見上みあげ)” の例文
納め我家へ歸り夫婦ふうふの者に一伍一什を告ければ二人は流石さすが武士ぶしは武士いと見上みあげたる親子の者と思へばいよ/\たのもしく婚姻する日を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しろにはとりはおしなあしもとへちよろ/\とけてなにさうにけろつと見上みあげた。おしな平常いつものやうににはとりなどかまつてはられなかつた。おしな戸口とぐち天秤てんびんおろして突然いきなり
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この小さいセラックスのような間を抜け出て、ようやく奥壁の岩場の最下端に達する事の出来たのは八時半頃であった。これから上は見上みあげるかぎり傲頑ごうがんな岩壁である。
一ノ倉沢正面の登攀 (新字新仮名) / 小川登喜男(著)
秋日和あきびよりのつくほど上天氣じやうてんきなので、徃來わうらいひと下駄げたひゞきが、しづかな町丈まちだけに、ほがらかにきこえてる。肱枕ひぢまくらをしてのきからうへ見上みあげると、奇麗きれいそら一面いちめんあをんでゐる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
小手をかざして塔の上の方を見上みあげるならば、五重塔の天辺てっぺん緑青ろくしょうのふいた相輪そうりんの根元に、青色の角袖かくそでの半合羽を着た儒者の質流れのような人物が、左の腕を九りんに絡みつけ
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
森々しんしんたる日中ひなかの樹林、濃く黒く森に包まれて城の天守は前にそびゆる。茶店ちゃみせの横にも、見上みあげるばかりのえんじゅえのきの暗い影がもみかえでを薄くまじへて、藍緑らんりょくながれ群青ぐんじょうの瀬のある如き、たら/\あがりのこみちがある。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしはこの場で、善くお射中いあてになるかたをお見上みあげ
内儀かみさんは聳然すつくりたつてはるが到底たうてい枯死こしすべき運命うんめいつて喬木けうぼく數本すうほん端近はしぢか見上みあげていつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
石をたたんで庫裡くりに通ずる一筋道の右側は、岡つつじの生垣いけがきで、垣のむこうは墓場であろう。左は本堂だ。屋根瓦やねがわらが高い所で、かすかに光る。数万のいらかに、数万の月が落ちたようだと見上みあげる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼男も同じく早足になり追駈おひかけながら若旦那樣どうぞ御一所に御願ひ申ます貴方樣は見上みあげた所武者修行を遊ばさるゝ御方と存じます御大小なんどは餘程よほどながきもので御立派おりつぱなり私し儀實は仕入の金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
天にいます父をお見上みあげなされて
二三度この不思議な町を立ちながら、見上みあげ見下みおろしたのち、ついに左へ向いて、一町ほど来ると、四ツ角へ出た。よく覚えをしておいて、右へ曲ったら、今度は前よりも広い往来へ出た。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
代助は時々とき/″\はし真中まんなかつて、欄干に頬杖を突いて、しげなかを、真直まつすぐとほつてゐる、みづひかりながつくしてる。それから其ひかりほそくなつたさきほうに、高く聳える目白台のもり見上みあげる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)