さま)” の例文
ただしょんぼりと立っているさまが、如何にも何か思案に余ることがあって、非常に困っているようであるから傍へ往って声をかけた。
八人みさきの話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
微月うすづきに照されて竹の幹にそうて立っていた、可憐かれんな女のさまを浮べると、伯父に対するうらみも、心の苦痛も、皆消えてしまって、はては涙になってしまった。
倩娘 (新字新仮名) / 陳玄祐(著)
南牧みなみまき、北牧、相木、などの村々が散布して、金峯山きんぷさん、国師山、甲武信岳こぶしがたけ、三国山の高くそびえたさまを望むことも出来、又、甲州にまたがった八つが岳の連山やまつづきには
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
和尚さんの手にある手燭の光りは、白い單衣に鼠色の丸ぐけを締めた鶴の如き姿をくつきりと映し出したとともに、丸く肥えて足の短い龜のやうな娘のさまを描き出した。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
女はそれを聞いていかにも悲しくてたまらないというさまをした。連城は喬にいった。
連城 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
近年、お正月の門松の林のなかに羽織袴をつけた酔っ払いが、海豚いるかが岡へあがったようなさまでぶっ倒れている風景にあまり接しなくなったのは年始人お行儀のために、まことに結構な話である。
酒渇記 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
纒ひて其さまいやしげなれども昔し由緒よしある者なるかたち擧動ふるまひ艷麗しとやかにて縁側へ出擂盆すりばちの手水鉢より水をすくひ手にそゝぎしは縁のはし男は手をば洗ひながら見れば娘はたぐまれなる美女にて有れば是までは女を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
恐れて死んだ人のようになって此のさまを見ていた主翁ていしゅは、此の時やっと気が注いたのでそっと裏口から這い出て往って隣家の者に話した。
怪しき旅僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夜が明けて見に集まって来た者が数千人あったが、そのさまを見て皆が拝んでいった。そして一日のうちに百金集まったので、そこでそれを南郊に葬ったが、好事者ものずきは朱い冠にうわぎを着けて会葬した。
庚娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
許宣はしおしおとしたさまをしてその室へ往った。白娘子は許宣を見るとしとやかな女になって、許宣に何か言いかけようとした。
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
判官はそのさまをにくにくしそうに見おろしていたが、何を考えたのか急に眼をみはるとともに急いで堂の上からおりてきた。
荷花公主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
収め終ると、夫人が泣く泣く秀英の首飾や花簪児の類を持ってきてその中へ入れた。李夫はそのさまを盗むように視ていた。
断橋奇聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは見るべくして見ることのできなかった物を見つけたようなさまであった。それと知って定七の眼も広栄の眼を追った。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それを知った村の人びとはぞろぞろと篠原へ集まって来て、その皮を見て驚嘆した。篠原の主人は得意そうに蛇を打った時のさまを話して聞かせた。
蛇怨 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
思うている幽霊が、三世も四世も前から、生きかわり死にかわり、いろいろのさまを変えてつきまとうているから、のがれようとしても遁れられないが
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
微暗うすぐらい水のおもてに二人の姿が一度浮みあがった時、修験者は池の上に駈けつけることができましたが、このさまを見るとおのれも池の中へ身を沈めました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
窓の敷居の上へいあがって、手を一ぱいに延べたので、そのまま下へ落ちてしまったさ、小供には気の毒だが、悪漢の悲しんでいたさまが痛快だったね
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼はまた二三日前に人から聞いた鬼火ひとだまのことを思いだした。青い蛍火ほたるびかたまったような火の団りが電柱にぶっつかって、粉粉こなごなになったさまが眼の前に浮んで来た。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女は無邪気に鉢の肉を取っていはじめた。章はその無邪気なさまを見ないようにして見ていた。乳母も二人が食事をはじめたのを見ると、自個でも肉に手をつけた。
狼の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「せんには履を弄るとすぐ来たから、疑うことは疑っていたものの、鬼ということは思わなかったよ、今、履を見てそのさまを思うことは、ほんとに堪えられないね」
蓮香 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼はこの瞬間、八つになる女の子と五つになる男の子がじぶんを待って母親と噂をしているさま眼前めさきに浮べた。彼はたまらなく苦しかった。彼は寝てはいられなかった。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
此のさまを見て怪物は考え込みました。そしてしばらく考えて後にのっそりと穴の口へ出て往きましたが、穴の口にしゃがんでかちかちと石を打ち合す音をさせました。
人蔘の精 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
喫べてしまうと怪物はまた手真似で寝るさまをして見せました。張は云う通りにして石の上に寝ました。張が横になると怪物も其の傍へながながと横になって寝ました。
人蔘の精 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのまわりの庭のさまに見覚えがあるような気がした。へやの中へ入ると防禦が出てきて立っていた。
金鳳釵記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
