たっ)” の例文
驚くまいことか、これがお政が外出そとゆきたった一本の帯、升屋の老人が特に祝わってくれた品である。何故なぜこれが此所ここに隠してあるのだろう。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ですがたった一つ悪い事にはあの年になっだ女の後を追掛る癖が止みませんから私しは時々年に恥ても少しはつゝしむがよかろうと云いました
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
わたくしは他に子供はございません、此様こんの田舎育ちの野郎でも、たっ一粒者ひとつぶものでございます、人間は馬鹿でございますが、私の死水しにみずを取る奴ゆえ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何処どこか近くの家で百万遍ひゃくまんべんの念仏を称え始める声が、ふと物哀れに耳についた。蘿月はたった一人で所在しょざいがない。退屈でもある。薄淋うすさびしい心持もする。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それに、織さん、近頃じゃが出ましたっさ。錦絵にしきえは……たった一枚が、雑とあの当時の二百枚だってね、大事のものです。貴下あなたにも大事のもので、またこっちも大事のものでさ。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたしにとっては身をいためたたった一人の子です、親の慾目かも知れませんが、あれも決して心からあんな性質ではありません、わたしに仕えて呉れるだけでも、思い遣りの深い
日本婦道記:萱笠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「何、もうすぐです。御覧なせえまし、たった三四けんの所でさあ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さ「いえ/\、飛んでもない事を云う、お気の毒だが遣れません、たった一人の娘です、それを遣っては食うことに困ります」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
空は鏡のようにあかるいのでそれをさえぎる堤と木立はますます黒く、星は宵の明星のたった一つ見えるばかりでそのことごとく余りに明い空の光に掻き消され
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
其はうぢやよ、一月ひとつきも前ぢやわいの、何ともつひぞ見たことのない、みやこ風俗ふうぞくの、わかい美しい嬢様が、たっ一人ひとり景色を見い/\、此の野へござつてわしとこへ休ましやつたが、此の奥にの
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そでふいて「お前さんだって立派な職人じゃないか、それにたった二人きりの生活くらしだよ。それがどうだろう、のべつ貧乏の仕通しでその貧乏も唯の貧乏じゃ無いよ。満足な家には一度だって住まないで何時いつでもこんな物置か——」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
わしが中へ入って二人共末長く夫婦にしてやりたい心得だから、うかたった一人のお娘子だが、友之助にやっては下さらんか、わし媒妁なこうどになります
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
初に変らず娘のままで居残ったのはたった一人になった。それは芸名を春川千代子といって年は十九。戦争中もさいわいに焼けなかった葛飾区高砂町の荒物屋の娘である。
心づくし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かおりの高い薬を噛んで口移しに含められて、膝に抱かれたから、一生懸命に緊乎しっかりすがり着くと、背中へ廻った手が空をでるようで、娘は空蝉うつせみからかと見えて、たった二晩がほどに、糸のようにせたです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
杢「姿形なりかたちに惚れたのではない、たった一つ娘の見込があります、たった一つ臍から二寸ばかり下に見所があるのサ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たったお一人。」
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴方がいつまでもお眼が悪いとたった一人のお嬢様が夜中やちゅうに出て神詣かみまいりをなさるのは宜しいが、深夜に間違いでもあれば、これ程お堅い結構な方にきずを付けたらうなさる
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
斯うやって草鞋穿わらじばきになり田舎者の仮色こわいろつかい、大勢を騒がし、首尾よく往った所がたった八十両、成程是れはちいせえ、それに引換え旦那などは座蒲団の上で、くわえ煙管をしながら
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いか先非せんぴを悔い、あゝ悪い事をした、たった一人の子を殺したお前の心の苦しみというものは一通りならん事じゃ、是もみなばちだ、一念の迷いから我子を殺し、其の心の苦しみを受け
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たった一人の娘を勾引かどわかされましては生甲斐のない身の上、いっそ一思いに死にとうございますから、先刻さっき来る道にありました谷川へ身を投げて死にますから、貴方あなたはお先へお帰り下さいまし
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
打たずに帰って来ましたが、四足よしあしでせえも、あゝって子を打たれゝば、うろ/\して猟人りょうしそばまでも山を下って探しに来るのに、人間の身の上でたった一人の忰を置いてげると云うは
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
玄「フン、これはたった二百ぴきですねえ、もし宜く考えて見ておくんなさい」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
みんなが折れて改心というような顔色がんしょくをして、山三郎の来るのを待って居りますと、此方こなたの石井山三郎は実に強い男で、たった一人で南山の粥河の賊寨ぞくさいへ其の日の夕景に乗込んで参るというお話
たった一人のいもうとお藤を盗賊の所へ縁附ける