小半時こはんとき)” の例文
そして、小半時こはんときたないところで跫音あしおとがして小柄な男が帰って来た。勘作が舟の中へ置いてあった空笊からざる小脇こわきにしていた。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
船は小さし、どう突立つッたって、釣下つりさがって、互違たがいちがいに手を掛けて、川幅三十けんばかりを小半時こはんとき幾度いくたびもはっと思っちゃ、あぶなさに自然ひとりでに目をふさぐ。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ものの小半時こはんときも半蔵が一緒にいるうちに、とてもこの人を憎むことのできないような善良な感じのする心の持ち主を彼は自分のそばに見つけた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さりとて容易に人の来るべき路ではないのに、誰を待つのであろう、こうして小半時こはんときもたつと、木の葉の繁みをれて、かすかに人の声がします。
やがて小半時こはんときも経ったかと思うと、今まで眠っているように見せかけていた半七は、俄かに起き上がった。
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
種彦は半ば呑掛のみかけた湯呑ゆのみを下に置くと共に墨摺すみする暇ももどかしに筆をったがやがて小半時こはんときもたたぬうちに忽ち長大息ちょうたいそくもらしてそのまま筆を投捨ててしまった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして過去も未来も持たない人のように、池の端につくねんと突っ立ったまま、池の中のはすの実の一つに目を定めて、身動きもせずに小半時こはんとき立ち尽くしていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
雨戸をしめれば蛇の逃所がなし、しめねばならず、ランプを呼ぶやら、青竹を吟味ぎんみするやら、小半時こはんときかゝって雨戸をしめ、隅に小さくなって居るのを手早くたゝき殺した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それから小半時こはんときのち、私たちはまたランチに曳かれて本船へ帰ることになった。敷香の有志やオロチョンギリヤークの土人たちも一同うち交って、その河口の石垣に立って見送った。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
いひさしておりきあふいづなみだがたければくれなひの手巾はんけちかほに押當おしあて其端そのはしひしめつゝものいはぬこと小半時こはんときにはものおともなくさけしたひてりくるのうなりごゑのみたかきこえぬ。
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
をまんじりともしなかったおせんは、ちゃあじもいつものようにさわやかでなく、まだ小半時こはんときはやい、けたばかりの日差ひざしなか駕籠かごられながら、白壁町しろかべちょう春信はるのぶもとおとずれたのであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
夕食前の小半時こはんとき巴里パリのキャフェのテラスは特別に混雑する。一日の仕事が一段落いちだんらくついて、今少しすれば食欲三昧ざんまいの時が来る。それまでに心身の緊張をほぐし、おもむろに食欲に呼びかける時間なのだ。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かくして、時を消すことおよそ小半時こはんとき——。
小半時こはんときももてぬ。
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
さあ、誰ぞ来てやってくれ、ちっとしゃがまねえじゃ、筋張ってしょ事がない、と小半時こはんときでまた理右衛門じいさまが潜っただよ。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婆さんはその実を隅の石臼いしうすの処へ持って往ってそれを入れて挽いた。蕎麦は小半時こはんときもかかると粉になってしまった。
蕎麦餅 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
千生はそれから小半時こはんときほども話して帰ると、入れちがいに今戸の中田屋という質屋の亭主金助が来た。
廿九日の牡丹餅 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
興津おきつの題目堂で変な男と別れてから、東海道を少し南へ廻って、清水港しみずみなとへ立寄り、そこで小半時こはんときも暇をつぶしたが、今度は久能山道くのうざんみち駿府すんぷへ出て、駿府から一里半
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やや小半時こはんときもそうしたままでいると、帳場でぼんぼん時計が九時を打った。三階にいるのだけれどもその音はほがらかにかわいた空気を伝って葉子の部屋へやまで響いて来た。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
いひさしてお力はあふいづる涙の止め難ければくれなひの手巾はんけちかほに押当てその端を喰ひしめつつ物いはぬ事小半時こはんとき、坐には物の音もなく酒の香したひて寄りくる蚊のうなり声のみ高く聞えぬ。
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それを知るべく小半時こはんときついやしてしまったのですがついに解決がつかないで、そのままありの這うように井桁いげた葛籠つづらの方へ寄って、やっと片手をその葛籠へかけました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
笠井の禿上はげあがった額からは汗の玉がたらたらと流れ出た。それが仁右衛門には尊くさえ見えた。小半時こはんとき赤坊の腹を撫で廻わすと、笠井はまた古鞄の中から紙包を出して押いただいた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
こうして小半時こはんときもたった時、船は桟橋につながれたと見えて、二度目の汽笛が鳴りはためいた。葉子は物懶ものうげに頭をもたげて見た。ハンケチは涙のためにしぼるほどぬれて丸まっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
日高川のみなもとが社の下をうねって流れて、村の谷間たにあいをかくれて行く。小半時こはんときも村の方を見下ろしていたが、村では別に誰も騒ぐものがない。それで、修験者は扉をあけて社の中へ入ってしまいます。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
木村の心の奥には何かいい出してみたいくせに、なんとなく腹の中が見すかされそうで、いい出しかねている物があるらしかったが、途切れがちながら話が小半時こはんときも進んだ時、とてつもなく
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)