もち)” の例文
かなたにてもこなたにても彼等はおのが立處たちどに下り、既にもちにまみれて上層うはかはの中に燒かれし者等にその鐡搭くまでをのべき 一四八—一五〇
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
盛夏には蠅の勢強き時なれば竹あるいは木の棒を二尺位の長さに切りもちを全体に塗付けて天井へ三尺おき位に吊下げおくも良し。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかし、腰から下を浸している水の、何んと粘っこく、もちかのように感じられることか! どうにも水切りすることが出来ないのであった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
少しずつ貰った小使銭位では、毎日いたずら半分にかける「ハガ」のもちを買うのに足らない。そこで誰に教わるとなしに覚えた黐の製造をやる。
井戸 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
……次手ついでに、おなじ金澤かなざはまち旅宿りよしゆくの、料理人れうりにんいたのであるが、河蝉かはせみもちおそれない。むしらないといつてもい。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
沈丁花、山椒、野木瓜むべもちそれに泉水ちかく老梅の古木が、蜿々として奇なる枝振りを、見事に撓り、屈らせてゐた。
異版 浅草灯籠 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
老人はその意味をし兼ねたらしいが、云われるままに承知して、竹竿のぬれたもちを練り直していると、しぐれ雲はもう通り過ぎてしまったらしく
半七捕物帳:15 鷹のゆくえ (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御鷹おたかを集める鳥刺しの中には、三間余りの竹竿を持って行って、あんなにはしっこい小鳥をもちで刺すのですから、並大抵の手練じゃございません。
だが、思い込んだ男の手は、もちの様にねばり強くて、容易に離れなかった。離れないばかりか、段々強い力で彼女のきゃしゃな指を締めつけて行った。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
植えてから五六年は実の成らなかったもちの樹に、赤い小粒の実が成り始めた年から、よく小禽類の来るようになったのも、今年はそれが目立って増えた。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
もちでとると翅がよごれるといつて三盆白の袋を竿のさきへつけ庭から墓場へとさがしてあるく。木が多いので一順まはるうちにはいやになるほどとれる。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
狭い庭にある二本のもちの樹の燃えたつ青葉が油のような青空をささえていて、ほど遠からぬところにある野づらや海のいきれがくらくらと彼の額に感じられた。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
それは枯枝にもちを塗りつけて流すと、水面におりた鴨がその枝をつかむとか、翼をとられるとかして飛べなくなる。それを小舟で集めるという仕掛であった。
若き日の摂津守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
落ちたら出る事ならぬおとしあなや木葉にもち塗りて虎にねばりつき狂うてついに眼が見えぬに至らしむる設計しかけ等あるが、欧人インドで虎を狩るには銃を揃え象に乗って撃つのだ。
飯田町いいだまち三丁目もちの木ざかした向側の先考如苞翁じょほうおうの家から毎日のように一番町なるわたしの家へ遊びに来た。
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もちや網で捕れるつぐみひはの類はおびたゞしい數でした。雀などは小鳥の部にも數へられないほどです。子供ですら馬の尻尾の毛で雀のわなを造ることを知つて居ました。
コムギシラコ 土佐の高岡郡では、フスマすなわち小麦の皮を水でねて、そのねばりをもちの代りにする。子供が蜻蜒とんぼをさすのは、通例はこの小麦シラコであるという。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
足下の砂浜は瀝青チャンのようで、足の裏はすいついてしまう。それはもう砂ではなくてもちである。
もちの着き居し実例など語りて之に和し、脚の疲れを忘れて押上おしあげ通りを過ぎ、業平にて相分れしが、別るゝに臨みて、老人、『その内に是非お遊びに』と言ひかけしが、更に改めて
釣好隠居の懺悔 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
手近に金のない時は、板片いたぎれの端にもちをつけて、銭函ぜにばこの中から銀貨を釣り出した。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もちかし、その他の雑木生い茂りて、すこぶる薄さびしき所なるが、四、五日前より天気快晴なるにもかかわらず、この境内の樹木より、ポツリポツリと雨雫あましずくが落ちきたるを近所の者が認め
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
安井はもちのような熱にからみつかれて、毎日その差し引きに苦しんだ。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もちに著いたつぐみのように、並べて吊るされるのだ。
煮ゆるもちほとり巡視みめぐり、またこの多くの岩窟いはあなの上にすきなく懸れる次の岩まで此等の者をおくりゆけ 一二四—一二六
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
つぐみといふとりひわといふとりは、なんんでまゐりましても、みんなあみもちかゝつてしまひますが、私共わたしどもにかぎつて軒先のきさきしてくだすつたりをかけさせたりしてくださいます。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
猴の黠智かっち驚くべし、ある説に猟人もちくつを備うるに猴その人の真似して黐を身に塗り履を穿きて捕わると、ムキアヌスは猴よく蝋製のこまを識別し習うて象戯しょうぎをさすといった。
障子の硝子越ガラスごしに、もちの樹が見え、その樹の上の空に青白い雲がただよっているらしいことが光線の具合で感じられる。冷え冷えとして、今にも時雨しぐれが降りだしそうな時刻であった。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
驚いて逃げようとする私の足は、いつか彼のもちの様な手に掴まれていた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし座敷の蠅位はもちでも取れますけれども台所の蠅は容易な事で取り尽せません。ことに我輩の家の台所は貴君あなたの攻撃を受けた通り旧式で不潔でくらいのですから蠅は安楽国と思って無闇むやみに繁殖します。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
安井やすゐもちやうねつからかれて、毎日まいにちそのきにくるしんだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『樫づんど 若木のつげもちの森 雪隠椿、門に柚の木』
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)