しつ)” の例文
意地の惡いしうとめが嫁を仕込むといふ口實でいぢめるのも、繼母が繼子を、しつけるといふことにしていぢめ拔くのも、皆んな同じことだよ
無知蒙昧もうまいな者ならそれへ、石でもつばでも投げられるかもしれないが、武士もののふの家に生れて、童学からその教養にしつけられて来た者には——
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人一倍情熱を籠めて生れさせられた癖に、家柄のしつけや病身のために圧搾に圧搾を加えられている。それが自分の内気というものなのだ。
高原の太陽 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その動作には少女らしい愛嬌あいきょうや明るさがなく、あまりにてきぱきとおとなめいていて、むちででもしつけられたかと思われるくらいであった。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
僕はこの少年のしつけの良さにことごとく感服した。この少年が信条を守っての毅然たる態度はただ見事で、宮本武蔵と並べてもヒケをとらない。
青春論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
お嫁に来たとき、あんまりおばあさまの焼餅がひどくて、おしつけがよすぎたもんだからね。多計代は自分たち夫妻の習慣を、そういって笑った。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
軒続きを歩行あるくのさえ謹まねばならないように、もう久しい間……私ねえ、しつけられているもんですから、情ないのよ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家庭でも、以前のやうに厳しいしつけはできない。両親は、子供のすることを、はらはらしながら、黙つて見てゐるやうになつてしまつたのであります。
お前とてもそうであろう。泰親殿は気むずかしい、弟子たちのしつけかたもきびしいお人じゃと聞いている。朝夕の奉公に定めて辛いこともかずかずあろう。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しつけられる方のとがではなくて、躾ける方の力の如何いかんにあるということを信じているらしいから、そこでさしも短気な米友が、頭の上から尻の世話まで焼いて
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
メリーちゃんの弟のジャックは十一歳の少年ですが、何でも自分のことは自分でするという習慣をしつけられ、ハンカチのようなものは自分で洗濯をするのです。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
いいえ、滅相めっそうな。わたくし、そんなつもりで申しているのではございません。それはもう、貴方様のお手許でしつけていただけば、何よりでございましょうとも。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
昔を知っているから大事にするだろうとか——厳しくしつけたのは、そんなところへやる為ではなかったであろうに、若き娘は、暮しむきの賑わしさに眩惑されて
彼女は定めし芸者になっても、厳格な母親のしつけ通り、枕だけははずすまいと思っているであろう。……
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その厳しいおしつけを学衆の中には迷惑がる者もおりまして、いま義堂などと嘲弄ちょうろうまじりにはしたない陰口を利く衆もありましたが、御自身を律せられますこともまことにお厳しく
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
生と死におのれの片足ずつを托して自若たらんとするこういう日のために、彼らは、幾代とない遠い昔からそうしつけられ、そう鍛えられ、また自らも意識して鍛えて来た。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
厳格にしつけると、継母だから残酷だと言われる。放任しておくと、継母だから無責任だと言われる。終始心の安まる暇もなくて、ついにあんな継母根性になってしまったのだ
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
古い家々のしつけかたには、女子の勇気と胆力たんりょくとを、ただ死の方面にしか発露せしめないような、わけのわからぬ方針が久しく立っていて、死ぬほどの不幸が家に起こらぬかぎり
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
銀子はクリスチャンであったその家庭で日常をしつけられ、多勢の兄弟子に交じって、皮を裁つことや縫うことを覚え、間もなく手間賃をもらい、家の暮しを助けることができたが
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
太平記よみ獣のしつけ師——しがない商売もかずかずあるが、猫にたかっている蚤を取って、鳥目ちょうもくをいただいて生活くらすという、この「猫の蚤とり」業など、中でもしがないものであろう。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……あれも長いこと都の中で育ったせいか、どうもあの軟弱な都の悪風に染まってしまって、豪放ごうほうなところが欠けていて困る。あれだけは厳しくしつけて直さなければどうにもならんな。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
何故私はポチをしつけて、人を見たら皆悪魔と思い、一生世間をめ付けては居させなかったろう? なまじ可愛がって育てた為に、ポチは此様こんなに無邪気な犬になり、無邪気な犬であった為に
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それからまた、エルスベルゼの娘たちは、ごく静かだったし教育によってよくしつけられていたけれど、それにもかかわらず彼女は、その娘たちが上の階で騒々しい音をたてると不平言っていた。
何事にも、しっかりした規定があって、それに従って動くようにばかりしつけられてきたのだから、官吏試験などという事例のないことは、俺にはできない。落第したって、べつに恥だとは思わないね
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
兄が東京へ伴って教育したのであるから、学問のことは勿論、行儀作法から女の芸事にかけては、何一つ欠くるところがないまでに育て、そしてしつけたのである。そして天稟てんぴんの麗質の持ち主であった。
