冷飯ひやめし)” の例文
柴井町の友次郎は、この八五郎が暫らく冷飯ひやめしを食つて居た、露月町の辰五郎棟梁をしばるかも知れません——とな。解つたか、ガラツ八
梅「むゝう……清藏どん、今にが明けてから一詮議ひとせんぎしましょうから、冷飯ひやめしでも喰わして物置へ棒縛りにして入れて置いて下さい」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「まだ、へい、にもござりましねえね、いんまわらびのおしるがたけるだが、おめし昨日きのふ冷飯ひやめしだ、それでよくばげますがね。」
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「かような美女を小藩者の冷飯ひやめし武士の自由にさせるは惜しい、大月先生のご所望を突ッぱねたとは冥加みょうがを知らぬ奴じゃわい」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
池田の屋敷はひどく逼迫ひっぱくしていると云うじゃあねえか。おまけに厄介者の次男坊だ。二十四や五になるまで実家の冷飯ひやめし
小父おぢさんの帰りはとつかはと馬車に乗りてはねばならぬ我宿わがやどの三ぜん冷飯ひやめしに急ぎ申候まうしそろいますなは如何いかん前便ぜんびん申上まうしあそろ通り、椽端えんばた日向ひなたぼつこにそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
台所を覗いてみると、冷飯ひやめしを弁当に詰めて行った形跡があるという訳で、初めて狩猟かりに行った事がわかったのだそうです
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これより以西以南の地は朝は冷飯ひやめしに漬物で食ふ。これは気候寒暖の差から起つた事であらう。(六月十七日)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
天下の最高学府の出身者が春廼舎朧といういきな雅号で戯作の真似まねをするというは弁護士の娘が女優になったり、華族の冷飯ひやめしがキネマの興行師となるよりも一層意外で
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
二三度んで見たが、阿母さんは桃枝もヽえおぶつて大原へ出掛けて居無かつた。貢さんは火鉢の火種ひだね昆炉しちりんに移し消炭けしずみおこして番茶ばんちや土瓶どびんわかし、しやけを焼いて冷飯ひやめしを食つた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
「ま、ま、さういはんで。冷飯ひやめしでよければ、わしのとこにもあるで、べてゆかつしやい。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
貧乏の味はしみ/″\めさせられた方だし、蝶子てふこも怠けものの洋服屋を父にもつて、幼い時分からかうして商売屋の冷飯ひやめしを食つて来たので、それを笑ふ気にもなれなかつた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
小栓はしずしずと小部屋の中から歩き出し、両手を以て胸をおさえてみたが、なかなか咳嗽がとまりそうもない。そこで竈の下へ行ってお碗に冷飯ひやめしを盛り、熱い湯をかけてべた。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
二人ともお尻をからげて、冷飯ひやめしぞうりを引っかければ、もうそれでりっぱな旅のしたく。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
年代記ものの黒羽二重くろはぶたえ素袷すあわせに剥げちょろ鞘の両刀をこじりさがりに落しこみ、冷飯ひやめし草履で街道の土を舞いあげながら、まるで風呂屋へでも行くような暢気な恰好で通りかかった浪人体。
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それをお民が半蔵に言うと、降蔵は遠慮なく頂戴ちょうだいというふうで、そこに腰掛けたまま飯櫃を引きよせ、おりからの山のわらびの煮つけなぞを菜にして、手盛りにした冷飯ひやめしをやりはじめた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私は、朝、正則に行って、正午までそこで学び、それからまた三時までは研数学館にいて、帰って来るとすぐ冷飯ひやめしをかき込んでは、四時にはもう籠をぶらさげて三橋附近の路傍ろぼうに立つのだった。
「余り堂々たるものでもないんだよ。それに僕は三男坊だから冷飯ひやめしだ」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
茶漬けにもよりけりだが、魚の茶漬けには冷飯ひやめしは絶対にいけない。
鮪の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
やにわに長い手を伸ばされて、はっと後しざりをする、娘の駒下駄こまげた、靴やら冷飯ひやめしやら、つい目が疎いかして見分けも無い、退く端のつまを、ぐいと引いて
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御家人ごけにん崩れか、旗本の冷飯ひやめし食いか、とにかく、江戸侍に相違ないことだけは、見当が付いたのでした。
お八重は叱るものが居なくなったせいか、昨夜ゆうべの残りの冷飯ひやめしの全部と、糠味噌ぬかみその中の大根やを、ぬかだらけのまま残らず平らげたために、烈しい下痢を起して
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いつまで師匠のうち冷飯ひやめしを食って、権助同様のことをしているのも気がきかないというので、師匠の許可を得て、たとい裏店うらだなにしても一軒の世帯をかまえることになって
月の夜がたり (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さっ、冷飯ひやめし濁酒代どぶろくだいに利子をつけて返すから、頭を出せっ、頭をここへ持って来いっ
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
束髪そくはつにして薔薇のかんざしでも挿さしたらお嬢さま然としたものです、何しろ此の山の中に居て冷飯ひやめしって、中の条のお祭に滝縞の単物ひとえものに、唐天鵞絨とうびろうどの半襟に、たもと仕付しつけの掛った着物で
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ただ、旧家の家長が目下の者に対するような風で、冷飯ひやめしの三吉と向い合っていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
浜名屋の冷飯ひやめし食い、飛抜けた道楽者で、親兄弟も構い付けない代り、女の子の達引たてひきには不自由をしない男、二十七八の若い燕型つばめがた、これは一番疑われそうな人間です。
冷飯ひやめし食いだの、厄介者だのとかげでは悪口をいうものの、さてその人の前では相当の遠慮をしなければならない。さりとて折角の獲物を唯むざむざと旗本の次男に渡してやるのも惜しい。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人々は互に新年の挨拶を取換とりかわした。屠手の群はいずれも白い被服うわっぱりを着け、素足に冷飯ひやめし草履という寒そうな風体ふうていで、それぞれ支度を始める。庭の隅にかがんで鋭い出刃包丁でばぼうちょうぐのもある。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それから大急ぎで湯をかして、昨夜ゆうべの残りの冷飯ひやめし掻込かきこんで、これも昨夜のままの泥靴をそのまま穿いて、アルミの弁当箱を詰めた黒い鞄を抱え直し抱え直し、落葉まじりの霜の廃道を
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
亭主は冷飯ひやめし猪汁ししじるを運んで来て
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「白旗直八は御家人の冷飯ひやめし食いだが、腕は相当に出来ている。眼を開いていちゃ、伴三郎風情に殺されるはずはねえ、——それに、居候の癖に女出入りで伴三郎とは仲が悪かったそうだ」
「話はそれから五年目だ——手つ取早く言へば、園山家の冷飯ひやめし食ひ勇三郎が、兄上は病弱、鶴松君を亡きものにすれば、間違ひもなく園山家の家督かとくに直れると思ひ込んで、鶴松君に毒を盛つた」
「話はそれから五年目だ——手っ取り早く言えば、園山家の冷飯ひやめし食い勇三郎が、兄上は病弱、鶴松君を亡きものにすれば、間違いもなく園山家の家督かとくに直れると思い込んで、鶴松君に毒を盛った」