格好かっこう)” の例文
「これでは、しかし、懇談ができそうにもないね。一たい君らは、村の青年団で懇談会をやる時にも、こんな格好かっこうに集まるのかね。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そこには枝をひろげたシロマツの下の、たいへん奥まった日蔭になったところに、坐るに格好かっこうなきれいな堅い芝土がまだあった。
「間違ったのだよ。何時でも風呂から先に出て来るのはお房の方だし、身体の格好かっこうがよく似ている上に、お仕着せまで同じだ」
その自分の姿が、いかにも不幸で孤独こどくわびしげな一個の若者といった格好かっこうなので、しまいには、我と我が身がいじらしくなってくるのだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
おに七と呼ばれてはいるが、名前なまえとはまったくちがった、すっきりとした男前おとこまえの、いたてのまげ川風かわかぜかせた格好かっこうは、如何いかにも颯爽さっそうとしていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「へい、私の名は鴫丸しぎまるというんで」こう答えたのは片耳のない、大兵だが魯鈍ろどんらしい男であった。年格好かっこうは二人ながら、二十七、八歳と思われる。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
したがっても薄かった。けれども鞘の格好かっこうはあたかも六角のかしの棒のように厚かった。よく見ると、つかうしろに細い棒が二本並んで差さっていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
十一時の休憩時間に小使いの関さんが武蔵坊弁慶むさしぼうべんけいのような格好かっこうをしてはいってくる。兵隊あがりの名物男だ。石炭を持っている時はことに評判がいい。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
みなりもお嬢さんみたいだし、髪の格好かっこうだってそうだ。駄目だめだよ、それじゃ。身のほどを知らなくちゃ。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「なに? パラソル? あの、紫色の、へんつくりんな格好かっこうの蝙蝠が?」と春吉は、驚きの眼をみはった。
駈落 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
芝生しばふを隔てて二十けんばかり先だから判然しない。判然しないが似ている。背格好かっこうから歩きつきまで確かにたけしだと思ったが、彼は足早に過ぎ去って木陰こかげに隠れてしまった。
二老人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
清らかにしなければならんのだが、あんまり清らかでねえことさ、これでその日を送る身の上、行灯あんどん提灯屋ちょうちんやるとぜにを取られるから僕が書いた、鍋の格好かっこうよろしくないが
その時、髪の白い、背の高い、勇健な体格を具えた老農夫が、同じ年格好かっこうな仲間と並んで、いずれも土のい入った大きな手に鍬を携えながら、私達の側を挨拶して通った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
老人がこう云いかけた時に、いその方から三人の仲間の塩汲しおくみがあがって来ました。三人のうちの一人は、十三四歳の小供でありました。前には四十格好かっこうの高い男がおりました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは、じつに怪奇というかグロテスクというか、すさまじい格好かっこう色合いろあいのものであった。全長は一メートルよりすこし長いくらいで太短かい。上半身は大きいが、下半身が発達していない。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
細い高い鼻と格好かっこうのよい口元は、決して醜い感じを与えないのみか、むしろ美しくあるべきなのだが、生気のまったく見えぬその容貌には、なんとなく不気味な感じさえ現われているのである。
黄昏の告白 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
康頼 (沖を凝視ぎょうしす)あれはみやこから来た船だ。(なぎさに走る)あの帆柱ほばしらの張り方や格好かっこうはたしかにそうだ。いなかの船にはあんなのはない。(波の中に夢中でつかり、息をこらして船を見る)
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「少しは、格好かっこうを話さなければ、所詮、耳をかす男ではないもの」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうも田舎いなかだから、格好かっこうなところがなくって……」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それで運転手は頭を下げた格好かっこうになった。
記憶 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
声だけは、いかにも蝉らしかったが、からだのほうは、まるで小牛が身ぶるいしているような格好かっこうだった。みんな腹をかかえて笑った。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
キツツキが幹のかげから、心配そうな顔を右に左にのぞかせる格好かっこうは、コントラバスの首の陰から楽師が首をのぞかせる様子にそっくりだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
そこでわれわれは、神話を改訂したり、寓話のそこここを磨きあげたり、地上に格好かっこうな土台が見あたらない空中楼閣を建てたりしてはたらいた。
どうしたものか四十格好かっこうの男、急に駄弁を途中で封じ、ゾロゾロ通っている人ごみの方へ、吃驚びっくりしたような眼を向けた。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その衝立には淡彩たんさいの鶴がたった一羽たたずんでいるだけで、姿見のように細長いその格好かっこうが、普通の寸法と違っている意味で敬太郎の注意をうながした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ふふ、らんとえるの。このようによううつ格好かっこうを、せようとおもとるに。——」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
けれどこの時ほど父の姿がわたしに、すらりと格好かっこうよく見えたこともなかったし、その灰色の帽子が、こころもち薄くなりかけた捲毛まきげの上に、すっきり合って見えたこともなかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
その時同僚は、一口に説明のできる格好かっこうな言葉をっていなかったと見えて、まあ禅学の書物だろうというような妙な挨拶あいさつをした。宗助は同僚から聞いたこの返事をよく覚えていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見ると荒田老は両腕りょううでを深く組み、その上にあごをうずめて、居眠いねむりでもしているかのような格好かっこうをしていた。ほかの人たちの中にも、頭を椅子いすの背にもたせて眼をつぶっているものが二三人あった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
二十歳はたちぐらいの年格好かっこうである。快活で無邪気で大胆らしい。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「おせんがちゃをくむ格好かっこうじゃ、はよたがいい」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
去るほどにその格好かっこうたるやあたかも疝気持せんきもち初出でぞめ梯子乗はしごのりを演ずるがごとく、吾ながら乗るという字を濫用らんようしてはおらぬかと危ぶむくらいなものである、されども乗るはついに乗るなり
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助も二尺余りの細い松を買って、門の柱に釘付くぎづけにした。それから大きな赤いだいだい御供おそなえの上にせて、床の間にえた。床にはいかがわしい墨画すみえの梅が、はまぐり格好かっこうをした月をいてかかっていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)