かな)” の例文
酒を注ぎながら、上さんは甘ったるい調子で云った、「でも営口で内に置いていた、あの子には、小川さんもかなわなかったわね。」
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
とにもかくにも今一目見ずば動かじと始におもひ、それはかなはずなりてより、せめて一筆ひとふで便たより聞かずばと更に念ひしに、事は心とすべたがひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
同じ真綿工場の持主であった彼のあによめは、不断銀子の母親の働きぶりを見ていたので、その眼鏡にかない、彼を落ち着かせるために、彼女をめあわせた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
最も姫の心にかなひしはララなり。姫の宜給ふやう。アヌンチヤタは美しくもありしなるべく、さかしくもありしなるべし。
ウィリアムだいせい其人そのひと立法りつぱふ羅馬ローマ法皇はふわう御心みこゝろかなひ、たちまちにして首領しゆれう必要ひつえうありし英人えいじんしたがところとなり、ちかくは纂奪さんだつおよ征服せいふくほしひまゝにするにいたりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
私はおまえさんの希望のぞみというのがかないさえすれば、それでいいのだ。それが私への報恩おんがえしさ、いいじゃないか。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
来る客の望をかなへるのは、クリストの意志をみた所以ゆゑんであるから、拒んではならない。折角来た客に隠れて逢はないでは残酷である。こんな風に云はれて見れば、一々道理はある。
真の意義に於いての道徳にかなつてゐるでせう。それに人間が皆絶大威力の自然といふ主人の前に媚びへつらつて、軽薄笑ひをして、おとなしく羊のやうに屠所へ引いて行かれるのですね。
但君ハカント派ノ哲学ヲ喜ビ余ハコムト氏ノ実学ヲ好メリ。故ニ円鑿方枘、論相かなハサルノうらみヲ免レザリキ。今余ガ唯物論ヲ唱フルモ其原ハ即此時ニ在リキ。爾来歳月ヲ経過セシコト茲ニ四十年。
西周伝:05 序 (新字旧仮名) / 津田真道(著)
ドリス自身には、技芸ぎげいの発展が出来なくて気の毒だのなんのと云ったって、分からないかも知れない。結構ずくめの境界きょうかいである。崇拝者に取り巻かれていて、望みなら何一つかなわないことはない。
お前さん達のおのぞみかなえることなら、わたしにも出来るつもりだ。875
両性問題は容易たやすく理を以てすゐすべからざるものだとは云ひながら、品の人物に何か特別なアトラクシヨンがなくてはかなはぬやうである。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
昔より信仰厚き人達は、うつつ神仏かみほとけ御姿おんすがたをもをがみ候やうに申候へば、私とても此の一念の力ならば、決してかなはぬ願にも無御座ござなく存参ぞんじまゐらせ候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
蔦蘿つたかづらに包まれたる水道のあととこれを圍める橄欖オリワの茂林とは、黯澹あんたんたる一幅の圖をなして、わが刻下の情にかなへり。われは又前さきに過ぎたる門を出でたり。門外に大廢屋あり。
その外自分が誰にでも謙遜してゐると云ふ意識も、師匠たる長老に命ぜられて自分のするだけの事が一々規律にかなつて無瑕瑾むかきんだと云ふ自信も、ステパンに歓喜を生ぜさせるのである。
「だからさ、私の所望はおまえさんの希望がかないさえすれば……」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ一つの、ただ一つの願もかなえずに、1555
こんな家にこうして住まわせて上げれば、平生のねがいかなったのだと云ってもいと、嬉しく思わずにはいられなかった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
満枝が手管てくだは、今そのおもてあらはせるやうにして内にこらへかねたるにはあらず、かくしてその人といさかふも、またかなはざる恋の内にいささか楽む道なるを思へるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
我はわが辭退の理にかなへる、友の腹立ちしことの我儘に過ぎざるを信じたりき。されど或時は無聊に堪へずしてベルナルドオなつかしく、我詞の猶おだやかならざるところありしを悔みぬ。
のぞみかなうような工夫をおさずけしましょうか。
しかしどちらも可哀かわいい子であったので、間もなくわびがかなって助太郎は表立ってかなを妻に迎えたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
拝謁おめみえかなわざればとて、苦桃太郎単身ひとりして
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
保は英語をつかい英文を読むことを志しているのに、学校の現状を見れば、所望にかなう科目はたえてなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
拜謁おめみえかなはざればとて、苦桃太郎にがもゝたらう
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それもかなはで東に還り玉はんとならば、親と共に往かんは易けれど、か程に多き路用を何處よりか得ん。
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
それもかなはでひんがしに還り玉はんとならば、親と共に往かんは易けれど、か程に多き路用を何処いづくよりか得ん。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「我を救ひ玉へ、君。わが耻なき人とならんを。母はわが彼の言葉に從はねばとて、我を打ちき。父は死にたり。明日は葬らではかなはぬに、家に一錢の貯だになし。」
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
「我を救ひ玉へ、君。わが恥なき人とならんを。母はわが彼の言葉に従はねばとて、我を打ちき。父は死にたり。明日あすは葬らではかなはぬに、家に一銭のたくはへだになし。」
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「どうです。こう天気続きでは、米が出来ますでしょうなあ」「さようさ。又米が安過ぎて不景気と云うような事になるでしょう」「そいつあかないませんぜ。鶴亀つるかめ鶴亀」
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
動植をきはむる學者の心は、世の常の用をばげに問はざるべけれど、進化説を唱ふる人は、微蟲を解剖するときも、おのれがいだける説の旨にかなはむことを願はざるにあらず。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
この時李はにわかに発した願が遽にかなったように思った。しかしそこに意外の障礙しょうがいが生じた。それは李が身を以て、ちかづこうとすれば、玄機は回避して、強いてせまれば号泣するのである。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
知人にたよろうとし、それがかなわぬ段になって、始めて親戚をおとずれ、親戚にことわられて、亀蔵はようよう親許へ帰る気になったらしい。定右衛門の家には二十八日に帰った。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
お前様といふものある清さんとこのやうな身持の私が、すなほに彼此かれこれ申し候とも願のかなふはずなければ、何事も三谷さんの酒の上から出たたわぶれのやうに取成とりなし、一しよにさへ寝たならば
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
畫工にはおの/\其特異なる眼あり、其特異なる性 tempérament ありて、これにかなひたる新しきものを製作するを其本分とす。要するに畫には個人的と實在的とあるべし。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
われを狂人と罵る美術家ら、おのれらが狂人ならぬを憂へこそすべきなれ。英雄豪傑、名匠大家となるには、多少の狂気なくてかなはぬことは、ゼネカが論をも、シエエクスピアがげんをもたず。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
あるひとのいはく。逍遙子はげに今の我文界に人間派なきを認めき。されど其言にいはずや。嘗て「ミツドル、マアチ」を見しに、ジヨルジ・エリオツト女史が作に人間派の旨にかなへるところあり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
そうしたらあの人が又好い加減の事を言って、わたしを騙してしまっただろう。あんな利口な人だから、どうせ喧嘩をしてはかなわない。いっそ黙っていようか。しかし黙っていてどうなるだろうか。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
おれはその何故なにゆえなるを知らぬが、修養の足らざるのもまた一因をなしているだろう。比良野助太郎は才に短であるが、人はかえってこれに服する。賦性がおのずから絜矩の道にかなっているのであるといった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
風邪ふうじやあとで持病の疝痛せんつう痔疾ぢしつが起りまして、行歩ぎやうほかなひませぬ。」
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)