啖呵たんか)” の例文
いうや、大手をひろげてその行く手をさえぎろうとしましたので、突きのけておくと右門は小気味のいい啖呵たんか大音声だいおんじょうできりました。
たいがいはふるえ上がッてしまう。だが、客に化けて乗りこんでいた弟の浪裏白跳ろうりはくちょう張順が「ふざけるな」と啖呵たんかをきッて抵抗しかける。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょいとちょいと、サーベルをぶらさげてるからってえらそうな口をきくんじゃないよ、あさ子は片膝立ちになって啖呵たんかを切った。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
初めてのお客に向って「アンタが何ナ……わたしさかずき指すなんて生意気バイ」と啖呵たんかを切りますと、イキナリその盃を相手にタタキ付けて
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうして、何かポンポン啖呵たんかをきったり、巻舌をつかったりしてみるのだが、お角さんの眼で見ると、板についている奴は一人もない。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
兄貴がさんざん啖呵たんかをきる。「べら棒め、けえったら学校へゆけ……——」(この学校という言葉にも彼から聞く時、開化! があった)
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
十手と捕縄と、啖呵たんかと、なんがい顔と、あらゆる攻め道具を試みましたが、婆アは、遠藤左馬太に買収されたとは言ってくれません。
そんな啖呵たんかが切りたけりや、此処にゐる馬子や若え衆が、丁度御前おめえにや好い相手だ。だがそれもさつきからぢや、もう大抵切り飽きたらう。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「お前のようなヘナヘナが、啖呵たんかを切ったところで、凄味はあらせん。顔に、庖丁で、二つ三つ、傷でも、こさえとかにゃあ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
伝吉でんきち駕籠かごなかはなあたまッこすってのひとり啖呵たんかも、駕籠屋かごやにはすこしのもないらしく、駕籠かごあゆみは、依然いぜんとしてゆるやかだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
酔痴よいしれている男たちの罵声ばせいにまじって、女の啖呵たんかが鋭く裂かれた。市日の騒々しさは、きまって女の啖呵に終るのだった。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
新子は、妹の浅ましさに泣きたいような気持で、を撫でてやると、美和子は思いがけなく、運転手に啖呵たんかを切り始めた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と、富士春は、世間へ、啖呵たんかを切ってみた。世間こそ、男こそ、いろいろと、自分に悪いことをしたが、富士春は、五七人の男を代えた外に——
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
すると、彼女は早速電話で、店と以前取引関係のあつた綿貫わたぬきといふ男を呼び寄せ、夫の面前でこんな風に啖呵たんかを切つた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
翌二十六年の歌舞伎座三月興行に「黒手組助六」の牛若伝次をつとめた時などは、いつもの悪い調子ながら啖呵たんかが切れて滅法いいという評判であった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「実に頑冥不霊がんめいふれいな婆だね。何なら、『勝手にしやがれ』と啖呵たんかを切るところだが、然うしてしまえばかたなしさ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
湧きかえるような掛け声をあびながら小団次が強請ゆすり啖呵たんかを切っていると、桟敷の下で喧嘩がはじまった。
「売ってやるが、すこし高いがいいかと云うんだ。五千円なら売るが、一文も引けないと啖呵たんかを切るんだ」
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは一皮むけば、えぞ三界まで流れて来た職人どもの啖呵たんかなのだ。大工の三谷三次は「かしら」を連れて来た。工事の下まわりを指図するというのであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
陰惨なすさみ切った淫売宿の内儀が此の位の啖呵たんかを切ったからとて些も不思議は無いので、私とても是迄場数を踏んで居りまして所謂殺伐には馴れて居りますから
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
クララはそっちかと思ったのだが、そこには砂馬にいつか啖呵たんかを切ったあの年増が出ていた。俺は商売の邪魔をしないように、横のとびらを押して、なかにはいって
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
最初に啖呵たんかを切り出したのは眉の濃い、眼玉のどんよりした、獅子っ鼻の大男だった。彼は子供のころ、饅頭まんじゅうの売子をしていたため、「饅頭虎」と綽名あだなされていた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
酒でも飲んだ時は、媳に負け通しの婆さんも昔の権式を出して、人が久さんを雇いに往ったりするのが気にくわぬとなると、「おひろ、断わるがいゝ」と啖呵たんかを切った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
小さな兄哥にいさんが、まるまっちい膝をならべて啖呵たんかを切りだしたんだから、お蓮様はびっくりして
