そり)” の例文
そりに乗ると、「カロリーナ・イワーノヴナのところへ!」と馭者に命じておいて、自分はじつにふっくらと温かい外套にくるまると
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
それには例の工学博士バクスターの案で、食堂の大テーブルをさかさまに倒し、それをそりとなしたので運搬うんぱんはきわめて便利であった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そこで真暗い中でそりの準備をして出発したが、なかなか寒かった。何と云う村であったかそこで食事をして、夜明けになって出発した。
母親に憑る霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼の中隊が、そりでなく徒歩でやって来ていたならば、彼も、今頃、どこで自分の骨を見も知らぬ犬にしゃぶられているか分らないのだ。
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
ところどころに魚を釣る穴があいて、そりのあとが無数に光っている。バイカルは一日汽車の窓にあった。タタルスカヤで粉雪ふる。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
しばらくフヰンランドへ行っていられて、馴鹿トナカイそりの話などして呉れました。長身で整った身体に鳶色とびいろのジャンパーを着ていました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そりもなければ、犬もいない。歩きなれない氷上を、一行は小暗こぐらいカンテラの灯をたよりにして、一歩一歩敵地にすすんでいった。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
弁護士、大日向、音作、銀之助、其他生徒の群はいづれも三台のそり周囲まはりに集つた。お志保はあをざめて、省吾の肩に取縋とりすがり乍ら見送つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
多くの木挽こびき等が雪の深山に椴松とどまつ蝦夷松えぞまつの切り倒されたのを挽き、多くの人夫等がそれをそりで引き出すところに飛んで行く。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
まるで温泉が地面に湧いていて、その湯気が雪の厚い層を通して吹きあがってくる、そうとしか見えないのに、おかしいなとそりを飛ばした。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
いよ/\死ぬ十日前頃には、今度はそりに乗って、ヤーフどもに引かせて、ごく近所の人たちだけに答礼に出かけてゆきます。
あの土人どもの無智な一図いちずの活動はむしろ峻烈極まったものだった。映画で見る樺太犬のそり引きとたいして違いはなかった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
みると、そこを横切ってゆく数台のそりがみえる。来た、来た。乾魚や海象の肉をつめた箱を小楯に、一同は銃をかまえ円形をつくったのである。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
『三頭立のそり』は古い吹込みだが、曲の美しさを以て、『真夏の夜の夢』は吹込みの新しさと演奏のすばらしさが特色だ。
雪原の割れ目などでも、そりで乗り越して行く時にくずれるさまなどから、その割れ目の状況や雪の固まりぐあいなどが如実に看取されるのである。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
かれ泥行でいかうの用なれば雪中に用ふるとは製作せいさくことなるべし。そりの字、○そりそりそり秧馬そり諸書しよしよ散見さんけんす。あるひは○雪車そり雪舟そりの字を用ふるは俗用ぞくようなり。
これから総出の遠乗りが企てられることになっている——数台のそりで、鈴を鳴らし鞭をうならせながら、山へ遊びにゆくことになっているのである。
トリスタン (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
よろよろしながら牛部屋へはいって来て、そこにあるそりの中に着物も脱がずに倒れると、すぐさまいびきをかきはじめた。
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そりで方々乗りまわしたり、丘の上から谷へ滑っておりたり、いろんな雪達磨を作ったり、雪のとりでを築いたり、雪合戦をしたりすることが出来るのだ!
