どき)” の例文
そういえば、此の頃は誰も来ない、来ても食事どきはよける、坐って酒を飲むような者はごくまれで、用事が済めばさっさと帰ってゆく。
山椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夜が明けても、新九郎は窓に心を奪われて悩乱を続けている。そしてふと夕暮どき、昨日の裏門を出て行く兄の姿と千浪の影を再び見た。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それも一日通しては見ていられないから、八つどきから——そう今の二時頃ですが、染之助の出る一幕二幕かを見に行ったのです。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この変な七つの飾りだいだいを、七日の朝の七ツどきから始めて、七つの駕籠に乗せ、だれにもわからぬよう見とがめられぬように
お氷が四ツ半きっちりに御車寄へつくにはなんどきに氷室を出して、なん刻に駕籠へのせ、門を出るのがなん刻、壱岐殿坂をくだりきるのがなん刻と
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「今日、山の上であの騷のある少し前に、馬道の良助が、此處で着物を變へた相だ。それは、何どきだつたらう」
七つどき。はるかの田の面に低い三日月の薄光を乱して、二つの影がパッ! と一本みちの左右へ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
夕暮色ゆふぐれいろ薔薇ばらの花、うれひなかばんでゐる、あゝたそがれどききり夕暮色ゆふぐれいろ薔薇ばらの花、ぐつたりした手に接吻せつぷんしながら、おまへは戀死こひじにでもしさうだ、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
いつなんどきにてもすぐ腰立つようお構えあれ。もし途中、敵軍のさえぎるあらば、切って善光寺へ出ずるものとお心得あってよかろう
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「日の昏れどきだというでしょう。爺さんには然るべく云っておいて下さい、場合によっては帰りが延びるかもしれないから」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
今夜こそと思っていると、朝四つどき、黒船の甲板が急に気色けしきばみ、錨を巻く様子が見えたかと思うと、山のごとき七つの船体が江戸を指して走り始めた。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「そいつには大した用事がなかつたんだよ。ところでお神さん、毒は何どきほど經つて利き始めたんだ」
朝の七ツどきから七つの駕籠に移し替えて、人目にかからぬよう持ち運んだとかぬかしておったが、数も七つ、刻も七ツ、駕籠も七つと気味のわりい七ずくめから察するに
ましてやたそがれどき、早や、清水のような闇黒やみがあたりをめはじめて、人通りはない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ちょうど夕食どきで、悪しつッこい玉菜キャベツ羹汁スープの臭いがムウッと流れ出してくる。
犂氏の友情 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
かはたれどきしめやかに、物靜かなる死の如く
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「さあさあ、て来なされ、遊廓は灯ともし頃の宵がよく、もそっとよいのは、黄昏たそがどきかよというげな。武蔵どのも、ておざれ」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日昏れどきで、みぞれが降っていた。さっきまで雨だったのが、いまは小さな白いものが混っている。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それならば七七のだいだいのおまじないをせいとおっしゃいまして、あのように七草、七ツどき、七駕籠かご、七場所、七だいだいと七七ずくめの恋慕祈りをお教えくださったのでござります。
夜の五つどき、弁天堂の下の海岸へ出て見ると、降るような星月夜の下に、波は思いのほかにいでいた。六隻の黒船は銘々めいめいに青い停泊灯を掲げながら、小島のように、その黒い姿を並べていた。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「ゆうべ寺本山平は何どきに来て、何刻に帰った。一度外へ出てまた夜中に帰ったか、それとも、遅くなってから来たか。真っ直ぐに申上げないと、お前たち二人とも殺しの巻添えで、ガン首が飛ぶぞ」
いしげる笹の葉からよいやみが立ち昇って、山の手の逢魔おうまどき、森閑としている中に、夕餉ゆうげの支度に忠助が台所で皿小鉢をうごかす音——いつまで立っていても、いない喬さまが出てくるわけはない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かはたれどきは蕭やかに、物静かなる死の如く
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
あけの七ツから六ツ半どきの間がその日の満潮。浅瀬やわす都合の上に、ぜひ卍丸はその時刻にともづなを解かねばならぬ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おくみはまた微笑し、なんどきでしょうか、と云いかけて、ふとその眼をみひらいた。
冬の朝の七ツどきですから、ようやく三番どりが鳴いたか鳴かないのかまだまっくらいうちです。かくて道中、事も起こらずに増上寺へお着きとなれば、もうあとはたわいがないくらいでした。
「ゆうべ皆んな別棟べつむねに引揚げたのは何どきだ」
たそがれどきは物のが立つという。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お米の指が離そうともがく、抱えた両手の力は強い。折も悪く、早や逢魔おうまどきに近い九条づつみ、人通りも絶えている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「明けの七つ(午前四時)ごろだ」と叫び返すのが聞えた、「だがいまはなんどきだ」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
たそがれどきの裏町。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「もの申す、もの申す……」たそがれどきである。小丸山の庵室のまえに、四郎高綱は網代笠あじろがさいで立っていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「会おう、これへよこせ」と甲斐は云った、「いまなんどきごろだ」
時は、たそがれどきか、あるいは、よいか夜中か明け方か、いずれにせよ、闇でも花とちるにはかわりがない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いまなんどきごろかね」
おれの女房 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
人々役々で、退どきはちがうが、清盛はこのところ、帰宅は毎日、夜おそくなった。疲れる、腹がすく、妄想もうそうのいとまもない。結局、かれは救われた気がした。
「いまなんどきぐらいだ」
ちょうど今が、昼飯どきでその後の半刻休みを楽しんでいるのであろう。そこらに材木をおろしている牛車の牛もよだれをたらして、満身にはえを集めてじっとしている。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いまなんどきだ」
「——羽柴方では、すでに撤兵てっぺいを開始し始めました。五つどき(八時)頃から続々と岡山方面へ引き揚げてゆく隊伍が見られ、それは多分、宇喜多勢でないかと思われます」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんどきごろだ」
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
途中万一を思って、娘を送らせた金吾は直ちに戻ることと思っていたが、かれがそこに落着いて、湯浴ゆあみをすまし、服をかえ、ここのどきの時計を聞く頃になっても帰邸しない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「十九日の晩の五ツどきに、木津きづの河岸から安治川へ。その夕方に、四国屋の裏まで、身装みなりを変えて来てくれたら、あとはお久良様がよいように手筈をしようとおっしゃいます」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真夜半まよなかの九ツどき(午前零時)——までには、もう一とき(二時間)ほどしかない。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逃げようとすればいつなんどきでも逃げられないという事もない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『おい神崎、そろそろお弁当どきじゃないか』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……おや。もう三ツどきか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)