遮断しゃだん)” の例文
旧字:遮斷
山崎の町へ入るとすぐ、高山右近の部下は、町をつらぬいている道の木戸を封鎖して、附近の小道まで一切交通を遮断しゃだんしてしまった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下へ降りていって、近道になるはずだった一つの通路がはじめて遮断しゃだんされているのを発見して、困ったことになったぞ、と思った。
火夫 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
こんな工合で、風が真西に変って不意打ちを食ったのと、大河に遮断しゃだんされて逃げ道のないのとで、荷物を出した人などはない。
彼が疎開していた処も、先日の水害で交通は遮断しゃだんされていたが、先生に連れられて三日がかりで此処まで戻って来たのである。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
それも道理どうり、金博士のこの実験室は、上海の地下二百メートルのところにあり、あの小うるさい宇宙線も、完全に遮断しゃだんされてあるのであった。
もしこの勢いにして中途に遮断しゃだんすることなくんば、あに今日において吾人がもってわが邦人が商業者たる資格を有するや否やの議論を喋々し
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
勿論もちろん状況が状況であったから安静などは思いもよらず、強行してサンホセに入ったのだが、それから一箇月の日光から遮断しゃだんされた密林の生活で
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
なにしろ病気が病気で、留守宅に残るものは交通遮断しゃだんの時ですから、砂村への見送りもわたし一人でした。翌朝、骨納め。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
高く廻らした煉瓦塀も、人のうらみ遮断しゃだんするものであった。そのてっぺんには、硝子ガラスの破片が隙間なく植えつけてあった。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
これに反して、ガラス窓の向こうで男女が何か小声で話しているのをこっちから見ているという種類のは、光を透過して音を遮断しゃだんした場合である。
耳と目 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いびきごえや寝言など外部の音響おんきょうをも遮断しゃだんするに都合つごうが好かったもちろん爪弾つまびきでばちは使えなかった燈火のないくらな所で手さぐりで弾くのである。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
地上の生活からすっかり遮断しゃだんされた船の中には、ごく小さな事でも目新しい事件の起こる事のみが待ち設けられていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
朱塗しゅぬり不動堂ふどうどうは幸にして震災を免れしかど、境内の碑碣ひけつは悉くいづこにか運び去られて、懸崖の上には三層の西洋づくり東豊山とうほうざんの眺望を遮断しゃだんしたり。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
僕の考え込んだ心は急に律僧のごとく精進癖にとじ込められて、甘い、楽しい、愉快だなどというあかるい方面から、全く遮断しゃだんされたようであった。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
府内はいっさい双蹄獣そうていじゅうの出入往来を厳禁し、家々においてもできる限り世間との交通を遮断しゃだんしている。動物界に戒厳令が行なわれているといってよい。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そうして例のごとく呼吸を充分注意してなるべく自分の呼吸と外界と遮断しゃだんするような方法にして禅定ぜんじょうに入りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
幕はまるで円頂閣ドオムのような、ただ一つの窓を残して、この獰猛どうもうな灰色の蜘蛛を真昼の青空から遮断しゃだんしてしまった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あとのものが直ちに予定された新しい部署について仕事が一日でも遮断しゃだんされることがないように手筈を決めた。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
それでこの三四日間に起った変化もまたひとの注意にのぼらずに済んでいるのだろうと考えた。そうして自己と周囲と全く遮断しゃだんされた人のさびしさをひとり感じた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小さい時分から情事を商品のように取扱いつけているこの社会に育って、いくら養母が遮断しゃだんしたつもりでも、商品的の情事が心情にみないわけはなかった。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
神戸へ帰着してから出迎えの野枝や児供と共に一等寝台車で東京へ帰った汽車賃は大杉の自由行動を防止して同志から遮断しゃだんする必要上官憲が支弁したのである。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
雨はようやくしげく霧さえ加わって全く眺望を遮断しゃだんしてしまった。十五分ばかり休んで出発。左側をからみ廻って一高所をえる、雑木が繁って笹の深い所があった。
皇海山紀行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
が、内儀の死んでいる離屋はなれの一室は、完全に外からの通路を遮断しゃだんされて、内儀の作った座敷牢、言葉を換えて言えば、『黄色い部屋』(密室)になっているのでした。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
消極的な事実であるけれども、かくまで人を美しくまた楽しくなし得るものが、まったく遮断しゃだんせられていたということも、説明しなければならぬ大きな現象であった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「ごく一部に遮断しゃだんされているところもあるようだが、大体は市内電車も平常通り動いている。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そういう環境かんきょうがいかにもどかしく、悲しく、いきどおろしいものであるかということを、お前は充分理解りかいするであろう。お父さんの存在はジャーナリズムによって、ことごとく遮断しゃだんされた。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
