつづきの、白い障子をたてたうちの横に葡萄棚ぶどうだなが傾いている。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
見ると、許褚きょちょが、狛犬こまいぬのように、剣をつかんで、番に立っている。とがめるのはもちろん彼である。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その飼主の顔も、狛犬こまいぬに劣らない獰猛どうもうな容貌をそなえていた。顔に、しわの彫りが深く、五十歳がらみに見えるが、骨太な体は、もっと若い、いや若い者にもめずらしいほど精悍せいかんである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
師直は、主君のそばへ、狛犬こまいぬのようにすり寄りかがまって。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
石の狛犬こまいぬに手をかけてびあがりながら——。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
狛犬こまいぬと間違えなさるな」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)