さい)” の例文
さいと云う雑誌の同人だと云う、若い青年がはいって来た。名前を紹介されたけれども、秋声氏の声が小さかったので聞きとれなかった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
けだし聞く、大禹たいうかなえて、神姦鬼秘しんかんきひ、その形を逃るるを得るなく、温嶠おんきょうさいを燃して、水府竜宮、ともにその状を現わすを得たりと。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
信州のさい川水域では、今でも一般に白頭翁をチゴチゴと呼んでいるが、果してチゴが童児であることを、意識しているか否かは疑わしい。
巌の隙間すきまに棲み番兵を置いて遊び歩き岩面を走り樹に上るは妙なり、その爪と見ゆるは実はひづめで甚ださいの蹄に近い(ウッド『博物画譜イラストレーテッド・ナチュラル・ヒストリー』巻一)
地質時代に朝鮮ちょうせんと陸続きになっていたころに入り込んでいた象やさいなどはたぶん気候の変化のために絶滅して今ではただ若干の化石を残している。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
込地となればいくほどもなく、麻績川はさい川に流れ入る。山清路の景は、ここにひらける。川を流す材木とむる鳶口とびぐちが雪の途上によこたわっていた。
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
今朝、野部のべを立った信玄の大兵は、天龍川をわたり大菩薩だいぼさつを経て、なおその行軍態勢をつづけながら、午下ひるさがりの頃、さいたにの前面へかかって来た。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「虎もさいもばかやつらだし、あの毛唐けとうもばかやつらだ、こんなに肝煎きもいったこたありゃしねえ、ええつまんねえ、出べえや、なあ、出ちまうべえよ先生」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
朝の風が、きび畑をひたす出水のうえを渡り、湿原で鳴く、印度さいの声を手近のように送ってきます。
一週一夜物語 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
崖には杉の大木にまじって象皮色のけやきの幹が枝をひろげ、こぶだらけのいたやはさいのように立ち、朽ちはてたえのみはおおかた枝葉を落しつくして葛蘿かずらにまかれている。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
獏は哺乳類のうちの奇蹄目きていもくで獏科の動物だ。形はさいに似て、全身短毛をもっておおわれ、尾は短く、鼻及び上唇は合して短き象鼻ぞうびの如くサ。前肢まえあしに四、後肢に三趾を有す。
獏鸚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あるひなはをなつたようなかたちともなり、またさいかはるようにおほきなひだつくることもある。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
明科あかしな停車場を下りると、さい川の西に一列の大山脈がそばだっているのが見える、我々は飛騨山脈などと小さい名を言わずに、日本アルプスとここを呼んでいる、この山々には、名のない
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
執心しゅうしんに洗いつつあった米友の手をはなれて、しかもこれが尋常に取外したとか、取落したとかいうほどのものでなく、さいが月をもてあそんで水が天上に走るような勢いで、宙に向って飛んだのだから
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
時に棟に通ずるくだん階子はしごを棟よりして入来いりきたる、岩代国いわしろのくに麻耶郡まやごおり猪苗代の城、千畳敷のぬし、亀姫の供頭ともがしら、朱の盤坊、大山伏の扮装いでたち、頭にさいのごとき角一つあり、まなこつぶらかにつらの色朱よりも赤く、手と脚
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ハンタアという学者はにわとりのけづめを牡牛おうしの首に移植したし、有名なアルゼリアの「さいの様な鼠」と云うのは、鼠の尻尾しっぽを鼠の口の上に移植して成功したのだが、僕もそれに似た様々の実験をやった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
北にさい千曲ちくま
県歌 信濃の国 (新字新仮名) / 浅井洌(著)
とらさいもばかやつらだし、あの毛唐けとうもばかやつらだ、こんなに肝煎きもいったこたありゃしねえ、ええつまんねえ、出べえや、なあ、出ちまうべえよ先生」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
比較的新しい地質時代まで日本が対馬つしまのへんを通して朝鮮と陸続きになっていたことは象やさいの化石などからも証明されるようであるが、それと連関して
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
金翠きんすいぬいキラやかな戦袍せんぽうに、武長官の剣帯けんたいをしめた腰細く、さいつの(これを吹いて軍を指揮する)をあわせて飾り、萌黄革もえぎがわの花靴の音かろやかに歩きよって来
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奇趾類とはその足趾の内、人間の中指に相応するやつが左右整等で、その他のどの趾よりも大きいので、ここにチタノテレス(全滅)、馬類、ばく類、さい類の四部あり。
喊声かんせいがあがる。見ると、さいの角の一本前立てうったかぶとに、黒糸おどしのよろいをつけた武者が、馬上に三尺二寸(一メートルたらず)の大太刀をふりかざしつつ
だんまり伝九 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
獅子の如き木獣、虎の如き木獣、つののあるさいの如き木獣など、どれもこれも怖ろしく大きくて魁偉かいいである。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さいというものがどうにも不格好なものである。しかしどうしてこれが他の多くの動物よりもより多く「不格好」という形容詞に対する特権を享有することになるのか。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
インドでさいを闘わすにその毛を諸色で彩った、今も象をさようにするとあり。
と、身によろいを着けて、馬上からさいの笛を吹いた。そしてたちまち調練場の兵舎から馳け集まって来た一隊をひきいて、遠くもあらぬ劉高の官邸へせて行った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あんな化けそこねのさいみてえなやつに負けなさるなんて、まったくわけがわからねえ」
だんまり伝九 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さいについて言われることは人間の思想についてもほとんど同じように言われはしないか。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
野干これに逢うて訳を聞くと大きな音がしたという、野干大いに懼れて逃げ走る、猴これに逢うて大音したと聞きまた逃げ出す、ガゼルが猴に逢い野猪が麞に逢い、次は水牛、次はさい、次は象
赤毛の南蛮牛の背に、緬甸金襴ビルマきんらんいて花梨鞍かりんぐらをすえ、それにまたがった孟獲は、身にさいかわよろいを着、左に楯をもち、右手には長剣を握っていた。正に威風凛々りんりんである。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
象やさいの先祖が大陸からの徒歩旅行の果に、東端の日本の土地に到着し、現在の吾々の住まっているここらあたりをうろついていたということは地質学者の研究によって明らかになった事実である。
短歌の詩形 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
深さ十八尺もあろう崖をのぞく、清冽せいれつな水がながれている。そこをさいたにという。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いずれから行くも、落会う先は、さい、千曲の流水ながれを遠からず、川中島のあたりと知れ。十六日の夕までには、謙信はかならずそこに着陣せん。べつの道を行く者共も、その時刻におくるるな」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さいたに附近の敵へ鉄砲を撃ちこんで帰って来た。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)