人出ひとで)” の例文
三度目に掛合かけあった老車夫が、やっとの事でお豊の望む賃銀で小梅行きを承知した。吾妻橋あずまばしは午後の日光と塵埃じんあいの中におびただしい人出ひとでである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
尼寺あまでらて、ぼくはびっくりした。まるでおまつりのときのような人出ひとでである。いや、おまつりのとき以上いじょうかもれない。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
銀座は、ひどい人出ひとでである。みんな僕たちみたいに家が憂鬱ゆううつだから、こうして銀座へ出て来ているのであろうか、と思ったら、おそろしい気がした。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「よウ、京都の葵祭あおいまつりにも人出ひとではあるが、この甲斐かい山奥やまおくへ、こんなに人間があつまってくるたあ豪勢ごうせいなもンだなあ……」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地元じもとさとはいうまでもなく、三近郷近在きんごうきんざいからもたいへんな人出ひとでで、あのせま海岸かいがん身動みうごきのできぬ有様ありさまじゃ。往来おうらいには掛茶屋かけちゃややら、屋台店やたいみせやらが大分だいぶできてる……。
それは日曜にちよう午前ごぜんでした。天気てんきがいいので、往来おうらいは、いつになく人出ひとでおおく、カメラをげてかける青年せいねんなどを見受みうけました。このとき、チリン、チリンというすずがしました。
生きぬく力 (新字新仮名) / 小川未明(著)
初めはいきた亀ノ子となど売りしが、いつか張子の亀を製し、首、手足を動かす物を棒につけ売りし由。総じて人出ひとで群集ぐんしゅうする所には皆玩具類を売る見世みせありて、何か思付おもいつきし物をうりしにや。
江戸の玩具 (新字旧仮名) / 淡島寒月(著)
両方の橋のたもとはこの見物で、爪も立たないような大変な人出ひとで
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
町内ちやうないいつぱいのえらい人出ひとでだ、なんにつけても騷々さう/″\しい。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
三度目に掛合かけあつた老車夫らうしやふが、やつとの事でおとよの望む賃銀ちんぎん小梅こうめきを承知した。吾妻橋あづまばしは午後の日光と塵埃ぢんあいの中におびたゞしい人出ひとでである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
浅草雷門あさくさかみなりもんまで来た。浅草は、大勢の人出ひとでであった。もう泣いていない。自分を、ラスコリニコフのような気がした。ミルクホールにはいる。卓の上が、ほこりで白くなっている。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかし、そのは、縁日えんにちで、いつもよりかいっそう露店ろてん人出ひとでおおかったのです。
ある夜の姉と弟 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かねチャンギリもきうきとして、風流小袖ふうりゅうこそで老幼男女ろうようなんにょが、くることくること、帰ること帰ること、今宮神社いまみやじんじゃの八神殿しんでんから、斎院さいいん絵馬堂えまどう矢大臣門やだいじんもん、ほとんどりなすばかりな人出ひとでである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道子みちこはハンドバツグからピースのはこ取出とりだしながら、見渡みわたすかぎりあたりはぼんの十四日よつかよる人出ひとでがいよ/\はげしくなつてくのをながめた。(昭和廿八年十二月作)
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
夏のころの、これは、お話でございます。新宿は、たいへんな人出ひとででございます。
愛と美について (新字新仮名) / 太宰治(著)
春昼しゅんちゅうふたつの人出ひとで
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夕凉ゆふすゞみ出掛でかけるにぎやかな人出ひとでの中においとはふいと立止たちどまつて、ならんで歩く長吉ちやうきちそでを引き、「ちやうさん、あたいもきあんな扮装なりするんだねえ。絽縮緬ろちりめんだねきつと、あの羽織はおり………。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)