病に疲れてものうく、がさして、うっとりとして来るにつれて、その嫁入衣裳のキレは冷たい真白まっしろな雪に変る。するとそりの鈴の音が聞えて来る。
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
そこで村の道路から、そしてごくたまにしか聞こえないそりのベルの鳴る音から遠くはなれてわたしは滑りまわった。
小学校の子供たちが、本と弁当とを載せた小さいそりを引っぱって、笑ったり、わめいたりしながら、その高みにある学校から、ゾロゾロと帰って行った。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
牡牛の腹脇には鈴をつけた長い紐が下っているので、歩き廻るにつれ、ジャランジャランいうニューイングランドのそりの鈴を連想させるような音がする。
そりに乗せてもらって寒そうにあるいていては、まさか名聞にも伊勢参宮を致しますとは言えまいし、そのうえに附句の一歩だの丁百の銭だのというのが
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それから一足をそりに、一足を山羊やぎの背に載せて走らせ、満月の昏時くれどき、明とも暗とも付かぬうちに王宮に到った。
雪中の交通といえば、今は鉄道にはラッセル車もあり、ロータリ車もあり、人間の交通のためにはスキーもあり、山の中から木材を運ぶためにはそりもある。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
犬とそりとによる極地の探検は、もう旧時代のものであつて、今後は飛行機によつてなされなければならない、といふのが、多くの探検家の意見でありました。
北極のアムンセン (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
冬のことだったがな、そりの中の暗闇にまぎれて、おれは隣りに坐っていた娘の手を握りしめにかかったんだ、その娘にひとつ接吻を許させようと思ったのさ。
実際この内儀さんのはしゃいだ雑言ぞうごんには往来の人たちがおもしろがって笑っている。君は当惑して、そりの後ろに回って三四間ぐんぐん押してやらなければならなかった。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これらの山々から瞰下みおろされて、乾き切っている桔梗ヶ原一帯は、黒水晶の葡萄がみのる野というよりも、そりでも挽かせて、砂と埃と灰の上を、駈けずって見たくなった。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
人一人をやっと坐らせるくらいの大きさの箱をそりに取りつけ、上に母衣をかけたもので、厚い座敷団を敷き、毛布で達磨さんのようにくるまって、火鉢でも抱えていれば
春雪の出羽路の三日 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
木の枝をそりの代用とし、之に荷物と自分を載せ、綱を付けて人夫に曳き下らせるとよい。尤もスキーの出来る人ならば滑降も自由であるが、夫には勾配が少し緩いであろう。
白馬岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
と思ったも束の間、敵もさる者、声も立てず顔の形にも触らせずにするりと振り切る。倒れながらも藤吉袖口を握った。走り出す男。小兵の藤吉、そりのように引きずられた。
頬を脹らして顔を洗つて居ると、頼んで置いた車夫がそりいて来た。車夫が橇を牽くとは、北海道を知らぬ人には解りツこのない事だ。そこ/\に朝飯を済まして橇に乗る。
雪中行:小樽より釧路まで (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
医者は多少の財産があるのか、夏は温泉で遊び冬はそりを走らして遠い町へ遊びにでかけた。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
憐れな老馬にかせてゆくそりの人が、こんな夜に迷っている通行人を怪しむように見返りながら通った。ヘルマンは外套で深く包まれていたので、風も雪も身に沁みなかった。
自分の心は頁の上にくぎづけにされた。しかも雪を行くそりのように、その上をすべって行った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふふん、さてはハウス・ゾンネンシャインの連中だな。鏡の中に映らないが、自動車が何か引きずってゆく音がする、何だい? といたら、そりですよ、と親方は無雑作に答える。
雉子日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ちょうど牛の脊を渉るよう、抜足ぬきあしをして歩いた。私が先に立って、母が後から来る。この頃は、昼前にそりが通るが、通った跡でまた吹雪がしてその跡を掻き消してしまうのである。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
虐使され或は北アラスカの荒涼たる氷原にそりを引き、或は愛犬家に撫育されて人の感情に鍛えられ、文化や野蛮の間に彷徨しながら、遂に天性の野獣性が眼覚め、狼群の長となる
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
北米寒地のインデアンは、食糧に困ってくると、そり犬の皮まで食ってしまうという話であるから、私は猫の皮を塩漬けにでもし蓄えて置こう。肝臓その他の腸は、焼鳥の材料に——。
岡ふぐ談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「さア村の人たち、犬にそりを引っぱらせて、たっぷり一日ばかり僕の足跡をつけてさがしにゆくがいいよ。氷の上に肉が沢山あるはずだ——雌熊めすぐまが一匹、おとなになりかけの子熊が二匹だ」
負けない少年 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
彼は泉水の上を、雲から雲へ、白いそりのように滑る。なぜなら、彼は、水の中に生じ、動き、そして消えせる綿雲だけに食欲を感じるからである。彼が望んでいるのは、その一きれである。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
少年が少女をそりに誘う。二人は汗を出して長い傾斜をいてあがった。そこから滑り降りるのだ。——橇はだんだん速力を増す。首巻がハタハタはためきはじめる。風がビュビュと耳を過ぎる。
雪後 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
ストレチーにしたがえば、一五九四年六月、三人の男はそりにつながれて、ホルボオンの博士邸の前を通ってチパーンの刑場にかれてゆく。この見世物を楽しもうとして、数万の群集がつどう。
せいばい (新字新仮名) / 服部之総(著)
銀の鈴の附いたそりに乗りにく。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そりを引かせて雪の野に
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
そりが来る
朝おき雀 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
船もなければ、そりもない。到底とうてい日本へはかえれまい。丁坊はそれをはっきり知らないのだろうと、蔭で涙ながして気の毒がる隊員もあった。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
で、農作は絶え、畜産は滅び、食糧には窮乏して来た。従って、結氷期にでもなると、幌内川をこぞって南下しかねないという。そりを駆ってだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)