もと)” の例文
斯ういう人と、もとめとに対しては容易に答えられるものではない。私はふとヘルマン・ヘッセのシッダールタという本を思い起した。
褐色の求道 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
而シテ君今亡シ。嗣子紳六郎男、其伝ヲ携ヘ来リテ之ニ序セムコトヲもとム。余之ヲ読ミテ其感ニ堪ヘス。即数言ヲ記シテ以テ之ヲ返ス。
西周伝:05 序 (新字旧仮名) / 津田真道(著)
此際に於て尤も多く時代にもとめらるべきは、此目的に適ひたるものなるが故に、其第一着として三田翁は皇天の召に応じたるものなり。
すなわち本誌編者のもとめに応じて、いささかこの問題に関する余輩の回顧を筆録し、再建論者としての余輩の立場を明らかにせんとする。
法隆寺再建非再建論の回顧 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
後にどうつくろうべきものでもなかろう。ただ、時の流れと、時評の是々非々と、そして読者のもとめにまかせるのみである。
宮本武蔵:01 序、はしがき (新字新仮名) / 吉川英治(著)
色つぽいことを口にし、もとめに応じては端唄都々逸はうたどどいつのひとふしもやらうと云ふので、おきよが、草餅やだるま茶屋のねえさんでもあるまいし
一の酉 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
広告で見ると、可成りちゃんとした生活をしている寡婦が、色んな事情から、残余の人生の同伴者をもとめている真面目な態度が頷首うなずかれるのだ。
斧を持った夫人の像 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
五艦隊司令長官「臆病おくびょう組というのも入れておいて貰いたいね。こっちで救援をもとめているのに、知らん顔をして逃げ出したやつがいたからねえ」
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ところが茶室に懸って居た韓退之の詩の句をもとめられるままに読み且つ講じたので、物陰でそれを聞いた信長が感じて殺さずにしまったのである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そは多くの焔墓の間に散在して全くこれを燒けばなり、げにいかなる技工わざといへどもこれより赤くはくろがねを燒くをもとめぬなるべし 一一八—一二〇
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ことわざニ曰ク、女ヲ相シテ夫ニ配スト。記ニ曰ク、人ハ必ズ其たぐひニ擬スト。烹調ほうてうノ法何ゾ以テ異ナラン、凡ソ一物ヲ烹成セバ必ズ輔佐ヲもとム……」
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ある村では克明に古い形をもとめ、他の村では新しいものが珍重せられて、それをまた忘れようとさえしているのである。
其当時は民家少なく、往還の人が迷惑したので、萩原某なるものが一戸を建て、もとめに応じて宿を借したのが戸倉に於ける旅舎のはじまりであったという。
尾瀬の昔と今 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
お客のもとめに応ずるために各種の品物を常に用意し、買ってもらえば袋とか箱とかに入れ、紙で包み紐をかける。配達でもすればなおさらのことだ。
今回桜井書店主人のもとめを快諾してその中の興趣ありとみだりに自分勝手に認めるもの三十七題を択んで、ここにこれをこの一書にまとめ読書界に送った。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
彼女自身役に立てる道はなくても、同じ仕事の他の方面を分担している人々が、万一もとめているかもしれない。——
沈丁花 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
余は日本狂にほんぐるいと称せられてかえっておおいに喜悦せり、しかるに今やこの頼みに頼みし国人に捨てられて、余は帰るに故山なく、もとむるに朋友なきに至れり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
すこぶる多端たたんなりし、しかも平地に於ける準備と異なり、音信不通いんしんふつうの場所なれば、もし必要品の一だも欠くることあらんか、到底とうていこれをもとむるに道なし
七八年前の冬休みに、うさぎを一匹もとめて、弟と交互かたみに擔いで、勤め先から歸省したことが、ふと彼れの心に浮んだ。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
其反抗は常に私に不利な結果をもたらした。郷里くにから函館へ、函館から札幌へ、札幌から小樽へ、小樽から釧路へ——私はさういふ風に食をもとめて流れ歩いた。
弓町より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
つまりこういう経験が、その過去においてあったところから、そこでこの日「五臓丸」という薬売りの呼び声を耳にするや、すぐ一粒をもとめたのであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
主人のA・Mは、当日、アパートメントの入口に立つて、一々来訪者に名簿を差だし、そのサインをもとめる。
世界人情覗眼鏡 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
煉瓦工場では遠方にその材料の粘土をもとめ出した。あかい二つの触角は、森山の所有地を挟んで伸びて行った。
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
宴なかばに孫はもとめに応じて、その拳法の型を見せてくれましたが、その拳の動きの早いことと言ったら、まるで流星みたいで、こんな男と喧嘩でもしたら
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
という緑青ろくしょう畑の妖雲論者よううんろんしゃにとってはすこぶるふさわしからぬ題目について思いめぐらし、眼は深田久弥のお宅の灯を、あれか、これか、とのんきに捜しもとめていた。
狂言の神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
