柳原やなぎはら)” の例文
多紀氏ではこの年二月十四日に、矢の倉の末家ばつけ茝庭さいていが六十三歳で歿し、十一月にむこう柳原やなぎはらの本家の暁湖が五十二歳で歿した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その時分じぶんとうのおこのは、駕籠かごいそがせて、つきのない柳原やなぎはら土手どてを、ひたはしりにはしらせていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
其頃そのころ着手きての無いインパネスのもう一倍いちばいそでみじかいのをて雑誌を持つてまわる、わたしまたむらさきヅボンといはれて、柳原やなぎはら仕入しいれ染返そめかへしこんヘルだから、日常ひなたに出ると紫色むらさきいろに見えるやつ穿いて
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
やあ、えらいことりました。……柳原やなぎはらやけあとへ、うです。……夜鷹よたかよりさき幽靈いうれいます。……わかをんな眞白まつしろなんで。——自警隊じけいたい一豪傑あるがうけつがつかまへてると、それがばゞあだ。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「と、いって、まさか茣蓙ござをかかえて、柳原やなぎはらをうろつきもしねえのさ、ただね、手先きが器用なものだから、おのずと、この節お金が吸いついてならないというわけですよ、ほらね——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
取るわけに行かねえ、口だけは此處へ預けて、向う柳原やなぎはらから通つて居る始末さ
若松屋惣七とお高は、途中で駕籠を拾おうということになって、柳原やなぎはらの土手を筋違御門すじちがいごもんのほうへ歩き出したが、お高は、父が、あまりそっけないので、若松屋惣七に気の毒でならなかった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ハハハ、これではおたがいに浮ばれない。時に明日あすの晩からは柳原やなぎはらの例のところに○州屋まるしゅうや乾分こぶんの、ええと、だれとやらの手で始まるそうだ、菓子屋のげん昨日きのうそう聞いたが一緒いっしょに行きなさらぬか。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
とはうも出来でけた、それはさうと君は大層たいそう衣服きものうたな、何所どこうた、ナニ柳原やなぎはらで八十五せん、安いの、うもこれ色気いろけいの本当ほんたうきみなにを着ても似合にあふぞじつ好男子かうだんしぢや
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
柳原やなぎはらへ出る夜たかのひととせ、そりゃアとほうもない別嬪べっぴんで。ためしに買ってご覧なさい」「へいへい昨晩こころみました」「ああさようか、お早いことで」などというような会話もできる。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
柳原やなぎはらあつ街衢ちまた
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
赤門を出てから本郷ほんごう通りを歩いて、粟餅あわもち曲擣きょくづきをしている店の前を通って、神田明神の境内に這入る。そのころまで目新しかった目金橋めがねばしへ降りて、柳原やなぎはら片側町かたかわまちを少し歩く。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
柳原やなぎはら土手どてひだりれて、駕籠かごはやがて三河町かわちょうの、大銀杏おおいちょうしたへとしかかっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
右手、柳原やなぎはらの土手にそうて、供ぞろい美々しくお大名の行列が練って来る。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これに反して柳原りゅうげん書屋の名は、お玉が池の家が柳原やなぎはらに近かったから命じたのであろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
やみなかを、ねずみのようになって、まっしぐらにけて堺屋さかいや男衆おとこしゅうしん七は、これもおこのとおなじように、柳原やなぎはら土手どてを八つじはらへといそいだが、夢中むちゅうになってはしつづけてきたせいであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)