片端かたっぱし)” の例文
そんな奴はイクラ助けても帰順する奴じゃないけに、総督府の費用を節約するために、ワシの一存で片端かたっぱしから斬りすてる事にしておった。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
秋に収穫すべき作物は裏葉が片端かたっぱしから黄色に変った。自然に抵抗し切れない失望の声が、黙りこくった農夫の姿から叫ばれた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
真事は戸田だの渋谷だの坂口だのと、相手の知りもしない友達の名前を勝手に並べ立てて、その友達を片端かたっぱしから批評し始めた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
男女の雇人を十五人も置いて贅沢三昧ぜいたくざんまいに暮らしている、あるじの持助はまだ二十五六だが、どんなに金満家なのか木山という木山を片端かたっぱしから買いあさり
よくなる片端かたっぱしからこわしているんですもの。だから、わたし、自分をよく金魚のようだと思うことがあるわ。
機関車 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
学校を出てから——その学校とても一年に何日と勘定の出来る程しか出席しなかったのですが——彼に出来そうな職業は、片端かたっぱしからやって見たのです、けれど
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ただ、かわいそうにげまどうやつを片端かたっぱしからやっつけてしまうのです。本当ににくいたらありゃしません。
柏木かしわぎには危険人物がある、大杉一味の主義者を往来へならべて置いて、片端かたっぱしからピストルでストンストン打ったら小気味こきみかろう」とパルチザン然たる気焔きえん
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
と、さも気の毒そうな顔をして、黄色い声で、口先で世辞とも何とも付かぬことを言いながら追立てるように、其処等のものを片端かたっぱしからさっ/\と形付け始めた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
白い手を挙げ、とさして、ふもとの里を教うるや否や、牛はいかずちのごとく舞下まいさがって、片端かたっぱしから村を焼いた。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だから若い人々は、これから必要がおこるであろうと思う歴史を、今のうちにおぼえて置こうとしているのであるが、それを片端かたっぱしからみな覚えるというわけには行かない。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
朝は粥にして、玉蜀黍とうもろこしおぎない、米を食い尽し、少々の糯米もちごめをふかし、真黒い饂飩粉うどんこ素麺そうめんや、畑の野菜や食えるものは片端かたっぱしから食うて、粒食の終はもう眼の前に来ました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
遂に乱暴狼藉に反対し合理的の民権自由を主張した者は片端かたっぱしより断頭台上の人となされた。
デモクラシーの要素 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その俺だ、こんなのらくらした探偵事件は仏蘭西フランスの俺に堪え得る事ではない。俺はオギャアといって、この世に生れて以来、善悪ともに片端かたっぱしから手ッ取り早くかたづけたものだ。
なに、まさかそれほどでもあるまいが、まあ、すべての地廻りを片端かたっぱしから悩殺し、やきもきさせ、自殺させ蘇生させ日参させ——その顔は何度となく三文雑誌の表紙と口絵と広告に使われ
先生の気焔きえん益々ますますたかまって、例の昔日譚むかしばなしが出て、今の侯伯子男を片端かたっぱしから罵倒ばとうし初めたが、村長は折を見て辞し去った。校長は先生が喋舌しゃべくたぶれい倒れるまで辛棒して気燄きえんの的となっていた。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いとど得意とくい面持おももち天狗てんぐさんはそうって、つづいてにせるえだをば、あたかもそれが芋殻いもがらでもあるかのように、片端かたっぱしからいきむしってはて、むしってはて、すっかり粉々こなごなにしてしまいました。
まだ七十近い先代の主人が生きていて、隠居為事しごとにと云うわけでもあるまいが、毎朝五時が打つと二階へ上がって来て、寝ている女中の布団を片端かたっぱしからまくって歩いた。朝起は勤勉の第一要件である。
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
コンナ連中を片端かたっぱしからタタキたおして、逃げ出すくらいの事は何でもないとも思ったが、親方の死骸を見ると妙に勇気がくじけてしまった。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
箪笥たんすの引出しを一生懸命にたずねていらっしゃるし、おとうさんは涙で曇る眼鏡めがねきながら、本棚の本を片端かたっぱしから取り出して見ていらっしゃいます。
僕の帽子のお話 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
画の画伯方せんせいがたの名を呼んで、片端かたっぱしから、やつがと苦り、あれめ、とさげすみ、小僧、と呵々からからと笑います。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伯父はそうした異国趣味のエロ商売で、日本に亡命して来る印度インドの志士や、潜入して来る各国のスパイ連を片端かたっぱしから軟化させているという噂だ。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
借金でも何でもッつけッちまえ。しゃくに障ったら片端かたっぱしから弾飛はねとばせ。一般の風潮で、日本にれられなかったら、二人で海外に旅行するさ。それでもけなけりゃ、天に登るこッた。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
登場俳優を片端かたっぱしから生死のドタン場にまで飜弄しようとしている運命の魔神の、お目見得めみえの所作に外ならなかったのだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
屏風びょうぶを立てて、友染の掻巻かいまきでおねんねさせたり、枕を二つならべたり、だったけれど、京千代と来たら、玉乗りに凝ってるから、片端かたっぱしから、姉様あねさまも殿様も、あかい糸や、太白で、ちょっとかがって
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むろん頭山満も貧乏の天井を打っている時分だ。俺にも相談だけはしてくれたが、三月みつきしばり三割天引という東京切ってのスゴイ高利貸連を片端かたっぱしから泣かせて
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
斯様かような微細な点に着眼して、附近に住む両切煙草の使用者を片端かたっぱしから調べ上げた箱崎署の根気と苦心は実に惨憺たるものあり……云々という記事であったが
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
片端かたっぱしから迷宮にい込んだのだろう……なんかと思い思い、そんな迷宮事件や尻切蜻蛉しりきれとんぼ事件の一つ一つを点検して行くと、目星めぼしい記事がタッタ一つ見付かった。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それにつれて濡れた砂が日光にさらされると片端かたっぱしから白く乾いて行った。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鳥かけもののブラ下がったのを片端かたっぱしから引き落して駈け抜けると、今度はその次の反物市場に躍り込み、絹や木綿を引き散らして窓やながえや方々に引っかけ、穀物の市場では米麦や穀類を滝のように浴び
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
精神病者を魔者にかれたものとして、片端かたっぱしからき殺している光景を描きあらわしたもので、中央にりまする、赤頭巾に黒外套の老婆が、その頃の医師、兼祈祷師、兼卜筮者うらないしゃであった巫女婆みこばばあです。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
気に入らない奴は片端かたっぱしからガミつける。処嫌わずタタキつける。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)