壮い男はふとそのさまが眼についたので、お坊さんは空腹であったなと思っておかしかった。僧はあとの団子をはじめのようにもくりと口に入れて、それも一息にのみくだした。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
新三郎はこんなさまを人に見られてはと思ったが、一条路で他に避ける処もないので、田の中へ隻足かたあしを入れるようにして、駕籠をやり過ごそうとした。駕寵の垂は巻いてあった。
八人みさきの話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
親実は取次が報知しらせてくると、おろそうとした石を控えてちょうと考えるさまであったが
八人みさきの話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その夜太郎左衛門は壮い女のことが頭に一ぱいになって、どうしても眠れないので、またそっと寝床を出て女のへやへ忍んで往った。二人の女は昨夜ゆうべと同じようなさまで眠っていた。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
子供だちは老人が夢中になって虎杖を喫うさまが面白いので老人の傍に立って見ていた。
虎杖採り (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その苦しむさまが、如何な俺達にも傍で見ていられない、閻魔王に願ってみると、許しがたい奴じゃが、五十両出せば許しても好いと仰せられるから、それを爺さんに話してみると
地獄の使 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
讓はその声を聞きながら秋になっても草の青あおとしている庭のさまに心をやっていた。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
年老った婢はあきれてそのさまを見た。広巳は茶碗の酒を二口に飲んで、また後を注いだ。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
光長は盗人の用心のことを忘れてしまって、不思議な少年のさまを見はじめた。円く肥った少年と痩せた少年は、いっしょになったり離れたりして、相手を突き倒そうとするふうであった。
庭の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
軽い淡白な気もちを持っている小鳥のような女が、隻肱かたひじを突いて机の横に寄りかかってじっと耳を傾け、玄関の硝子戸ガラスどく音を聞きながら、己の帰るのを待っているさまが浮んで来た。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
また某夜あるよなどは、平太郎が寝ようと思って戸じまりをして室へ帰って来ると、孕み女が醜悪なさまをしてへやの真中に仰向けになっていた。剛気な彼は笑いながら女の腹の上に腰をかけた。
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
光長は思い出したように空になった瓦盃の銚子の酒をいだが、注いだなりにそれを持つのが如何にも大儀だと云うようなさまをして見詰めていた。庭の何処かで虫の鳴くのが聞えて来た。
庭の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼は某日とうとう怪物の前へ往って、泣きながら山の下のほうへ指をさして何度も何度もお辞儀を続けました。怪物は張のさまを見ておりましたが、それが判ったものと見えて頷きました。
人蔘の精 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彭の舟はやがて網舟を離れたが、再び漁師に獲られる危険のない所へくると蟹を水の中に入れてやった。蟹は大きな鋏を前で合わせて人が拱揖れいをするようなさまをして沈んでいった。…………
荷花公主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
杜陽のそうしたさまを主人は階廊かいろうに立って見ていた。其処へ女が心配してきた。
陳宝祠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
切燈台きりとうだいわかい男は、このさまかすかに見開いた眼で恨めしそうに見ておりました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
王はどうもその女のさまが人間でないと思ったが、それをいとう気はなかった。
蘇生 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夜叉は手にした死骸の頭を大きな赤い口へ持って往ってむしゃむしゃといだした。その噉うさまが瓜でも噉うようであった。大異はまた驚いて眼を瞠ったが、すぐその後から嘲笑が浮んできた。
太虚司法伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それから室の模様や庭のさまを見きわめたうえで庭の垣根に蹄をしかけた。
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
子供は益雄の姿を見つけると嬉しそうなさまをして走り寄って来た。
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして、朝になって月の光が薄れかけたところで、その前を数十人の跫音あしおとけて往く者がある。彼は驚いて口に出て見た。夢現ゆめうつつの間に見たような仙人の群が鳥の飛びたつようなさまをして走っていた。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
大変悪くて寝ずの番までしている病人が、どうして歩いて来たのだろうと思って、主翁は眼をみはった。伯爵はよろけるように中へ入ったが、榻の醜怪なさまが眼にると、けだもののようなうなり声を立てた。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
曾はそこでしおれたさまをして起きた。僧は微笑して言った。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
壮い女は太郎左衛門を見て、当惑したらしいさまを見せた。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「彼の無法者の逃げたさまがおかしいじゃないか」
放生津物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女は順作のさまをじっと見て何も云わなかった。
藍瓶 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)