蛆虫うじむし)” の例文
旧字:蛆蟲
しかしそういう力の中心には、侵蝕しんしょく的な蛆虫うじむしが住んでいた。クリストフはときどき絶望の発作にかかった。それは急激な疼痛とうつうだった。
「ああ暗い暗い、このとおり世の中は真っ暗だ。——聞けよ、蛆虫うじむしたち、この禰衡だけは、汝らとちがって、反逆者の臣ではないぞ」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは白い小さな蛆虫うじむしで、足もないし、全くよはよはしい動く事も出来ない位だ。蟻塚の中には此の小さな蛆虫が何十とゐるのだ。
しかもその醜い争いの種子たねをまいたのは葉子自身なのだ。そう思うと葉子は自分の心と肉体とがさながら蛆虫うじむしのようにきたなく見えた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
俺たちが何故なぜ死んじまわないんだろうと不思議に思うだろうな、穴倉の中で蛆虫うじむし見たいに生きているのは詰らないと思うだろう。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
多分、新時代の有志とか、代議士とかいうものは一列一体に太平の世に湧いた蛆虫うじむしぐらいにしか思っていなかったのであろう。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一旦この気持をつかむと、不意に、懐中電燈を差しつけられたように、自分達の蛆虫うじむしそのままの生活がアリアリと見えてきた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
藻掻きに藻掻いて、やっと息が絶えると、待ち構えていた蛆虫うじむしが、君の身体中を這い廻って、肉や臓腑を、ムチムチとくらい始めるのだ。……
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして、つい近ごろまで輝くほど健康で美しかった人が、こんなに急に「暗闇くらやみ蛆虫うじむし」の墓に運び去られたのを、いぶかしく思っているだろう。
傷心 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
いや、愛想の尽きた蛆虫うじむしめ、往生際の悪い丁稚でっちだ。そんな、しみったれた奴は盗賊どろぼうだって風上にも置きやしない、酒井の前は恐れ多いよ、帰れ!
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お前は田畑の蛆虫うじむしのように、歓喜に満ちた穂をいぶかしそうに見詰めながら、絶望と苦悩のよだれを垂らしているのだ。
俺は同盟からはずれてしまった。俺は人外じんがいちた、蛆虫うじむし同様になってしまった。もう明日から人にも顔は合わされない。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
私などは譜代大名の家来だから丸で人種違いの蛆虫うじむし同様、幕府の役人は勿論、およそ葵の紋所のついて居る御三家と云い
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いぬ奴。胸の悪い、獣にも劣った獣奴。○ああ。無辺際なる精霊。この蛆虫うじむしを再びもとの狗の形に戻してくれぬか。
同様にまた、ずんぐりした地中の蛆虫うじむしから空中にはばたく蝶に辿られるのである。地球そのものも絶えず自らを超越し変形しつつ、その軌道をかけるようになる。
台察児タイチャル (避難民を睥睨し)騒ぐな、蛆虫うじむしども! 兄上! 夜まで持ちこたえれば、なんとか計略も浮かびましょう。おい、誰か三の吊橋を落して来る者はないか。
我が国などでも蛆虫うじむしのようなものは汚いごみのなかから自然に湧いて生まれてくるようにいならわしたり、昆虫は草の葉のつゆから生まれるなどとも考えたのでした。
チャールズ・ダーウィン (新字新仮名) / 石原純(著)
落下、落下、死体は腐敗、蛆虫うじむしも共に落下、骨、風化されて無、風のみ、雲のみ、落下、落下——。
創生記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
とはいうものの顧みればわれらの主観のいかに空疎に外界のいかに雑駁なるよ。この中に処して蛆虫うじむしのごとく喘ぎもくのがわれらである。これをしも悲痛と言おう。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「文字ノ精ガ人間ノ眼ヲイアラスコト、なお蛆虫うじむし胡桃くるみノ固キから穿うがチテ、中ノ実ヲたくみニ喰イツクスガごとシ」と、ナブ・アヘ・エリバは、新しい粘土の備忘録にしるした。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
印度人なぞは蛆虫うじむし同然にしか心得ていない大使館では我々が束になって騒ぎ立てても何らの痛痒つうようも感じないであろうが、日本人のあなたが訪ねて行かれたならばまさかに
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
インド托鉢僧たくはつそう、仏教僧、マホメット教行者、ギリシャ修道者、マホメット教隠者、シャム仏僧、マホメット教僧侶、彼らが増加して蛆虫うじむしのごとく群がってる国を考える時
貴方に責めさいなまれることですら、貴方につばをはきかけられて蛆虫うじむしのように軽蔑されることですら、妾には限りなき喜びなんです。もう淋しいことは何も言って下さいますな。
私は蛆虫うじむしのような女ですからね、酔いだってさめてしまえばもとのもくあみ、一日がずるずると手から抜けて行くのですもの、早く私のカクメイでもおこさなくちゃなりません。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
