路端みちばた)” の例文
市兵衛町の表通には黄昏たそがれ近い頃なのに車も通らなければ人影も見えず、夕月が路端みちばたそびえた老樹の梢にかかっているばかりであった。
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし、気をつけて見ると、あれでもしおらしいもので、路端みちばたなどをわれがおしてるところを、人が参って、じっながめて御覧なさい。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
路端みちばた飯屋めしやは昼前の大繁昌おほはんじやうで、ビスケットを袋に詰める者もあれば、土産みやげにウォットカを買ふ者もあり、又は其場で飲んでしまふ者もある。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
………耕助が路端みちばたの草を引き抜いてほうきのような束を作って持っているのを何にするのかと思ったら、それに蛍を留まらせて捕えるのであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
半九郎は五条に近い宿を出て、いつものように祇園へ足を向けてゆくと、昼のように明るい路端みちばたで一人の若侍に逢った。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
路端みちばたの人はそれを何か不可思議のものでもあるかのように目送もくそうした。松本は白張しらはり提灯ちょうちん白木しらき輿こしが嫌だと云って、宵子の棺を喪車に入れたのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その寺の下すなわち今私共が通って居る路端みちばたにヤクあるいは羊、あるいは山羊を殺すところがある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
でも、それも、不景気で、こぼし屋の引取手もなしに、暴風雨あらしつぶれたのが、家の骸骨がいこつのように路端みちばたに倒れていますわ。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その後一ト月ばかりたって、また路端みちばたで出逢ったことがあるが、間もなく夜露も追々肌寒くなって来たので、わたくしはこの町へ散歩に来ることも次第に稀になった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
或る時幸子は、悦子を連れて水道路すいどうみちへ散歩に出て、路端みちばたうじの沸いたねずみ屍骸しがいが転がっているのを見たことがあったが、その傍を通り過ぎておよそ一二丁も行った時分に
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「博奕は止せよ。路端みちばたの竹の子で、身の皮をかれるばかりだ。馬鹿野郎」
半七捕物帳:11 朝顔屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
祠は立場たてばに遠いから、路端みちばたの清水の奥に、あおく蔭り、朱に輝く、けるがごとき大盗賊の風采ふうさいを、車の上からがたがたと、横にながめて通った事こそ。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
次に停車した地蔵阪じぞうざかというのは、むかし百花園や入金いりきんへ行く人たちが堤を東側へと降りかける処で、路端みちばたに石地蔵が二ツ三ツ立っていたように覚えているが、今見れば
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
師走しはす算段さんだん𢌞まはつて五味坂ごみざか投出なげだされた、ときは、懷中くわいちうげつそりとさむうして、しんきよなるがゆゑに、路端みちばたいし打撞ぶつかつてあしゆび怪我けがをした。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
円タクが喇叭を吹鳴ふきならしている路端みちばたに立って、長い議論もしていられないので、翁とわたくしとは丁度三四人の女給が客らしい男と連立ち、向側の鮓屋に入ったのを見て
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
飛脚ひきやく大波おほなみたゞよごとく、鬼門關きもんくわんおよがされて、からくも燈明臺とうみやうだいみとめた一基いつき路端みちばたふる石碑せきひ
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
君江は堀端から横町へ曲る時、折好く酒屋の若いものが路端みちばたに涼んでいたのを見て、麦酒ビール三本とかにの鑵詰とをいい付け、「おばさん。唯今。」といいながら川島を二階へ案内した。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
雷門かみなりもんといっても門はない。門は慶応元年に焼けたなり建てられないのだという。門のない門の前を、吾妻橋あずまばしの方へ少し行くと、左側の路端みちばたに乗合自動車のとまる知らせの棒が立っている。
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
村の往来のすぐ路端みちばたに、百姓家の間にあたかも総井戸のごとくにあり。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きつねのわるさなるべしと心付き足のむき次第、有る横道に曲り候処、いよ/\方角を失ひ、かつはまた夜も次第にふけ渡り、月も雲間に隠れ候ゆえいささか途法に暮れ、路端みちばたの草の上に腰をおろし
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
路端みちばたの芋大根の畑を隔てた、線路の下を抜ける処は、物凄ものすごい渦を巻いて、下田圃へ落ちかかる……線路の上には、ばらばらと人立ひとだちがして、あかるい雲の下に、海の方へ後向うしろむきに、一筆画ひとふでがきの墨絵で突立つッたつ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
携えていた風呂敷包ふろしきづつみを持替えて、門の戸をしめると、日の照りつけた路端みちばたとはちがって、しずかな夏樹の蔭から流れて来る微風そよかぜに、婦人は吹き乱されるおくれ毛をでながら、しばしあたりを見廻した。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)