搦手からめて)” の例文
搦手からめては紀伊、葛城かつらぎ山脈などの山波をようし、いたるところの前哨陣地から金剛の山ふところまで、数十の城砦じょうさいを配していたことになる。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
追手おつては内山、同心二人、岡野、菊地弥六、松高、菊地鉄平の七人、搦手からめては同心二人、遠山、安立あだち芹沢せりざは、斎藤、時田の七人である。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
六段で二十四個、提灯山笠やまみたいである。パナマ丸は、あたかも、大手おおて搦手からめてを、軍兵によって護られた城郭のように、美しい。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
搦手からめては、天草灘の波濤が城壁の根を洗っている上に、大手には多くの丘陵が起伏して、その間に、泥深い沼沢が散在した。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
おしの、おたみの女連、彦太郎、千吉、文三という小ッちゃい子供連、これをよびあつめて搦手からめてから話をたぐりよせる。
西中門は城の搦手からめてである。いい日和で、四五日まえに降って消え残った雪が、道の左右にところどころ、日をうけてぎらぎらとまぶしく光っている。
竹柏記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
医王山は手に取るように見えたけれど、これは秘密の山の搦手からめてで、其処そこからのぼる道はないですから、戸室口とむろぐちへ廻って、のぼったものと見えます。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
搦手からめては大丈夫でございますが、海に向いた生田いくたの森が手薄でございます、早速、明日にも、あれへ柵をおかけになっておいた方が、安心でござります
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
灰色でなく、上部はそっけなく見せながら油断を見澄まして搦手からめてから人の愛着の情に浸み込もうとする狡智こうちの極のびを基調の地に用意しています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一本調子に搦手からめてばかり、五年も六年もついている陣笠連じんがされんとは歩調を一にしたくないからこう云うのであります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
富士の裾野から搦手からめてに廻るかも知れません。私がこう申すと、大将軍の御心を脅かすように思召されるかも知れませぬが、毛頭そのつもりはございませぬ。
肥った十六代様が、これを登るのは大変だろうと思ったが、あとで聞けば何のことだ。別に裏山づたいの搦手からめてがあって、これならば、車が玄関まで行ける。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
遠戸と近戸は近世の語でいえば大手と搦手からめてであって、関東地方では遠戸神・近戸神という神様が無数にある。奥羽の方へ行けば近戸森、遠戸森と変形する。
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
倉皇そうこうとしながら土の埃の街道ににじり出て、かしらも低く平伏したのを小気味よげに見下ろしながら、わが退屈男はやんわりと皮肉攻めの搦手からめてから浴びせかけました。
よく搦手からめてを守りおおさせたいわゆるオカミサンであったのであるし、それに元来が古風実体こふうじっていたちで、身なりかみかたちも余り気にせぬので、まだそれほどの年では無いが
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それが噺の勉強をしようためのあらゆる大手搦手からめての城門はピタリと自分が閉めてしまっておいて、辛い目にだけいろいろあわして、早くお前早く真打になんなったって、そんな
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
大手おおて搦手からめてから攻めが利く。唯一つ案じられるのは先口だ。それを考えると暗くなる。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
芳夫の手にあいそうもないので、由良がひきとって、搦手からめてから仕掛けにかかった。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「そんなもの持つてかいでもよいやないか。」といふのを無理に頼んで、脇差しを一本腰にぶち込み、喜び勇んで、搦手からめての大將といつたやうな顏をしながら、西の門の方へ出て行つた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
佐藤司法主任や根岸刑事は、ジリ/\と恩愛を枷に搦手からめてから攻める。一方では石子、渡辺両刑事が真向から呶鳴りつける。その合間々々には精力絶倫の庄司署長が倦まず撓まず訊問をする。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
これは太鼓塚……これは夜啼石よなきいしとて里見在城の折に夜な/\泣いて吉凶きっきょを告げたという夜啼石だ、これは要害の空濠からほりで、裏手の処は桜ヶ陣と申して、里見在城の折には搦手からめてったという
搦手からめてからガンベの陣容を崩そうとした。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「いいえ殿様、とんでもない! ただ若いくせにあんまり強情な娘で、それに殿様がお優しくいらっしゃるので、いい気になりましてねえ、そばで見ていてもはがゆいようでございますから、この婆あがちょくちょく搦手からめてから攻めているんでございますよ」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「番人の怠っているすきに手綱をって、搦手からめての山へのぼって草でも食っているのだろう。早く探してつないでおけ」と、罵った。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信濃町しなのまちでは、一同が内山の出した美吉屋の家の図面を見て、その意見に従つて、東表口ひがしおもてぐちに向ふ追手おつてと、西裏口にしうらぐちに向ふ搦手からめてとに分れることになつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その了見を露骨にしないで、搦手からめてからジリジリと待遇をもって自分を動かせないようにして手許へ引きつけて置きたいとの了見がよくわかっている。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ははあ搦手からめてから出たかと思う、その提灯がほんのりと、半身の裾を映す……つまの人よりも若く、しっとりと、霧につたもみじしたくれないの、内端うちわに細さよ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大手に向ったのは、小松三位中将を大将軍とする七万余騎、搦手からめてには、薩摩守忠度、三河守知度を頭とする三万余騎で、能登、越中の国境、志保山に向った。