しかしこうやって見上げていると、やっぱり要するにわれわれは蛆虫うじむしだ、まさにあわれむべき蛆虫にすぎないんだと、つくづく悟らずにはいられませんな。——その通りでしょう。
それには私の過去の道筋で拾い集めて来たあらゆる宝石や土塊や草花や昆虫や、たとえそれが蚯蚓みみず蛆虫うじむしであろうとも一切のものを「現在の鍋」にち込んで煮詰めてみようと思っている。
厄年と etc. (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
待っているのはよいとしても、呼吸いきの苦しいのは閉口であった。名に負う地下にいるのであった。気味の悪さは形容も出来ない。湿気は体を融かそうとした。身内を蛆虫うじむしが這うようであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すっかり遊人風になり金がなくなると、蛆虫うじむしのように縁類を嫌がらせた。
蛆虫うじむしを宇治武者にいいしたのだ(石崎文雅『郷談』)。
「ヤイ警官のトンチキ野郎奴やろうめ。鼻っぴの、おでこの、ガニ股の、ブーブー野郎の、デクノ棒野郎の、蛆虫うじむし野郎の、飴玉野郎の、——ソノ大間抜け、口惜しかったらここまでやってこい。甘酒進上あまざけしんじょうだ。ベカンコー」
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あゝ蛆虫うじむしよ。眼なく耳なき暗黒の友
なンぞは蛆虫うじむし同様
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
肺臓の堪えがたい圧迫——湿った土の息づまるような臭気——体にぴったりとまつわりつく屍衣きょうかたびら——狭い棺のかたい抱擁——絶対の夜の暗黒——圧しかぶさる海のような沈黙——眼には見えないが触知することのできる征服者蛆虫うじむしの出現——このようなことと
龍太郎! おぬしは退くなら、退くがいい、おれは徳川家とくがわけ蛆虫うじむしめらを、ただ一ぴきでも、この御岳みたけから下へおろすことはできない
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分自身でも自分が何人種に属するかわからない単なる一個の生命……天地の間に湧き出した、医術と音楽のわかる小さな一匹の蛆虫うじむしに過ぎないのだ。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
裸体で、いましめられ、寝かされ、身動きもできないでいる自分を、蛆虫うじむしのたかってる死骸しがいのような自分を、彼は見出した。彼はむらむらと反発心を覚えた。
煙草の煙や人いきれで、空気が濁って、臭く、穴全体がそのまま「糞壺くそつぼ」だった。区切られた寝床にゴロゴロしている人間が、蛆虫うじむしのようにうごめいて見えた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
ところが、この教会では、いつでも現世的な思いにおしかえされるような感じがしたが、それは、冷淡で尊大なあわれな蛆虫うじむしどもがわたしのまわりにいたからだ。
薄暗い土蔵の二階には(むせ返る死臭と、おびただしい蛆虫うじむしの中に)二つの死骸が転っていた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
無条件降伏のしかばねにわいた蛆虫うじむしのような不潔な印象を消す事が出来ず、四月十日の投票日にも私は、伯父の局長から自由党の加藤さんに入れるようにと言われていたのですが
トカトントン (新字新仮名) / 太宰治(著)
「ベッ、此奴等こいつら、血のついた屑切くずきれなんか取散らかして、蛆虫うじむしめ。——この霊地をどうする。」
代わりのボースンはもう横浜まで来てるんだのに、ばか野郎らが——船長は蛆虫うじむしどもの低能さに対して、ちょっと冷やかしてやってもいい、という気を起こしたほどであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
手向かうものとてはもはやその一個の蛆虫うじむしのみである。が彼は手向かう。そして彼は剣をさがすがごとくに一語をさがす。彼には生唾なまつばが湧く。そしてその生唾こそ彼の求むる一語である。
社会の時候が有りのまゝに続けば、その虫が虫を産んで際限のない所に、この蛆虫うじむしすなわち習慣の奴隷が、不図ふと面目を改めると云うには、社会全体に大なる変革激動がなければならぬと思われる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
蛆虫うじむしの黒きかたまりわき出でゝ
「場所が大使館構内でさえなければあんな書記官の一人や二人くらい叩きなぐってでも埒口らちぐちはあけてしまうのですが、残念ながら英国人に蛆虫うじむし同然の私たち印度人の分際ではどうすることもできなかったのです」とシャアは黒鉄くろがねのような腕を
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
すすぐは臣下の本分、卑怯未練な蛆虫うじむしめらを、一泡吹かせて斬り死に致す覚悟でござる。お通し下されいッ。お止めだて下さるな
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その忌まわしい蛆虫うじむしから理性をかじられ心を汚されているのだ——われわれを保護すべき役目をもってる人々から、指導者たる立場の人々から、下劣卑屈な批評家たちから
人の怨み、わが身の罪業を思ひ知りて神仏の御手にすがらむと思はずや。天地の大を以て見れば、さしも強豪、無敵の鬼三郎も多寡たかの知れたる一匹の蛆虫うじむし何処いづこよりうごめき来り。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
肉も臓腑も、蛆虫うじむしの為に食い尽され、その蛆虫さえ死に絶えてしまったものであろう。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)