猿ヶ京 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
しつけられんか。銃口つつぐちを見て何の辺を覗っているか——」
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「物見遊山や稽古事などは、及びもつかないことですが、俵屋の一と粒種ですから、あんなに嚴しくしつけなくたつて宜いと思ひますよ」
自分がこのように励みだしたのは母のおもかげに支えられたからである、叔母にしつけられたのではなく、かえって叔母の手から逃げたのだ。
日本婦道記:おもかげ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこに何か歯止機が在るようでもある。芸のしつけというものでもあろうか。老人はこれを五六遍繰返してから、体をほぐした。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
どんなに遅く寝ても、未明に眼をさますことは、若年からの生活が自然にしつけてくれたものだった。それともうひとつ彼には彼特有な習性があった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
絶対主義にしつけられた日本の知性は、直接その本質的な対象には立ち向わず、それをずらして、ファシズムと治安維持法の野蛮の生々しい図絵をついそこで展開させ
世紀の「分別」 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それから、財産は先刻さっきった通り、一人一人に用意がしてある。病気なり、何なりは、父様も兄も本職だから注意が届くよ。その他は万事母様が預かってしつけるんだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その厳しいおしつけを学衆の中には迷惑がる者もをりまして、いま義堂などと嘲弄ちょうろうまじりにはしたない陰口を利く衆もありましたが、御自身を律せられますこともまことにお厳しく
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
そこでは、儀式と起居と団欒との多彩な生活環境のうちで、われわれの、真に「生きる」道と目標とが教へられ、両親の膝の下で、ねんごろに、また厳しく、「しつけ」が施されます。
磯野との関係を深くも知らないこの母子の前で、お庄は応答うけこたえのしようもなかった。まとまって何一つしつけられたことのない体で、そんな母子のなかへ入って、日が暮せそうにも思えなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
わたしはこの話を聞いた時、ちよつともの哀れに感じたものの、微笑しない訳には行かなかつた。彼女は定めし芸者になつても、厳格な母親のしつけ通り、枕だけははづすまいと思つてゐるであらう。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
はま女からしつけられたことのはしはしが、更につよくその気持を支え力づけて呉れた。——早く身軽になろう、そう考えていたのが、今では
初蕾 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
蝶子、わたしはおまえに対してそれはわたしの芸人のしつけに在るのだという。わたしはわたし自身に対し相変らず可哀相な躾けの身だなとかこつ。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
城太郎とは、い立ちや、性格の相違もあろうが、多くは、それは武蔵がしつけたものであった。弟子と師とのけじめを、伊織には、厳然とつけてきたからである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しつけのない子と目されているので、彼の友達になってくれるものはない。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「君の頭脳あたまで、まアとにかくあの女をしつけて行きたまえ。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
河岸ぶちに出てわらたわしでごし/\洗っている姿にも、どこか鍛えられた藤間のしつけの線があり、見飽きない母でした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
妹のしつけかたによるのだろう。温順な性分とみえるのに少し神経質で、おどおどとしりごみするところがあった。
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この一喝いっかつで、兄弟は立別れ、やがて半ときもお談義だんぎを喰う。母の文子が来てびる。おまえのしつけが悪いからだと母までも叱言を聞く。幼いふさ子までが一緒に泣いてあやまりぬく。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なぜだろう、いうまでもなくわが身を痛めた者への、しつけということもふと忘れるほどの本能的な愛に違いない。
日本婦道記:桃の井戸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まぶたに水の衝動しょうどうが少くなると小初は水中で眼を開いた。こどもの時分から一人娘を水泳の天才少女に仕立てるつもりの父親敬蔵は、かなり厳しいしつけ方をした。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
九谷くたに焼の湯呑茶碗を茶托に乗せたのを目八分に捧げ、ドアの開け方、足の運び方、退歩の礼など、ずいぶんやかましいしつけであった。だから第一回のときには、手がふるえた。
「だがよくしつけないといけませんね、まだ若いからでしょうが、おそろしいくらい乱暴な悪戯者です、どんな家庭に育ったか見当がつかない、真実ですよ」
みずぐるま (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
周りは小さい丘や築山つきやまの名残りをとゞめた高みになつてゐて、相当な庭園だつた証拠には、かえでとか百日紅さるすべりとかいふ観賞樹の木の太さに、庭師のしつけが残つた枝振りで察しられた。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「なんの、宅の女房に、そういうしつけ方はせぬ。至って貞女者ていじょものでもござれば」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)