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
七むずかしい侍生活さむらいぐらしは真っ平ご免と啖呵たんかを切って城を出ようとした時に大きな三方さんぼうに山のように小判大判を盛り上げて引出物だと云われた時、何んの雲助にそれほどの宝
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もつとも上に引いた一文は、いかにも彼のアンガジェ宣言文には違ひないのだが、それが只の啖呵たんかや證文だけだつたらつまらない。しかしどうやらその心配は無用のやうである。
イエスは自己の資格を弁明して「人よりにあらず、人にるにあらず、父なる神によりて遣わされし我イエス」というふうに啖呵たんかを切られたかもしれない(ガラテヤ一の一参照)。
中でも物凄い権幕で啖呵たんかを切ることは、彼の最も得意とする所に属するらしかった。
光の中に (新字新仮名) / 金史良(著)
『覚えていやがれ、そんな事をすりゃあ手前んとこの屋根にペンペン草を生やしてやるぞ』と、江戸ッ子は啖呵たんかを切るもんですが、実はペンペン草が屋根に生えることは殆どないのです。
世間のおやじが酔っぱらった時にあぐらをかいていうような啖呵たんかを、文学者としていえるということは日本の過去の社会感覚の中で「自我」がいかに低い内容をもち、いかに封建的であり
その彼の耳に響くのは、吉原かぶりの若者の、きびきびした啖呵たんかだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
三次郎 (笑いながら)黙れよ藤の字、顔をよく見てから啖呵たんかを切れ。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
何一つ新しい知識があるのでもないのに、茂緒は啖呵たんかをきるのだ。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
ぎょっとなりながら、争われぬ狼狽ろうばいの色を見せて、さしうつむいたその顔へ、ずばりとさらにすばらしい名啖呵たんかが落ちかかりました。
ちょいとちょいと、サーベルをぶらさげてるからってえらそうな口をきくんじゃないよ、あさ子は片膝立ちになって啖呵たんかを切った。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「遊行上人であろうとも、弘法大師であろうとも、盗もうと思ったらきっと盗むと、まあこんなふうに啖呵たんかを切ってみたものよ」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
再びジェラルディン・ファーラーの啖呵たんかを拝借して「こいつは案外宣伝効果があったワイ」と、ガラッ八のごとく私はあごでるのである。
ひどく啖呵たんかの切れる——そして酒がいわせるのか、妙に自暴やけをふくんだ女のことばに——困りぬいた女中はまた奥の内緒ないしょへもどって行った。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
声色こわいろにしちや語呂の悪い、啖呵たんかを切り出した所は豪勢だがの、つらを見りや寒いと見えて、みづぱなが鼻の下に光つてゐる。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「かんだ」や「こまがた」や「はんてんぎ」では妙に近代的理性的で、つまり乙ゥ啖呵たんかが切れないからでさぁと生前、事あるごとに教えてくれた。
寄席行灯 (新字新仮名) / 正岡容(著)
益満の毒舌は、小藤次の啖呵たんかよりも、上手であった。小藤次は士言葉で、巧妙な啖呵を切る益満に、驚嘆した。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
いつも、謙虚な気持でいることを努めている金五郎にしては、思いあがったに似た啖呵たんかであった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
強情でも騙りでもねえ、まぎれもないその証拠はこの銀簪、てなわけで青梅屋の店さきへ大あぐらをかいて啖呵たんかを切ったンです。……青梅屋のほうじゃすくみあがっちまった。
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「斯う啖呵たんかを切ると言うんだ。『お生憎さま。あなたばかりが女性じゃありません。此方はもうチャンとこんなのがあるんです』と言って、即座に写真を見せると言うんだ」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いわゆる外道げどう逆恨さかうらみと、もう一つには自棄やけが手伝って、口から出放題の啖呵たんかを切るのは、こんな奴らにめずらしくない事で、物馴れた岡っ引は平気でせせら笑っていますが
半七捕物帳:64 廻り灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ビルマル(娼婦)として最低の私娼窟の女に啖呵たんかを切られ、そして女郎屋でもズドン(拒絶)を食わされた。ましてやそれより格が上の芸者は、いくらミズテンだって駄目にちがいない。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
そこで彼はぐっとしゃくさわり、う見えても憚りながら文字の社会ではちっとは名を知られた男だ、其様な喰詰くいつめ者と同じには見て貰うまい、と腹の中ではおおい啖呵たんかを切ったが、虫を殺して彼はうつむいて居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
なぞと、気負いな啖呵たんかを切る人達であるが
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
十手も啖呵たんかもものをいったのではないが、われこそその一の子分と巻き舌でぱんぱんと名のったむっつり右門の名がきいたのです。
僞八五郎は頬冠りはして居りましたが、強ひて顏を隱さうともせず、言葉少なではあつたが、啖呵たんかの切れる、良い男であつたといふのです。