手業てわざ)” の例文
私よりほか世の人が、その名を知っていようとは思われませぬ。ほんに哀れなしがない手業てわざにあの盛場から此の盛場あの宴席からこの宴席を
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
紙をすくのは娘やよめ手業てわざになっているらしく、庭先に働いている人たちはほとんどみな手拭てぬぐいをねえさんかぶりにしていた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「いやまて、町に居る時こそ、其方の手業てわざに任せたが、山に入っては拙者の役目だ。差出さしでがましいことは相成らぬぞ」
天保の飛行術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
すべておのれ/\が家業かげふにあづかるものゝひなかたを掛る、これそのげふの福をいのるの祝事しゆくじなり。もちばなを作るはおほかたわかきものゝ手業てわざなり。
かへで 貧の手業てわざに姉妹が、年ごろ擣ちなれた紙砧を、兎かくに飽きた、忌になつたと、むかしに變るお前がこの頃の素振は、どうしたことでござるかなう
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
或は白木しらき指物細工さしものざいくうるしぬりてその品位を増す者あり、或は障子しょうじ等をつくって本職の大工だいく巧拙こうせつを争う者あり、しかのみならず、近年にいたりては手業てわざの外に商売を兼ね
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しず手業てわざに暇のない、画にあるような山家の娘に見え出した、いや何となくそのように思われたので。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
大病人があるとこの日を期して七人待しちにんまち八人待はちにんまちをした。また多くの仲間で一しょに夜明かしをしてもらうと、願いごとがかなうとも、手業てわざが上手になるともいう者がある。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
草履穿ばきかけずり歩かねばならないのみならず、煮るも、炊くも、水をむのも、雑巾がけも、かよわい人の一人手業てわざで、朝は暗い内に起きねばならず、夜になるまで、足を曳摺ひきずって
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さつしけん孝心かうしんおこたなく夏秋なつあき枝豆えだまめ賣歩行うりあるき或ひは母が手業てわざたすけと成又は使ひにやとはれて其賃錢ちんせんもらうけあさゆふなの孝行かうかうは見る人聞人感じける然るに有日あるひ道之助は例日いつもの通り枝豆えだまめ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それらは手業てわざ掛り、牡蠣灰かきばい掛り、畑掛り、油絞り掛り、舂場つきば掛り、見張番所掛り、そのほか寄場差配さはい、医者、教師などもいるそうだが、これらはのちにひきあわせるということであった。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
霜月のとりには論なく門前の明地あきちかんざしの店を開き、御新造に手拭ひかぶらせて縁喜のいのをと呼ばせる趣向、はじめは耻かしき事に思ひけれど、軒ならび素人の手業てわざにて莫大ばくだいもうけと聞くに
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
体の頑固な割りに、こうした女らしい優しい心をもっていたことが、荒く育ったお庄にもうらやましかった。叔母の側にくっついていて、もう少し何かの手業てわざを教わっておくのだったとも考えた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
すべておのれ/\が家業かげふにあづかるものゝひなかたを掛る、これそのげふの福をいのるの祝事しゆくじなり。もちばなを作るはおほかたわかきものゝ手業てわざなり。
かえで 貧の手業てわざ姉妹きょうだいが、年ごろ擣ちなれた紙砧を、とかくに飽きた、いやになったと、むかしに変るお前がこのごろの素振りは、どうしたことでござるかのう。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人事の実際に施して実益を取るの工風くふうひびに新たにして、およそ工場または農作等に用うる機関のたぐいはむろん、日常の手業てわざと名づくべき灌水・割烹・煎茶・点燈の細事にいたるまでも
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
諸国の入海の岸に住む民が、玉藻を苅るという昔からの手業てわざは、これを何の用途にあてたのかを考えて見た者もないらしいが、それはおそらく田に入れて土を新たにするためであった。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
霜月しもつきとりにはろんなく門前もんぜん明地あきちかんざしみせひらき、御新造ごしんぞ手拭てぬぐひかぶらせて縁喜ゑんぎいのをとばせる趣向しゆこう、はじめははづかしきことおもひけれど、のきならび素人しろうと手業てわざにて莫大ばくだいもうけとくに
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
呉羽 今更いうも愚痴なれど、ありし雲井のむかしには、夢にも知らなんだしず手業てわざに、命をつなぐ今の身の上。浅ましいとも悲しいとも、云おうようはござらぬのう。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こん弁慶縞べんけいじま高柳郷たかやなぎごうにかぎれり。右いづれも魚沼うをぬまぐんの村々也。此ちゞみをいだす所二三ヶ村あれど、もつはらにせざればしばらくおきてしるさず。縮は右村里の婦女ふぢよらが雪中にこもあひだ手業てわざ也。