震撼しんかん)” の例文
と、令をさけぶと、たちまち天地を震撼しんかんして、かつて甲州の将士の耳には、聞いたこともない轟音ごうおんが、城の数ヵ所から火を吐いた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分は震撼しんかんしました。ワザと失敗したという事を、人もあろうに、竹一に見破られるとは全く思いも掛けない事でした。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もん震撼しんかん、九族は根絶やし。——果然、道中何かの計画があったとみえて、見る見るうちに豊後守の顔が青ざめました。
座敷の中は、黄昏たそがれのように、暗くなっていた。いなずまは白く、青く、ひらめき、走り、雷鳴は建物ぜんたいを震撼しんかんさせ、揺りたてるように思えた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
漫々として浪一つ立たない静かな海も、どこかその底の底には、恐ろしい大怪物がひそんでいて、今にも荒れ出して、天地を震撼しんかんさせそうに思われました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
ガチャリと電話が切れたと思うと、やがて船腹ふなばら震撼しんかんする波濤なみ轟音おとが急に高まって来た。タッタ二ノットの違いでも波が倍以上大きくなったような気がする。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
蓬々ほうほうとして始まり、号々として怒り、奔騰狂転せる風は、沛然はいぜんとして至り、澎然ほうぜんとしてそそぎ、猛打乱撃するの雨とともなって、乾坤けんこん震撼しんかんし、樹石じゅせき動盪どうとうしぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
当時世間を震撼しんかんさせたピストル強盗清水定吉とか、稲妻小僧坂本慶次郎とかは、忽ち探偵小説となった。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
『主よ、なんじのことばは正しかりき。なんとなれば、なんじの道の開けたればなり!』と叫んだとき、全字宙がどんなに震撼しんかんするかということも、僕にはよくわかる。
道志山脈、関東山脈の山々の衣紋えもんは、りゅうとして折目を正した。思いがけなく、落葉松からまつの森林から鐘が鳴った、小刻みな太鼓が木魂こだまのように、山から谷へと朝の空気を震撼しんかんした。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
一世を震撼しんかんせしめた稀代の女賊「黒トカゲ」は、かくして息絶えたのであった。名探偵明智小五郎の膝を枕に、さも嬉しげな微笑を浮かべながら、この世を去ったのであった。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
八幡村を震撼しんかんさせるような恐怖が起ったのは、その翌日の夕方のことでありました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これほど社会を震撼しんかんし、しかもこれほど、事件当時のみならず長く以後にわたって、警視庁ヤアド内部はもちろん、あらゆる犯罪学者、あらゆる私設探偵局、あらゆる新聞社の専門的犯罪記者等から
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
ナポレオンの爪に猛烈な征服慾があればあるほど、田虫の戦闘力は紫色を呈して強まった。全世界を震撼しんかんさせたナポレオンの一個の意志は、全力をげて、一枚の紙のごとき田虫と共に格闘した。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
その年の二月と三月に血盟団事件があって、井上準之助と団琢磨だんたくまが射殺された。五月には犬養いぬかい首相が暗殺された。この五・一五事件は前の二件とちがって、大規模な集団行動として世間を震撼しんかんさせた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
しかし信長の左右すべての人々が、信長の震撼しんかん慴伏しょうふくして、一瞬、せきとしたまま、声もないので、しばらく彼もそこを起ちかねていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かならずしも私にとって頂門ちょうもん一針いっしんというわけのものでも無かったし、また、あなたの大声叱咤しったが私の全身を震撼しんかんさせたというわけでも無かったのです。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
然も極めて忍びやかに繰り返されているのだが、それにもかかわらず、老中部屋の空気は、まるで巨大な樹木が眼に見えぬ旋風に挑みかかるかのように震撼しんかんしていた。
城中の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さるをかくごとくなるに至りし所以ゆえんは、天意か人為かはいざ知らず、一動いて万波動き、不可思議の事の重畳ちょうじょう連続して、其の狂濤きょうとうは四年の間の天地を震撼しんかん
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
とにかく、「ジャック・ゼ・リッパア」なる人物は、なにかの理由から、イースト・エンドの売春婦をひいてはロンドン全体を、その人心を、社会を、震撼しんかん戦慄せんりつさせるのが目的だったに相違ない。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
彼の心を震撼しんかんするのであった。
逃げる敵の悲鳴か、追いまくる味方の声か、ごうごうと曠野こうやの闇をふく風のような震撼しんかんが、しばし何処ともなく揺るがしていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
羽ばたきの音も物凄ものすごく一斉に飛び立ってかの舟を襲い、羽で湖面をあおって大浪を起したちまち舟を顛覆てんぷくさせて見事に報讐ほうしゅうし、大烏群は全湖面を震撼しんかんさせるほどの騒然たる凱歌がいかを挙げた。
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
共に青年時代の流寓中るぐうちゅうの事件であるが、一世を震撼しんかんさせた事件なので、かなり詳細にそして後世まで伝聞されたものと思われる。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これが叡山を焼き、武田を討ち、ついきのうは、越前から加賀まで震撼しんかんさせてきた猛将だろうかと思うのである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
必要以上な彼の大声に、吟味所の冷気は一瞬震撼しんかんし、遠い木戸口の獄役人らも、ぎょっとした様子だった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
将軍綱吉つなよしとても、多分に心を震撼しんかんされたここちであった。ものにさわるような鄭重さが、この一隠居と将軍家との対面に無言の気づかいを終始くばっていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこには、たちまち矢叫やさけび、吶喊とっかんこえ大木たいぼく大石たいせきを投げおとす音などが、ものすさまじく震撼しんかんしだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
都へは使者がせ、各州には官符かんぷが飛び、梁山泊りょうざんぱくの名はいまや、全土へ震撼しんかんしているにちがいない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、寄合のある座敷のほうで、怒号と物音と、何やら、すさまじい空気が、屋内を震撼しんかんし出した。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒煙のただよい出した障子いちめんに、こまかい血しおの霧が打った。みだるる黒髪の下から最期の息で子の名をよぶ母の声も洩れた。しかしすべては一瞬の震撼しんかんに似ていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乱箭らんせんの交換に、雲は叫び、肉闘剣戟にくとうけんげきの接戦となって、は裂け、旗は折れ、天地は震撼しんかんした。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虎は目鼻から血をき出す。うめきは全山を震撼しんかんする。さらに蹴る。打ちに打ちのめす。苦しさの余り虎は腹の下の土を掘った、虎のからだの両側に小山ができる……。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一時、天下を震撼しんかんさせた小牧こまきえきも、これで終った。かたちとして、暫定的ざんていてきに、ひとまず終った。信雄は、年暮くれの十四日に、岡崎へやって来て、押しつまった二十五日まで滞在していた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてこれも予想になかった震撼しんかんをよびおこし全官軍の大驚愕だいきょうがくとなった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山陰の天地を震撼しんかんして、丹波丹後二藩の士民を沸騰ふっとうさせた桔梗河原の大試合に、京極藩の大月玄蕃のだい試合として現われた稀世の名剣客鐘巻自斎かねまきじさいと、福知山方の衆望をになって死を決した春日重蔵——。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昼近くなるにつれて、砲声はいんいんと震撼しんかんしはじめた。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
突として、鼓声鉦雷こせいしょうらいのひびきが、白夜を震撼しんかんした。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)