剣戟けんげき)” の例文
旧字:劍戟
乱闘の場の剣戟けんげき叫喚、そういうものに関わりなく、狂女特有の締りのない、洞然ぽかんとしたうつろの声で、しかし何かに憧憬あこがれるように
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
流行の女剣戟けんげきがかかっていて、座の前に、その剣戟女優が太股ふともももあらわに大見得を切っている一種奇矯な看板が出ている。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
大鬼だいき衣冠いかんにして騎馬、小鬼しょうき数十いずれも剣戟けんげきたずさへて従ふ。おくに進んで大鬼いかつて呼ぶ、小鬼それに応じて口より火を噴き、光熖こうえんおくてらすと。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
のみならず「戯考」は「虹霓関」の外にも、女の男をとらえるのに孫呉の兵機と剣戟けんげきとを用いた幾多の物語を伝えている。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
歴史の意義を失った歴史的人種。ナポレオンの仲間を軽蔑するシャールマーニュ大帝の仲間。上に述べきたったとおり、剣戟けんげきは互いに凌辱りょうじょくし合った。
ナイフでさえ、ろくに切れるものはないくらいである。だから私は剣戟けんげきというものを書いたことがない。チャンバラというものは私の捕物帳にはない。
平次と生きた二十七年 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
まだ初陣ういじんの功を立てる年頃ではないとしても、今のうちから親しく剣戟けんげきのあいだをくゞって、勇士の働きとはどんなことをするものか知りたいと思った。
すると、……いやさっきからその声は遠くでしたのだが、剣戟けんげきのひびきで、誰の耳にも入らなかったのである。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしや何か目じるしの札でもと存じ灰塵かいじん瓦礫がれきの中を掘るようにして探ねましたが、思えば剣戟けんげき猛火のあいだ、そのようなものの残っていよう道理もございません。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
そのうちに、かかる渾沌こんとんの中から、剣戟けんげき、鋭利な言葉、勇ましい笑声など、数条の光線がほとばしり出てきた。
城兵は、四郎を天帝の化身のように考え、矢石当らず剣戟けんげきも傷くるあたわずと思っていたのに、四郎が傷いたので、彼等の幻影が破れ、意気とみに沮喪したと云われる。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
すなわち、恋愛と剣戟けんげきと。その二つの交錯が織りなす物語であって、その二つの要素以外に何もない。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
性来の庸愚ようぐ怯惰きょうだ、——剣戟けんげきの音を聞いただけで唇が乾いて胸がドキドキするような男だから、血刀をひっさげて戦場を駈け廻るなぞということはもってのほかである。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
宣伝を受けないものはそのかわりに剣戟けんげきを受けねばならなかった。緑色でないあらゆる花はたたき折られふみにじられた。それでも幸いに今日紅紫の花の種は絶えていない。
神田を散歩して (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
本書のいまだ整理せられざる切抜の一部と仮目次とをれたり。乱擾らんじょう尚全く平ぐに及ばず、剣戟けんげきの声鏘鏘そうそうたる九段坂上くだんさかうえの夜、公余に編輯へんしゅうを続行せし当時を思へば感慨未だ尽きず。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
中庭に入りまじる剣戟けんげきの音に身をすくませて、おさよが納戸の隅にふるえていると——。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
どんな怒号する剣戟けんげき役者でも必ず一度は調子をやる(声を潰す)という折り紙つきのところの上に、文字どおりの幕間余興で、遠慮なく大道具の金槌の音が噺の最中に響いてくる。
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
正に天帝の告敕こくちよくの下に剣戟けんげきを手にすべきの時期に臨めるを痛説する所ありき。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
空にはつんとした乙女おとめのようなえた美しい雲が飛んだ。しかし失望のような黒い長い影を地上にひいて過ぎて行った。さらに調べを変えて戦いを歌い、剣戟けんげきの響きやこまひづめの音を歌った。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
それはそれとして、夜陰に剣戟けんげきって、多人数押し寄せて参られ、三門を開けと言われた。さては国に大乱でも起ったか、おおやけ叛逆人はんぎやくにんでも出来たかと思うて、三門をあけさせた。それになんじゃ。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
