下役したやく)” の例文
五番ごばんめの石上いそのかみ中納言ちゆうなごんつばめ子安貝こやすがひるのに苦心くしんして、いろ/\とひと相談そうだんしてのち、ある下役したやくをとこすゝめにつくことにしました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
思ひり又も泪にくれをり丑刻やつかね鐵棒かなぼうの音と諸共に松本理左衞門は下役したやく二人下男五六人召連自分じぶん獄屋ごくやに來り鍵番かぎばんに戸口を明けさせ九助を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
貞固は津軽家の留守居役所で使っている下役したやく杉浦喜左衛門すぎうらきざえもんって、照を見させた。杉浦は老実な人物で、貞固が信任していたからである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
壮士坊主が騒いで居るところへシャーゴの下役したやくを勤めて居る警護の僧が、長さ二間ばかり太さ五、六寸ほどの柳の棒をげて見廻りに出かけて来る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
あなたには奉行ぶぎょう検視けんしの役人などが、床几しょうぎをすえて、いそがしくはたらく下人げにんたちのようすをながめ、ときどき、なにか下役したやくへ注意をあたえている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父は出入りの下役したやく淀井よどいの老人を相手に奥の広間、引廻ひきまわ六枚屏風ろくまいびょうぶの陰でパチリパチリ碁を打つ。折々は手を叩いて、銚子ちょうしのつけようが悪いと怒鳴る。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
何か見物に出掛けようとすると、必ず御目附方おめつけがた下役したやくが附いて行かなければならぬと云う御定おさだまりで始終ついまわる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
海上勤務の頃は、事務長をしていたのか、あるいはその下役したやくの事務員かは知らないが、欧洲航路の船に乗って、しばしば珍しいおみやげを持って来てくれた。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
なんじを訴うる者と共にみちるうちに、早く和解せよ。恐らくは、訴うる者なんじを審判人さばきびとにわたし、審判人は下役したやくにわたし、遂になんじはひとやに入れられん。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
草むらにあぐらをかいた下役したやくどもは、ひなたぼっこと雑談を仕事と心得て、こうガヤガヤ話しこんでいる。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
イエルサレムにあるサンヘドリムの門番だったと云うものもあれば、いやピラトの下役したやくだったと云うものもある。中にはまた、靴屋だと云っているものもあった。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
作「うん、下役したやくのお方だが、今度の事に就いては其の上役うわやくお作事奉行が来て居ますよ、有難い事だのう」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そこで、せわがかりの下役したやくおとこに、ただでもらってもらうというありさまでした。
そのとき下役したやくの一人が低声こごえでいった。
青蠅 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
始め其外の惡事等までのこらず申立ければ大岡殿能白状致したなほおつて吟味に及ぶと申さるゝに下役したやくの者立ませいとこゑかけやがて願山を退ぞかせけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なんじを訴うる者とともにみちに在るうちに、早く和解せよ。おそらくは、訴うる者なんじを審判人さばきびとにわたし、審判人は下役したやくにわたし、ついになんじはひとやに入れられん。
HUMAN LOST (新字新仮名) / 太宰治(著)
当時の留守居役所には、この二人ふたりの下に留守居下役したやく杉浦多吉すぎうらたきち、留守居物書ものかき藤田徳太郎ふじたとくたろうなどがいた。杉浦は後喜左衛門きざえもんといった人で、事務に諳錬あんれんした六十余の老人であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ホテルの台所で米のめしくことも出来ず、とう/\仕舞しまいには米を始め諸道具一切の雑物ぞうぶつを、接待がかりの下役したやくのランベヤと云う男に進上して、ただもらっもらうたのも可笑おかしかった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
年とった支那人はこう言ったのち、まだ余憤よふんの消えないように若い下役したやくへ話しかけた。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
見られ其方儀さる十二月二十七日の夜當方の下役したやく名乘なのりし者に召捕れ候趣き其節の手續てつゞき明白に申立よと尋ねられければ文藏はなみだ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
名は役頭やくがしらまたは奉行ぶぎょうなどと称すれども、下役したやくなる下士かしのために籠絡ろうらくせらるる者多し。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
りよ前日ぜんじつ下役したやくのものにつていて、今朝けさはやきて、天台縣てんだいけん國清寺こくせいじをさして出掛でかけることにした。これは長安ちやうあんにゐたときから、台州たいしういたら早速さつそくかうとめてゐたのである。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
するともう若い下役したやくは馬の脚を二本ぶら下げたなり、すうっとまたどこかからはいって来た。ちょうどホテルの給仕などの長靴ながぐつを持って来るのと同じことである。半三郎は逃げようとした。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それにこのあひだに、多人數たにんず下役したやく謁見えつけんをする。受持々々うけもち/\事務じむ形式的けいしきてき報告はうこくする。そのあわただしいなかに、地方長官ちはうちやうくわん威勢ゐせいおほきいことをあじはつて、意氣揚々いきやう/\としてゐるのである。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)