つくえ)” の例文
両足をつくえの上に投げ出して、わざとだらしない風を装って見たりしたが、そんなことでは、彼の気持はどうにもならなかった。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「そうさ。きっと非常に愉快な旅行になるよ。」学士はこういいながら、つくえの上の堅パンを一切れ取った。「頂戴ちょうだいしても好いのだろうね。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
しばらく立ち止まって見ているうちに、石の壁に沿うて造りつけてあるつくえの上で大勢の僧が飯や菜や汁を鍋釜なべかまから移しているのが見えて来た。
寒山拾得 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そこにはがいとうと、つえと、かさと、くつの上にはうわおいぐつが一足いっそく置いてありました。みるとふたりの婦人がつくえのまえにすわっていました。
大きなつくえを真中にして、お新も瀟洒さっぱりとした浴衣のままくつろいだ。山本が勧める巻煙草を、彼女は人差指と中指の間にはさんで、旅に来たらしく吸った。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
許宣はそこに立って室のようすを見た。中央のつくえの上に置いた虎鬚菖蒲はししょうぶの鉢が、ず女の室らしい感じを与えた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
するとそこには蜘蛛くもの巣だらけな暗闇を天国として、一人の大男が、お供え物のつくえの上に、まっ裸な体を載せ、丸めた着物を枕に、高いびきで熟睡していた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこだ! と先生は飛上ってつくえを打った。堪えかねるほど待兼まちかねた答を、予期しないアンポンタンから得たので、先生の褒めかたは気狂いじみてたほどだった。
かれ清国しんこくの富豪柳氏りゅうしの家なる、奥まりたる一室に夥多あまた人数にんずに取囲まれつつ、椅子いすに懸りてつくえに向へり。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
帰って書斎にはいると、両手をこすり、背広やシャツが窮屈かのように肩や頸をひくつかせながら、隅から隅へ一往復したが、やがて蝋燭をとぼしてつくえに向った。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それに部屋とは云うものの、中にはただ、穴だらけの、大きなつくえが二つ三つ置いてあるきりだった。
燃ゆる頬 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ちょうど半月はんつきばかりたった時、その日も甚兵衛はたずねあぐんで、ぼんやり家にかえりかけますと、ある河岸かし木影こかげに、白髯しろひげうらなしゃつくええて、にこにこわらっていました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「お風呂ふろがわいております。」と女中の挨拶あいさつに、間もなくこの土地では姉さん株らしい三十近い年増としまと、二十はたち前後の芸者が現われ、女中の運び上げる料理の皿をつくえの上に並べる。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
犬狗いぬえのこのように草叢くさむら打棄うちすててありましたのを、ようやく御生前に懇意になされた禅僧のゆくりなくも通りすがった者がありまして、泣く泣くおん亡骸なきがらを取収め、陣屋の傍につくえを立て
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
約あれば待ちて居し晩餐ばんさんつくえに、浪子は良人おっとむかいしが、二人ふたりともに食すすまず。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
挙人老爺は贓品ぞうひんの追徴が何よりも肝腎だと言った、少尉殿はまず第一に見せしめをすべしと言った。少尉殿は近頃一向挙人老爺を眼中に置かなかった。つくえを叩き腰掛を打って彼は説いた。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
もうお前さんと同じつくえに坐っているのも厭だわ。
皿小鉢をつくえの下に落すまで、おのみになる。
つくえの上へ、食器を並べていた女は、急いで男のそばへ来て背後うしろから両手で肩を押さえた。「何かまた詰まらない事を考え出していらっしゃるのね。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
「はあ」と云つて、木村は手の届く所につくえのやうな物のあるのを見て、持つてゐた赤い紙札をその上に置いた。
田楽豆腐 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
かれ清国しんこくの富豪りゅう氏の家なる、奥まりたる一室に夥多あまた人数にんずに取囲まれつつ、椅子にかかりてつくえに向えり。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただの板を打った、細長いつくえによって、二人の処士が飲んでいた。ふいに門口からはいってきた、玄徳のすがたを見——唖然として——どっちも眼をまろくする。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その夜遅くラエーフスキイはつくえの前に坐って、相変らず手をこすりながら、そう思った。窓がふいにばたんと開いて、どっと風が室内へ吹き入り卓上の紙を飛ばした。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「これですか」と三吉は兵児帯へこおびの間から銀側時計を取出して、それを大きなつくえの上に置いた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
犬狗いぬえのこのやうに草叢くさむら打棄うちすててありましたのを、やうやく御生前に懇意になされた禅僧のゆくりなくも通りすがつた者がありまして、泣く泣くおん亡骸なきがらを取収め、陣屋の傍につくえを立て
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
年の暮のえびす講などに忘年芝居を催したりする派手な店で北新道のあたしの家の並びの荷蔵に、荷車で芝居の道具を出しに来たりしていた。その店が会場となり演説のつくえがおかれた。
それから椅子に腰をかけてつくえに頬杖をつきながら、ぼんやりと窓の外を眺めた。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
それは夢に見た白娘子のなまめかしい顔であった。許宣はつくえの上に眼を落した。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
つくえもない、椅子もない。
男は指先でつくえを叩いて拍子を取った。この時一つの考えが頭をかすめて過ぎた。それは「もう少しばかりの命だ、面白く暮されるだけ暮して見よう」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
中等室のつくえのほとりはいと静かにて、熾熱燈しねつとうの光の晴れがましきもあだなり。今宵こよいは夜ごとにここにつどい来る骨牌カルタ仲間も「ホテル」に宿りて、舟に残れるは一人ひとりのみなれば。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
つぶやくやいな、雷横は、そこのつくえを蹴って、男のからだもろとも、引っくりかえし
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つくえの上に差置きたる帽を片手に取るとひとしく、粛然と身を起して
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
傍に毛氈が畳んだままに積み上げてあるのは、一人々々取り替えるためであろう。入口の側につくえがあって、大小が幾組も載せてある。近づいて見れば、長堀のやしきで取り上げられた大小である。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
つくえの上に差置きたる帽を片手に取るとひとしく、粛然しゅくぜんと身を起して
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いは彼方かなたあだかつくえむかつてさましてたゝずんだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)