ゆる)” の例文
業政は在五中将業平なりひらすえであり、智謀すぐれた人物で、七年このかた武田氏に攻められながら、好防善戦かたく守ってゆるがなかった。
一人ならじ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
のつそりハッと俯伏せしまゝ五体をなみゆるがして、十兵衞めが生命はさ、さ、さし出しまする、と云ひしのどふさがりて言語絶え
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
案内も無くかかる内証の席に立入りて、彼等のおのおの心得顔なるは、必ず子細あるべしと思ひつつ、彼はすこしく座をゆるぎてかたちを改めたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この神秘ともいい得るところの、ゆるぎなき教育の立場をもつことなしに、どんな方法を講じても、それは詰め込みにばかりなってしまいます。
おさなごを発見せよ (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
黒船町の金田屋には、石原の子分衆が三四人、家の者を見張つて、貧乏ゆるぎもさせずに平次を待つて居りました。
つの目立ったイライラしい声が、急に鳴り出して、高まると共に、はたと断絶する。沢や崖腹から、岩石がおのずとゆるぎ出して、河原へ落下する、その音だ。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
長い/\プラツトフオームに数限りなき掲燈あかりが昼の如く輝き初めた時、三人を乗せた列車が緩やかにゆるぎ出して、秋の夜のやみを北に一路、刻一刻東京を遠ざかつて行く。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
栗谷くりたにの布晒し岩から、それと並んだ麻尼まにの立て岩、箭渓やだにゆるぎ石の三つの大岩にかけて、昔は山姥が布を張って乾していたといいました。この間が二里ばかりもあります。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
無定限な夢の世界から定限あるうつゝの世界へ呼びさました。人は初めてゆるぎなき大地に足を着けて、人間の生活を如實に觀た。物質の力の偉大なことも初めて知ることが出來た。
生みの力 (旧字旧仮名) / 片上伸(著)
この時までも目を放たで直立したりし黒衣の人は、濶歩坐中にゆるいでて、燈火を仰ぎ李花にして、厳然として椅子にり、卓子ていぶる片肱かたひじ附きて、眼光一せん鉛筆のさきすかし見つ。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黄ばんだこずえゆるぐとも見えぬ先に一葉ひとは二葉ふたはがはらはら落ちる。あとはようやく助かる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
忽然こつぜんとしてゆるぎ出て石の下より一声「待て」と呼ぶや否、両頭の大蛇首を挙げて追い来たれり、彼は飛ぶごとくして遁げ走りたるも、足はただ同じ地のみを踏める間に大蛇はすでに寸後にせまり
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
轟く波凝なごりゆるがぬ岩根いはね、靡く藻よ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
朝明あさけきりゆるぎつゝ
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
霞よ雲よゆるぎいで
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
のっそりハッと俯伏うつぶせしまま五体をなみゆるがして、十兵衛めが生命いのちはさ、さ、さし出しまする、と云いしぎりのどふさがりて言語絶え
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この時までも目を放たで直立したりし黒衣の人は、濶歩かっぽ坐中にゆるいでて、燈火を仰ぎ李花にして、厳然として椅子にり、卓子ていぶる片肱かたひじ附きて、眼光一閃いっせん鉛筆のさきすかし見つ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この負けん氣の中年男は、事毎に平次にたてを突き、例外なしに平次にしてやられながら、その勢力にも足場にも貧乏ゆるぎもさせない、不思議なボス的戰鬪力の持主だつたのです。
とどろ波凝なごりゆるがぬ岩根いはねなびく藻よ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
ゆるぎなし底つ磐根いはね
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かすみよ雲よゆるぎいで
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
西方尾嚕叉廣目天王さいはうびろしやくわうもくてんわう南方毘留勒叉増長天なんぱうびるろしやぞうちやうてん北方毘沙門多聞天王ほつぱうびしやもんたもんてんわう、四天にかたどる四方の柱千年万年ゆるぐなと祈り定むる柱立式はしらだて天星色星多願てんせいしきせいたぐわんの玉女三神
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ゆきみじかな右の手に、畳んだままの扇を取って、温顔に微笑を含み、ゆるぎ出でつ、ともなく客僧の前へのっしと坐ると、気にされた僧は、ひしと茶斑ちゃまだらの大牛に引敷ひっしかれたる心地がした。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ゆるぎなし底つ磐根いはね
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
西方尾嚕叉広目天王さいほうびろしゃこうもくてんおう南方毘留勒叉増長天なんぽうびるろしゃぞうちょうてん北方毘沙門多聞天王ほっぽうびしゃもんたもんてんおう、四天にかたどる四方の柱千年万年ゆるぐなと祈り定むる柱立式はしらだて天星色星多願てんせいしきせいたがん玉女ぎょくじょ三神
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
天のなかばを一面に蔽ひて、十万の大兵野を占めたる如く動かすべくもあらぬさまに黒みわたり、しかも其中に風を含みたりと覚しく、今やゆるぎ出さんとする風情
雲のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
裏付股引うらつきももひきに足を包みて頭巾ずきん深々とかつぎ、しかも下には帽子かぶり、二重とんびの扣釼ぼたん惣掛そうがけになし其上そのうえ首筋胴の周囲まわり手拭てぬぐいにてゆるがぬよう縛り、鹿しかの皮のはかま脚半きゃはん油断なく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
五重巍然ぎぜんと聳えしさま、金剛力士が魔軍を睥睨にらんで十六丈の姿を現じ坤軸こんぢくゆるがす足ぶみして巌上いはほに突立ちたるごとく、天晴立派に建つたる哉、あら快よき細工振りかな
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
だんだん足場を取り除けば次第次第にあらわるる一階一階また一階、五重巍然ぎぜんそびえしさま、金剛力士が魔軍を睥睨にらんで十六丈の姿を現じ坤軸こんじくゆるがす足ぶみして巌上いわおに突っ立ちたるごとく
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)