魂消たまぎ)” の例文
ちええ、面倒だ。と剣をふるい、胸前むなさき目懸けて突込みしが、心きたる手元狂いて、肩先ぐざと突通せば、きゃッと魂消たまぎる下枝の声。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「呼吸を! あッ」というお粂の声が、魂消たまぎるように聞こえたかと思うと、玄関のほうへ走り返る、狂気じみた足の音がした。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
丁度六ツ半頃、庭にたらいを出させてはぎあいだ行水ぎょうずいを使っていると、とつぜん隣の家で、きゃッという魂消たまぎえるような女の叫び声が聞え、続いて
『アレツ!』『アレツ、新坊さんが!』と魂消たまぎつた叫声さけび女児こどもらと智恵子の口からほとばしつた。五歳いつつの新坊が足をさらはれて、あつといふ間もなく流れる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『おつ魂消たまぎえた/\、あぶなく生命いのちぼうところだつた。』と流石さすが武村兵曹たけむらへいそうきもをつぶして、くつ片足かたあしでゝたが、あし幸福さひはひにも御無事ごぶじであつた。
魂消たまぎるように叫びつつ身を起した。素跣足すはだしのまま寝台から飛び降りて、すそもあらわに私にすがり付こうとした。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それから何分のちのことだったかよく分らないが、この噴泉浴室の中から、突如として魂消たまぎるような若い女の悲鳴が聞えた。それは一人のようでもあり、二人のようでもあった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、猛犬の凄まじいうなり——それにつづいてひいと魂消たまぎる子供の声が闇をつん裂いた。
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
もし余があの銀杏返いちょうがえしに懸想けそうして、身をくだいても逢わんと思う矢先に、今のような一瞥いちべつの別れを、魂消たまぎるまでに、嬉しとも、口惜くちおしとも感じたら、余は必ずこんな意味をこんな詩に作るだろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
姫よ、怪魚けぎよかと魂消たまぎえぬ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
今の二人の魂消たまぎりしに何事ならんと駈附けつ、真先まっさきなるは時次郎、「照子様、どうなさいました、幽霊が出ましたかね。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「わっ」と魂消たまぎえる声と共に、甚三は右手めてへよろめいたが、そのままドタリと転がった時、甚内は馬から飛び下りた。止どめの一刀を刺そうとした。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
また、狂いまわったばかりのところと見え、長い黒髪をすさまじいばかりに畳の上に散らし、眼尻を釣りあげてジッと三人をめつけていたが、とつぜん、魂消たまぎえるような声で
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と、魂消たまぎえる異様な悲鳴が、突然に闇を破って聞えた。どうやら向うのとおりらしい。途端とたんに向うに見える時計台から、ボーン、ボーンと十一時を知らせる寝ぼけたような音が響いて来た。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はじめて奧樣おくさま日出雄樣ひでをさまが、日本にほんへおかへりになるとうけたまはつたとき本當ほんたう魂消たまぎえましたよ、しかしそれは致方いたしかたもありませんが、其後そのゝちよくうけたまはると、御出帆ごしゆつぱん時日じじつときもあらうに、今夜こんやの十一はん……。
公園は森邃しんすいとして月色ますますくらく、夜はいまや全くその死寂に眠れるとき、谽谺こだまに響き、水に鳴りて、魂消たまぎ一声ひとこえ
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぱっちりいた眼が、ぴかりしたかと思うと、魂消たまぎった声で、助けて——助けて——と叫びました。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どッというひびき、奥のかた騒がしく、あれと言う声、叫ぶ声、魂消たまぎる声のたちまち起りて、にわかにフッとみたるが、一文字に門口かどぐちよりまりのごとく躍り出で、白きものくうけて
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひいツ、と魂消たまぎつて悲鳴ひめいげた、いとのやうなをんなこゑこだまかへしてぬまひゞいた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
魂消たまぎゆるかなののしかわすわ。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)