余所目よそめ)” の例文
旧字:餘所目
余所目よそめには冷淡に見てゐるかと思はれる様子であつたが、唯目だけ大きく見開いて、目玉も少し飛び出してゐたやうであつた。
しかも涼しい風のすいすい流れる海上に、片苫かたとまを切った舟なんぞ、遠くから見ると余所目よそめから見ても如何いかにも涼しいものです。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一枚二枚は余所目よそめを振らず一心に筆を運ぶが、其中そのうち曖昧あやふやな処に出会でっくわしてグッと詰ると、まず一服と旧式の烟管きせるを取上げる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ほかのものはよほど前から材料をあつめたり、ノートをめたりして、余所目よそめにもいそがしそうに見えるのに、私だけはまだ何にも手を着けずにいた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのうち子供は、珍らしい人と話しているのを、犬なぞがよくするように、わざと余所目よそめをしながら何かの葉っ葉をちぎりちぎり近づいて来た。
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
その時に着て行く羽織や帯や長襦袢ながじゅばんの末にまで、それとなく心づもりをしている様子が余所目よそめにもて取れるのであった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
余所目よそめにもうらやまるゝほどしたしげに彼れが首に手を巻きて別れのキスを移しながら「貴方あなた、大事をおとりなさい、うちにはわたくしが気遣うて待て居ますから」
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
抱くばかりにしたのだが、余所目よそめには手負ておへるわしに、丹頂たんちょうつる掻掴かいつかまれたとも何ともたとふべき風情ふぜいではなかつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ほん父母ふたおやのありやなしや、更に聞かぬ。併し口にこそ言わぬが、其小さい心に一点の暗愁立ち去らぬ霧の如く淀んで居るのは、余所目よそめにも見られる。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
余所目よそめにも深川オペラ劇場主人があんまり面喰つてゐるものだから、樫の葉の御人がにつこりと笑つて、口を切つた。
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
それと同じように、余所目よそめには痩せて血色の悪い秀麿が、自己の力を知覚していて、脳髄が医者のう無動作性萎縮いしゅくに陥いらねば好いがと憂えている。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
余所目よそめには大層もない浮気ものらしく見えましても、これが日々にち/\の勤めとなっては大口きいてパッ/\と致すも稼業に馴れると申すものでござりましょう。
三十二年という三年間位はそれほど衰弱が増したように余所目よそめには見えなかった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
柴車しばぐるまいて来るおばさんも、苅田かりたをかえして居る娘も、木綿着ながらキチンとした身装みなりをして、手甲てっこうかけて、足袋はいて、髪は奇麗きれいでつけて居る。労働が余所目よそめに美しく見られる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ステパンと云ふ男は余所目よそめには普通の立派な青年近衛士官で、専念に立身を望んでゐるものとしか見えない。併しその腹の中に立ち入つて見ると、非常に複雑な、緊張した思慮をめぐらしてゐる。
「一方になびきそろひて花すゝき、風吹く時そ乱れざりける」で、事ある時などに国民の足並の綺麗に揃うのは、まことに余所目よそめ立派なものであろう。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
さもなくば内で取次だが、此奴こいつ余所目よそめには楽なようで、って見ると中々楽でない。漸く刑法講義の一枚も読んだかと思うと、もう頼もうと来る。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
瑞仙の家は此の如く栄達の途を進んで行つて、余所目よそめには平穏事なきが如くに見えてゐた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その挙動ふるまい朦朧もうろうとして、身動みうごきをするのが、余所目よそめにはまるで寝返ねがえりをするようであった。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今朝学校へ送って行くみちで悦子に話したらしいのであるが、平素はひどく愛想のよい女であるのに、しかられると俄然がぜん気の毒なくらいしおれてしまうのが、余所目よそめにはかえって可笑おかしみを誘った。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
余所目よそめに見て二階に居ることはねえ、此処これへまいり、成り代って詫をしたら堪忍してくれると云いまして、お包を取上げましたから、渡すめえとしっかり押えると、あんた傍に居た奴がわしの頭を叩いて
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
梁山泊りょうざんぱく割符わりふでも襟に縫込んでいそうだったが、晩の旅籠にさしかかったうえ疲労つかれは、……六よ、怒るなよ……実際余所目よそめには、ひょろついて、途方に暮れたらしく可哀あわれに見えた。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余とエリスとの交際は、この時までは余所目よそめに見るより清白なりき。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
あたかもきたるものを愛するごとく、起きると着物を着更きかえさせる。抱いて風車かざぐるまを見せるやら、懐中ふところへ入れて小さな乳を押付おッつけるやら、枕をならべて寝てみるやら、余所目よそめにはまるで狂気きちがい
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余所目よそめたる老夫はいたく驚きてかおそむけぬ、世話人は頭をきて
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)