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列車
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れつしや
列車は、おやと
思ふほど
何処までも
長々と
列なつたが、
此は
後半部が
桐生行に
当てられたものであつた。
移る
前に、
好い
機會だから
一寸東京迄出たいものだと
考へてゐるうちに、
今度も
色々の
事情に
制せられて、つい
夫も
遂行せずに、
矢張り
下り
列車の
走る
方に
自己の
運命を
托した。
雖然、いざ、
分れると
成れば、
各自が
心寂しく、
懷かしく、
他人のやうには
思はなかつたほど
列車の
中は
人稀で、……
稀と
云ふより、
殆ど
誰も
居ないのであつた。
その
中はまだよかつた、……
汽車は
夜とともに
更けて
行き、
夜は
汽車とゝもに
沈むのに、
少時すると、また
洗面所の
扉から、ひよいと
顔を
出して
覗いた
列車ボーイが、やがて
「えゝ、
此の
列車では
横濱で
電報を
扱ひません、——
大船で
打ちますから。」
と
挨拶する。こゝで
列車が
半分づゝに
胴中から
分れたのである。
此列車は、
米原で
一體分身して、
分れて
東西へ
馳ります。
衝と
列車に
入つた
時、
驛夫の
少年は
車の
尾へ
駈けて
通る。