前世ぜんせ)” の例文
時に後ろの方に當り生者必滅しやうじやひつめつ會者定離ゑしやじやうり嗚呼あゝ皆是前世ぜんせ因縁いんえん果報くわはう南無阿彌陀佛と唱ふる聲に安五郎は振返ふりかへり見れば墨染すみぞめの衣に木綿もめん頭巾づきん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
喰わずに居ってもそんな事をするのは嫌でございます。たとい此事これが知れて私共の身に災難が起ったところがどうせ前世ぜんせ因縁いんねんあきらめなくちゃならん。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
一體いつたい散々さん/″\不首尾ふしゆびたら/″\、前世ぜんせごふででもあるやうで、まをすもはゞかつてひかへたが、もうだまつてはられない。たしか横濱よこはまあたりであつたらうとおもふ。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
兄弟きょうだいのない自分には葉子が前世ぜんせからの姉とより思われぬ。自分をあわれんで弟と思ってくれ。せめては葉子の声の聞こえる所顔の見える所にいるのを許してくれ。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
眞面目まじめらしくりつぐをけば、時鳥ほとヽぎすもず前世ぜんせ同卿人どうきやうじんにて、くつさしと鹽賣しほうりなりし、其時そのときくつひてだいをやらざりしかば、れが借金しやくきんになりてもずあたまがらず
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
母親は後妻だからいいが万和の歎きはまた格別。しかし、なにごとも前世ぜんせの約束ごと。
顎十郎捕物帳:20 金鳳釵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
なん因果いんがで」とか、「前世ぜんせの約束」とかいう句のうちには、すでに自分の好むものは悪であり、おのれのきらうものこそぜんである、またその順序を顛倒てんとうして善なるものを自分は嫌い
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「もしかすると、前世ぜんせにおいて、あったひとかもしれないぞ。」と。
兄の声 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それはみんな、前世ぜんせからの約束だから仕方がない」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其以來二人は前世ぜんせかたきか何ぞのやうに仲が惡い。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
お蔦 前世ぜんせでは敵同士だったかも知れないね。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
回回教にも仏教と同じく前世ぜんせもあり未来もありますけれども、現世の人間は未来もやはり人間に生れ、動物はやはり動物に生れるものであるというて
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
つひ一晩ひとばんかさねえで、四手場よつでばぢいも、きし居着ゐつきのいはのやうだ——さてけばひよんなことぬまぬし魅入みいられた、なに前世ぜんせ約束やくそくで、じやうぬま番人ばんにんつたゞかな。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
殺さず共是迄に何か惡事が有か但し前世ぜんせで人でも殺したる因果いんぐわむくいなるべし然すれば何もくやむには及ばず皆是因果の歴然れきぜんなり雜法轉輪ざつはふてんりんあきらめよと言るゝに三五郎は押返し然樣さやうでも御座らんが其處そこが御出家しゆつけの役くびの座へすわる者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
大方おおかたこれは前世ぜんせの罪でもあったのでしょう。私はそうあきらめて居ります、といって居ったが実に可哀かあいそうであった
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
なまじ紹介状があるだけに、喧嘩面けんかづらで、宿を替えるとも言われない。前世ぜんせごう断念あきらめて、せめて近所で、蕎麦そば饂飩うどんの御都合はなるまいか、と恐る恐る申し出ると、饂飩なら聞いてみましょう。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さと云に皆々みな/\成程々々と云ながら首一ツ持出もちいだしてサア/\御座頭さんと渡しければ城富これは/\有難ありがたう御座りますと押戴おしいたゞきわつとばかりに泣出なきいだせしが變り果たる此有樣さぞや御無念で御座りませうさりながら前世ぜんせ因縁いんえん思召おぼしめし假令私の眼が見えねばとて長いうちには人間の一ねん眞事まことの人殺しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)