当時の左翼作家の長老堺枯川さかいこせんが「売文社」というのを起して、あらゆる文章の代作のもとめに応じたことがありますが、東野南次の代作業は、そんな大げさなものではなく
漸次仕事が広げられ、のこぎりはさみ金鎚かなづちに及び、更に栄えるにつれて機械を入れ、ナイフ、フォークの類にも及び、盛に中央の都市のもとめに応じ大きな産業へと発展しました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
二間ふたまを隔つる奥に伴いて、内儀は賊のもとむる百円を出だせり。白糸はまずこれを収めて
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
諸侯辞するに船なきを以てせば、彼れ必ず曰わん、船は米利堅メリケンの富む所なり、多寡はそのもとむる所に任ぜん、その価直のごときは、五年もしくは十年を待ちて、漸次に償清せよと。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
誰でも、めいめいが、それをやってみようと思えば、マルソオは機嫌きげんよく実験のもとめに応じるのだ。人はそこで彼に「行燈あんどん」とか、「提燈ちょうちん」とか、「赤頬あかほっぺ」とかいう異名いめいをつけた。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
こういうものが如何なる時代に如何なる人のもとめによって如何なる人によって制作されたかということは、色々な問題に聯関して研究さるべき興味ある題目となるであろうと思われる。
山中常盤双紙 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
簡潔をきわめたこの履歴書のうち、医学に関する記述が半ば以上を占めていることは、よしんばそれが医師互助会のもとめに応じたものであったにしても、一応は注目すべきであると思う。
十月二十五日 東京朝日新聞よりもとめらるゝまゝに武漢陥落を祝す句のうち。
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
が、再三熱心にもとめるので、終に日本新聞社から特に派遣する事になった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
店に羊頭を掛けてその肉を売らんというものあり、客入りてこれをもとむればこれに狗肉くにくを与う、知らざる者は見て羊肉となし、しかしてあやしまず、世間政論を業とする者これに類すること多し。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
けれどもベンサムの法典編纂に対する熱心は、固より一回の蹉跌さてつをもって冷却するものではなかった。氏はその目的の容易に達し難きを観るや、諸方に意見書を贈って法典立案の委嘱をもとめた。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
言つて、気にへて貰つては困りますが、先刻さつきの婦人に対するあなたの応対ぶりは、まだ十分とは言へなかつたやうですね、あの方は此方こつちの出やうによつては、もつとおもとめになつたかも知れませんよ。
双親を通して申込まれる山々からの縁談も無いことはないのだが、ぜひ自分でなくてはと望むらしい熱意あるもとめとは受取れなかった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
し支那の如き族制に起りたる国に自由の精気をもとめ、英米の如き立憲国に忠孝の精気を求めなば、人は唯だ其愚を笑はんのみ。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そして又誰か他人の所有に優るところの面白い、味のある、平凡ならぬ骨董を得ることを悦ばぬ者が有らう。もとむる者が多くて、給さるべき物は少い。
骨董 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
七八年前の冬休みに、うさぎを一匹もとめて、弟と交互かたみかついで、勤先から帰省したことが、ふと彼れの心に浮んだ。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
その反抗はつねに私に不利な結果をもたらした。郷里くにから函館はこだてへ、函館から札幌さっぽろへ、札幌から小樽おたるへ、小樽から釧路くしろへ——私はそういう風に食をもとめて流れ歩いた。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
「帰参が叶うと思えばこそ、こんな零落のその中でも、紋服一領は持って居ります。新しくもとめた器類へも例えば提燈ちょうちんや傘へさえ、家の定紋を入れて居ります」
村井長庵記名の傘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
本編は去る七月十一、十二の両日にわたって、仙台放送局のもとめに応じて放送したところであります。
本州における蝦夷の末路 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
身体からだの方も大分まいっているのだし、気持ちの上では、より以上に休息をもとめているのであった。
山茶花 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
強引にもこれをもとめた。そのほか三、四郡の地をも望みに加えていたが、ほかは秀吉が抹消してしまった。そして長浜六万石だけは、きれいに彼へ渡してやったのである。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人間は何故に長く生きていなければならぬ? また人間は何故に幸福をもとむる事を切望する? の最大目的は動物でも植物でもおよそ生きとし生けるものは皆敢て変わる事はない
茶道さどうもとめで、茶礼の器物がその重要な品目であった。人々はこの頃のものを「白薩摩」と呼ぶ。だが更に降って寛政に至り、その白陶は錦襴の絵附を受け、「絵薩摩」へと進んだ。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
亀之介を退室させた後、帆村は「どうでしたか」と感想を検事たちにもとめた。
地獄の使者 (新字新仮名) / 海野十三(著)
七月六日 朝日新聞のもとめにより。開戦記念日を迎ふる句のうち。
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)