ゼロ)” の例文
〇・〇〇……といくら小さい数になってもよいが、それはゼロであってはならない。零を考えると、別の議論になってしまうからでる。
小林秀雄と美 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
あっても、なくても、僕という作家にとっては些少の差支えもない事なのである。地方色の存在すら、この場合にはゼロになるのである。
緑色の太陽 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
私はほとんど他人には満足に口もきけないほどの弱い性格で、従って生活力もゼロに近いと自覚して、幼少より今まですごして来ました。
わが半生を語る (新字新仮名) / 太宰治(著)
ういう吾々のこんぐらがった生活で、自分の批判するくらいの貧困なものはないのであって、百の内省ないせいも一行の行為の前ではゼロに等しい。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
嚴密に言えば、非マルクス主義作品の政治的價値は、マルクス主義的評價によればゼロであり、反マルクス主義作品の價値はになるわけである。
なるほど噸数は一万噸、大砲は二十糎砲だからすごいには違いないが、憐れむべし、防禦力がゼロである。十五糎砲弾をくらったらすぐに穴があく。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
日本の運動が活発だったというのは、こゝんとこから来ていると思うんだ。然し何より組織の点から云ったら、ゼロだった。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
... ゼロをつけてやるのだ!』こんな風に言うその教師は、*4クルイロフが死に際に、『酒は飲んでも飲まいでも、務めるところはちゃんと務める』
よく「嬰児みどりごごとかれ」などと言いますが、「如かれ」というところに価値ねうちがあります。もし「嬰児たれ」と言ったとしたら、その言葉はゼロです。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
とても出来るやつが二、三人いるのさ。ほかのことときたらゼロなくせに、そればっかりやってるんだもの。こいつらを追い越すなんて不可能だよ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
こういう事に就ての知識は、現在まとめられた書物が無く作家独自の研究によらねばならない。巷間民間の歴史に就て、日本の史学者の値はゼロである。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「君の数学は独創ばかりのような感じがするが、君はゼロの観念をどんな風に思うんです。君の数学では。僕はゼロが肝心だと思うんだが、どうですか。」
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それからそれへと忙がしく心を使わせられた彼がこの下剤げざいから受けた影響は、ほとんど精神的にゼロであったのみならず、生理的にも案外微弱であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おそらくかつて存在しなかったかも知れないその善人と、僕は同様の考えを持っている。ゼロはまっ裸で歩くことを欲しないから、虚栄の衣をまとうのだ。
私の意識はグングンとゼロの方向に近づきつつある。無限の時空の中に無窮の抛物線を描いて落下しつつある。
ビルディング (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのプロバビリティはゼロである。私はもちろん私の死において彼等に会い得ることを確実には知っていない。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
し俳句に於て思うままに望を遂げたりともそは余の大望の殆ど無窮大なるに比して僅かにゼロを値するのみ。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
成分は蛋白質が二二パアセント、脂肪が十八ポイント七パアセント、含水炭素がゼロポイント九パアセントですが、これは只今ただいまではあんまり重要じゃありません。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
指揮さしずと働きを亭主が一所で、鉄瓶がゼロのあとで、水指みずさしが空になり、湯沸ゆわかし俯向うつむけになって、なお足らず。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「つまり全くのゼロか、それとも何かあるのか? ひょっとしたら、何かありそうなものじゃないか? 何にしても、まるっきり何もないというはずはないぞ!」
えてえてたまらない時ににぎりめし一つは君非常にうれしいだろう。人間は自分をゼロにしてかかれば、一日でも世に生きているということがありがたくなる。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
また吉田洋一氏の親しみぶかく数学の原理を語っている「ゼロの発見」(岩波新書)などがあるけれど
科学の常識のため (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ぼくをいつも庇護ひごしてくれる黒井さんが、そういうとき、「うまい」と一言、めてくれるのが、ふだんクルウの先輩達が、ぼくをまるで、運動神経のゼロなように
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
人類文化は生存競争や自然淘汰の勢をいだし、また現にそれをゼロに近づけようとしている。そこで弱者の急激な増加となり、彼らが強者を圧倒することにもなるんだ。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
私はそらんじる脳力がゼロに近い。「やめたらしいよ、あいつ。参ったんだぜ、吉川は。ククク」
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まアあの木美子きみこだけはおしなさい、木美子の場合にとっては、この係数がゼロなんですよ、だからこの式にゼロをかければ、結局全部がゼロになってしまって、一向に反応がない