「大手、搦手からめてだな」と栄二は呟いた、「はさちとこられてはかなわねえ、これじゃあ息が詰っちまう」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その男帰途、又搦手からめてに来り、通らせてくれと云う。昌幸又易き事なりと、城中を通し、所々を案内して見せた。時人、通る奴も通る奴だが、通す奴も通す奴だと云って感嘆したと云う。
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
お勝手から平次と八五郎はすべり込むやうに丁子屋の屋根の下へ入つて居りました。大袈裟おほげさで、白痴こけおどかしな正面から入るよりは、搦手からめてから攻めた方が、この城は樂に落せるやうな氣がしたのです。
ふたたび搦手からめてへ戻るが、次のような点からも問題は考察し得られる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
玄徳は、彼の説に従って、その夜三更、搦手からめてから脱けだして、月の白い道を、腹心の者とわずかな手勢だけで、落ちのびて行った。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうでなければ搦手からめてから運動することだ、そこから穏かに話をつけると存外物わかりのよいことがある。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「——木戸というのは城下町三方の口を押え、城がかりは大手、西、搦手からめての三門を固める、こういう手筈で、各組とも三十人から五十人の部下が集まる予定でした」
日日平安 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
搦手からめては一歩先に西裏口にしうらぐちに来て、遠山、安立、芹沢、時田が東側に、斎藤と同心二人とが西側に並んで、なかに道をけ、逃げ出したら挟撃はさみうちにしようと待つてゐた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
老僧たちを如意ヶ峰より敵の搦手からめてに向わせる。足軽どもを先手としてまず白川の民家に火を放てば、六波羅の武士たちは、敵襲と思うてここに駆けつけるにちがいない。
とうとう表通りだけでは、気が済まなくなったと見えて、まえ申した、その背戸口せどぐち搦手からめてのな、川を一つ隔てた小松原の奥深くり込んで、うろつくようになったそうで。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
カラマルという方言は『万葉』巻二十の武蔵の防人歌さきもりのうたにも見えている。岡に沿うことをカラムまたはカラマクともいったと思われる。城の二つの入口を大手・搦手からめてと呼ぶことはここから説明が附く。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と見込みをつけ、一書をしたためて、弓勢ゆんぜいの強い一武者に、矢文として、搦手からめての山から城中へ射込ませた。もちろん勧降状である。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとつ搦手からめてから乗込んでみようと、こう思いついて上ったのに、いきなり槍玉の御馳走は驚きました
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
東国から攻めのぼる大手の大将軍は蒲御曹司かばのおんぞうし範頼、搦手からめての大将軍には九郎御曹司義経、これに従うは東国の主な大名三十余人、その軍勢合せて六万余騎という大軍である。
「——牢番に内通者があったようでございます、巽口たつみぐちで三名捕えましたが、あとは、……お城の搦手からめてへぬけたらしく、……御門の人数は倍増しに致しまして、……町奉行の手の者も」
めおと蝶 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
町から上るには、大手搦手からめてといったように、山の両方から二口ある。
「やアやア搦手からめてがたの兄弟、丹羽昌仙にわしょうせんさまの密書をもって、安土城あづちじょうへ使いした早足はやあし燕作えんさくが、ただいま立ちかえったのだ。開門! 開門」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼等は一旦、小屋の尽きたところで飛び下りて、搦手からめてから、この桟敷の屋根へのぼり始めました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし四日は吉日であるというので、大手、搦手からめての二手に分れ攻め下っていった。
で、さまで旅らしい趣はないが、この駅を越すと竹の橋——源平盛衰記に==源氏の一手ひとて樋口兼光ひぐちかねみつ大将にて、笠野富田を打廻り、竹の橋の搦手からめてにこそ向いけれ==とある、ちょうど峠の真下の里で。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
およそ城の中のわけても搦手からめて寄りの方は丘や林や浅い谷などもあって、夜などは殊に山の中を歩くのと少しもちがわなかった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その知恵というのはこういうわけなんだ、当人のお絹さんへぶつかっちゃいけないよ、あれはたかをくくったように見せかけておいて、搦手からめてから、神尾の大将を責めるんだね。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)