けれども彼女が青山の実姉の家にはいったという事が知れた。その家では、まるで交通遮断しゃだんとでもいうように表門には駒寄こまよせまでつくって堅く閉じ、通用門をさえ締切ってしまった。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
この二つのへやの音響は完全に遮断しゃだんされていた。こちらの押し入れの中で少々音をたてても、相手に気づかれる心配はなかった。では、どうしてガラスの向こうのむちの音が聞こえるのか。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
採光法、照明法も材料の色彩と同じ精神で働かなければならぬ。四畳半の採光は光線の強烈を求むべきではない。外界よりの光をひさし袖垣そでがき、または庭の木立こだちで適宜に遮断しゃだんすることを要する。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
しかし我々はこの劇において、その戯曲的要素への注意を遮断しゃだんし去った時に、一つの美しい夢幻境へ誘い入れられるのである。我々はもはや劇中の人物の「人格的行為」を見るを要しない。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
手袋を手から出る暖かみを遮断しゃだんするために用いるのはちょっと面白いが、考えて見るまでもなくすべての防寒具の目的とするところは結局同じことなのである。手袋をはめると益々ますます仕事は面倒になる。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
これは、可怪おかしいというので僕へ指令がきた。イギリスの勢力圏であるチベットをとおって、重慶へ通ずる新ルートがあるのではないか⁈ しかしそれは、『天母生上の雲湖ハーモ・サムバ・チョウ』の裾続きで遮断しゃだんされる。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
岩のつきるところで、道は小さな流れに遮断しゃだんされた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
大坂石山本願寺の頑強な交戦力は、信長がいかに畿内きないの陸上から包囲しても、その交通路を遮断しゃだんしても、すこしも衰えるふうがない。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
グレゴールは今は母親から遮断しゃだんされてしまった。その母親は彼の罪によっておそらくほとんど死にそうになっているのだ。ドアを開けてはならなかった。
変身 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
いかにつまらない事務用の通信でも、交通遮断しゃだんの孤島か、障壁で高く囲まれた美しい牢獄ろうごくに閉じこもっていたような二人に取っては予想以上の気散きさんじだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そして悪くすれば向う数年間、鏡から遮断しゃだんされた生活が三元に課せられることを思ったとき、ふと三元の不幸がはっきりした実感で近づいてくるのを彼は感じた。
黄色い日日 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
好い調子を学び習わしめようとするのは、一つにはただ天分の試み、今一つは外界を遮断しゃだんして、仮に幼ない者にこれを親かと思わしめるだけの細工であったかも知れぬ。
かの欧州の権謀政治家や、日夜ただ兵備拡張に汲々きゅうきゅうとして、かえってその兵備拡張の手段なるものは兵備拡張の目的を遮断しゃだんするの大敵たることを忘却したるはなんぞや。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
あんなにも痛ましくたくさんの死者を出したのは一つには市街が狭い地峡の上にあって逃げ道を海によって遮断しゃだんせられ、しかも飛び火のためにあちらこちらと同時に燃え出し
函館の大火について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
幸イニシテソノ麻痺状態ニ置カレテイタ期間ハモノノ二三十分ニ過ギズ、間モナク遮断しゃだんサレテイタ神経ノ通路ガ復舊シ、失ワレタ記憶ガ戻ッテ来テスベテガ平生ノ通リニナッタ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一番仕舞に、結婚は道徳の形式において、自分と三千代を遮断しゃだんするが、道徳の内容に於て、何等の影響を二人の上に及ぼしそうもないと云う考が、段々代助の脳裏に勢力を得て来た。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たとへば『勝景一覧』の如きを見るに、夕焼の雲とかすみとを用ひて遠景を遮断しゃだんせしめし所は古代の大和絵巻やまとえまきを見るが如く、また人物の甚しく長身なるは歌麿の感化を脱せざるのうらみあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
外部の喧騒けんそうから遮断しゃだんされたところで読書と瞑想めいそうふけることもできたが、彼はいつも神経を斫り刻むおもいで、難渋を重ねながらペンをとった。……このようにして年月は流れて行った。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
黄浦江こうほこうは、あの広い川面かわもが、木製の寝台を浮べて一杯となり、上る船も下る船も、完全に航路を遮断しゃだんされてしまって、船会社や船長は、かんかんになって怒ったが、どうすることも出来ない。
然し「殖民地」の労働者は、そういう事情から完全に「遮断しゃだん」されていた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
それでも前のごとくにモンゴリヤから金が沢山来ますれば、それは随分通商を遮断しゃだんしても立行たちゆかんこともありますまいけれども、今いう通りもうこの金の来る見込みはほとんどなくなってしまった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
両家をつなぐ動脈の一道を、横山のふもと横山城に遮断しゃだんして、越前の朝倉と、江北の浅井家とを、両手におさえているかたちだった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この部屋で空気から完全に遮断しゃだんされているという気持が、彼に眩暈めまいを覚えさせた。自分のそばの羽根布団の上を軽く手でたたき、弱々しそうな声で言った。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
海が彼らの交通を遮断しゃだんするのは当然ですが、なお少しは水を泳ぐこともできました。山中にはもとより東西の通路があって、老功なる木樵・猟師は容易にこれを認めて遭遇を避けました。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)