可哀あはれ)” の例文
可哀あはれ車夫しやふむかつて、大川おほかはながれおとむやうに、姿すがた引締ひきしめてたゝずんだ袖崎そでさき帽子ばうしには、殊更ことさらつき宿やどるがごとえた。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かくして得送らぬ文は写せしも灰となり、反古ほごとなりて、彼の帯揚にめられては、いつまで草の可哀あはれや用らるる果も知らず、宮が手習はひさしうなりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
嗚呼我が子はと思ひ出でゝ、木の片、竹の端くれと成り極めたる尼の身の我が身の上は露思はねど、かゝる父を持ち母を持ちたる吾が子の果報の拙さを可哀あはれと思はぬことも無し
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そして摘草つみくさほど子供こどもにとられたとふのを、なんだかだんうらのつまり/\で、平家へいけ公達きんだち組伏くみふせられ刺殺さしころされるのをくやうで可哀あはれであつた。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼はその酒を取りて、き事積りし後の凶の凶なる今夜の末期まつごむくゆるの、可哀あはれに余り、可悲かなしきにすぐるを観じては、口にこそ言はざりけれど、玉成す涙は点々ほろほろと散りてこぼれぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
よ/\、おなまぼろしながら、かげ出家しゆつけくちよりつたへられたやうな、さかさまうつばりつるされる、繊弱かよは可哀あはれなものではい。真直まつすぐに、たゞしく、うるはしくつ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さ候へば私事わたくしこと如何いかに自ら作りし罪のむくいとは申ながら、かくまで散々の責苦せめくを受け、かくまで十分に懺悔致ざんげいたし、此上は唯死ぬるばかりの身の可哀あはれを、つゆほども御前様には通じ候はで
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかりとはいへども、雁金かりがね可懷なつかしきず、牡鹿さをしか可哀あはれさず。かぶと愛憐あいれんめ、よろひ情懷じやうくわいいだく。明星みやうじやうと、太白星ゆふつゞと、すなはち意氣いきらすとき何事なにごとぞ、いたづら銃聲じうせいあり。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なんですかね、島流しまながしにでもつて、こゝろ遣場やりばのなさに、砂利じやりつかんでうみ投込なげこんででもるやうな、心細こゝろぼそい、可哀あはれふうえて、それ病院びやうゐん土塀どべいねらつてるんですから、あゝ、どくだ。……
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まだ可哀あはれなのはね、一所いつしよ連𢌞つれまはられた黒女くろめなのよ。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
洒落しやれたどうふにも可哀あはれなのがある。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)