句に至っては、始めの剣戟けんげきという二字よりほか憶い出せない。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
剣戟けんげきの音が聞こえるわ! ……あッ、斬られた! 子供が斬られた! ……あッ、また斬られた、子供が斬られた!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
幸いなるかな、民衆は痛ましき剣戟けんげきの暴挙の外にあって偉大なることを得る。ドイツもイギリスもまたフランスも、剣のさやのうちに保たれてはいない。
もしや何か目じるしの札でもと存じ灰塵かいじん瓦礫がれきの中を掘るやうにして探ねましたが、思へば剣戟けんげき猛火のあひだ、そのやうなものの残つてゐよう道理もございません。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
「殿! お気が狂わせられたか。大切の御身をもって、みだりに剣戟けんげきもてあそばれ家臣の者を傷つけられては、公儀に聞えても容易ならぬ儀でござる。平にお止り下されい」
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
金沙灘沖きんさたんおきの水戦は展開され、颷蕩ひょうとうたる白浪はくろうは天をち、鼓噪こそう芦荻ろてきを叫ばしめ、二日二た夜にわたる矢風と剣戟けんげきと、そして雲にこだまする喊声かんせいのうちに、さしもの官船数百隻を
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
剣戟けんげきのひびきは、一種耳底をつらぬいて背骨を走る鋭烈な寒感おかんを帯びている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
而して其第二幕が玄海洋上の大立廻りに幕となるや、看客の拍手の声未だ収まらざるに、第三次の幕は突如として開かれたり、舞台は急転したり。銃砲の響遥かに聞え、剣戟けんげきの光又遠く見ゆ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
今は彼の地到る所で剣戟けんげきの響が致しますが、如何いかなる国民も戦争は好みませんから、結局戦争にはならないでしょう。チェッコ問題はヒットラーが処理してくれることと、私は確信しております
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
突然、静かな恋語のこまやかな空気を突き破って剣戟けんげきの音が轟いた。暗黒であった谷の底ににわかに松火たいまつの光が射し、そのあたりから山へかけて合図の号笛が鳴り渡り
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
見れば、野山いちめんに、翩翻へんぽんたる黄旗、青旗、紅旗がのぞまれ、遠い岸の蔭から、二そうの快舟はやぶねが、それぞれ四、五十人の剣戟けんげきを載せて、颯々さっさつとこなたへ向って近づいてくる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
反逆者は剣戟けんげきの下に滅び、而て其の種は滅絶せん。只忠心義気の者のみ永遠の福祉を受けん
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その間じゅう、敵味方の金鼓きんこと、わあッという喊声かんせいは、山こだまをゆすり鳴らす。それはすばらしい二人の剣戟けんげき俳優の熱烈な演舞をたすける、劇音楽と観衆の熱狂みたいな轟きだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
周囲まわりの、叫喚さけびごえ怒号どなりごえ剣戟けんげきの響きを嘲笑うかのように、この、多量に人間の血を浴びた長方形の物像もののかたちは、木立ちと木立ちとの間に手を拡げ、弛んだ裾で足を隠し、静かに立っている。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
荷抜屋ぬきや屋敷へ真昼の不意を襲った剣戟けんげき旋風つむじは、一瞬の間に去ってしまった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この時ドッとときの声、裏門の方から聞こえて来た。剣戟けんげきの触れ合う音もした。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
剣戟けんげきのあいだに弦之丞のかすれ声。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、怒号悲鳴が起こり、続いて凄じい剣戟けんげきの音が、耳を突裂つんざいて鳴り渡ったが、再び蹄の音がして、さっきの二十騎の紅巾の群が、小路の口から現われ出た時には、十人の捕虜を提げていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ご承知なくば是非に及ばず、剣戟けんげきをもってお相手致す。由井先生におかれても、天草殿におかれても、すでに十分の用意をもって、湛慶川の向こう岸まで、実は出張っておられるのでござる」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
風が変わったか遙か山上、杉窪の里の方角から、喊声かんせい剣戟けんげきの音がした。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、忽然こつぜん行手にあたり、剣戟けんげきの音が聞こえて来た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)