白金神経の少女 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
同じマルにも、場合によってこんな価値の差があるのは不思議だ。マルを一つ取りこんでやれ。マルはゼロではないか。僕に零を一つくれと云ったら、人はどんな顔をするだろう。
(新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「どうもあまり不思議だから、今機関部に命じてノットをゼロに下げさせているんだがね」
もし、それでいけなければ、青酸をゼロにしてしまう中和剤の名を伺いましょうか。砂糖や漆喰しっくいでは、単寧タンニンで沈降する塩基物アルカロイドを、茶といっしょに飲むような訳にはまいりませんわ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
本当に生好いけすかない気障きざな人だ。第一趣味が低いわ。低い所じゃない全然まるでゼロだわ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
最早もはや我望もこの上は小さくなり得ぬほどの極度にまで達したり。この次の時期は希望のゼロとなる時期なり。希望の零となる時期、釈迦しゃかはこれを涅槃ねはんといひ耶蘇ヤソはこれを救ひとやいふらん。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
え、それじゃ女は薬を飲んでるのか、然し、おい、誤魔化ごまかしちゃいけねえぜ。薬を飲ませて裸にしといちゃ差引ゼロじゃないか、卵を食べさせて男に蹂躙じゅうりんされりゃ、差引欠損になるじゃないか。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
これも映画的効果としては十分生かし得るものであるが、同国人たるわれわれにとつては、エキゾチスムは、ゼロと計算すべきであるから、フアンク氏の御世辞で鼻を高くするには当らぬのである。
日本映画の水準について (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
或る場合には、三枚の素材を七枚の作品に仕あげ、或る場合には五枚の素材を二十枚にひきのばす。ゼロの素材から数枚の作品が生ずるという、物理的に不可能なこともここではしばしばあり得る。
童話における物語性の喪失 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
女子に、どのような優れた多くの他の性情があっても、唯だ一つの「女らしさ」を欠けば、それがために人間的価値はゼロとなり、女子は独立した人格者でなくなるというのが論者の意見らしいのです。
「女らしさ」とは何か (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
おそらくその石をことごとく除けば、間の岳はゼロになるであろう、その石だ、老人の皺のように山の膚に筋をみなぎらせているのも、古衣のひだのように、スレスレに切れたり、ボロボロに崩れたりしているのも
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「俺は真にゼロにも劣っている、俺は無にも値しないであろう。」
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
ツウゼロ。』と見物の生徒は聞えよがしに繰返した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
児島は生息子きむすこである。彼の性欲的生活はゼロである。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして残ったものはゼロである。
浮動する地価 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
残念ながら漢法はゼロである。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
ゼロゼロ
朝菜集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
通例パーセントで示すのであるが、そのパーセントを略して湿度八〇とか六〇とかいう風に呼んでいる。即ち湿度はゼロと百との間の数で示される。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
いわば、そのゼロのごとき空虚な事実を信じて誰も集り祝っているこの山上の小会は、いまこうして花のような美しさとなり咲いているのかもしれない。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
彼は自己の手に入る百二、三十円の月収が、どう消費されつつあるかを詳しく説明して、月々あとに残るものはゼロだという事を相手に納得させようとした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
卒業論文としての点数もゼロである……という事に諸君の御意見は一致しているようである。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
數學の興味は殆どゼロとなる。新たに來た物理の教師の原語で口授するのが氣に食はぬ。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
「師匠から芸術を引くと零が残ります。師匠マイナス芸術、イコールゼロ
心のアンテナ (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「君の性質は、全然、外交官としてはゼロだ。ただ篤実な長者でしかない」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それがために、宇宙の極限に達する頃には光速がゼロとなり、そこで進行がピタリと止ってしまうというのですよ。ですから、宇宙のへりに映る像はただ一つで、恐らく実体とは異ならないはずです。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)