ため)” の例文
おまっちゃんは糸で編んだ網に入れてある、薄い硝子ガラスの金魚入れから水がって廻るように、丸い大きな眼に涙を一ぱいためこらえていた。
坊主ばうずめうな事をふて、人の見てまいでは物がはれないなんて、全体ぜんたいアノ坊主ばうず大変たいへんけちかねためやつだとふ事を聞いてるが
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ため辛苦しんくの程察し入る呉々もよろこばしきことにこそして其のくしは百五十兩のかたなれば佛前へそなへて御先祖其外父御てゝごにも悦ばせ給へと叔母女房ともくち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それは畑に掘つたためまで運ばれねばならぬ。しかし彼女は組合の方にかかりきりになつたわけではなく、畑仕事から解放されたわけでもなかつた。
続生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
「河なものかまるでためだわ……!」隅田川の風景も、もう彼女には他人であった。「きっと河は深いんだろうねえ」ゾッとするようなことを考えた。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……けれど、犯罪の湧くゴミためは、ここにあると仰っしゃって、梅毒の流行やら、いろいろな不幸の禍因を、捨ててはおけぬと、考えておられるようだ
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下水のためがある。野菜畠も造ってある。縁側に近く、大きな鳥籠とりかごが伏せてあって、その辺には鶏が遊んでいる。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と庄屋の長左衛門が、駕籠の見えなくなった時、太郎右衛門に言いますと、太郎右衛門は眼に涙を一杯ため
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
ために寄った方が水道尻すいどうじり、日本堤から折れて這入はいると大門おおもん、大江戸のこれは北方に当る故北国ほっこくといった。
うす暗いじめじめしたごみためのような編集室の隅で、椅子の上にあぐらをかいて、ねじり鉢巻で、茶碗酒をあおりながら、ばりばりがりがりとペンの音をさせながら
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
十日もためし草を一日にやいたような心地して、尼にでもなるより外なき身の行末をなげきしに、馬籠まごめに御病気と聞く途端、アッと驚くかたわらおろかな心からは看病するをうれし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこいらのゴミためや、よその畠から失敬して来た材料にアニリン塗料とサッカリンで色と味を附けた、ちょっと口あたりのいい料理を作るのが芸術界の大勢になって来る。
路傍の木乃伊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「暑い夏の夜市中を通っておるとむくむくと物のにおいが鼻をく、肴屋さかなや果物屋くだものやも酢屋もまたごみための匂いも交って鼻を衝く。空にはうん気につつまれた夏の月が出ております。」
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
われさぶし噴出ふきでの清水大き桶のためあふれゐるそればかり見る
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
お貞はためいきをもらしたり。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ために行こう。」
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
御渡しなされて下されましと金子きんす二分を渡しけるに非人共は受取千人ための方へゆくれ/\傳助や彼の富右衞門とやらのくびを知てるかと聞て馬鹿ばか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
また、ちょっと見たのではための表皮一面、はえの上に蠅がたかって、まるで黒大豆でも厚く敷いたような密度だから糞色ふんしょくも見えずこえの匂いもしないのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大阪でためて来た金は、九女八が、何か計画して考えていたことには用いられず、終焉しゅうえんの用意となってしまったのだが、台助は、そんな予感がしたのかどうか、ふいと
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
お父さんやお母様がいけないとおっしゃった事を他のものに云い、付け口をするのは悪い事のように思いましたので、只顔を真赤にして眼に泪を一パイためてうつむきました。
キキリツツリ (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
風呂桶ふろおけが下水のための上に設けてあるということは——いかにこの辺の人達が骨の折れる生活を営むとはいえ——又、それほど生活を簡易にする必要があるとはいえ——来て見るたびに私を驚かす。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鰊粕あぶらのり来るためおも雨は沁まずてはねてちりつつ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
つまとして其上五ヶ年の奉公に金子をため實體じつていなる行ひにかんじ村中の者地頭ぢとうに願ひ村長にしたるにまた/\憑司へ歸役きやく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と、いきなり彼の脚元へ身を這わせ、虻を打つと見せて、片脚をすくいかけた。すくわれたら後ろのためへもんどりは知れたこと。智深は無意識に体をねじッた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この砦の弱点は、確かに、市松が眼をつけたその飲料水のためにあった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ために沈没した仲間のチンピラを、どうやって救いあげて帰ったろうか。想像してみるだけでも智深にはおかしい。どうもこの畑番、至極退屈な役と思っていたが、とんだよい景物が近所に見つかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)