自己おの)” の例文
自己おの小鬢こびんの後れ毛上げても、ええれったいと罪のなき髪をきむしり、一文もらいに乞食が来ても甲張り声にむご謝絶ことわりなどしけるが
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自己おのが云う事だけを饒舌しゃべり立てて、人の挨拶あいさつは耳にも懸けず急歩あしばやに通用門の方へと行く。その後姿を目送みおくりて文三が肚のうち
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
かろ服裝ふくさうせる船丁等ボーイらちうになつてけめぐり、たくましき骨格こつかくせる夥多あまた船員等せんゐんら自己おの持塲もちば/\にれつつくりて、後部こうぶ舷梯げんていすで引揚ひきあげられたり。
山鳩やまばと一羽いずこよりともなく突然ほど近きこずえに止まりしが急にまた飛び去りぬ。かれが耳いよいよさえて四辺あたりいよいよ静寂しずかなり。かれは自己おのが心のさまをながむるように思いもて四辺あたりを見回しぬ。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
腕を隠せし花一輪削り二輪削り、自己おのが意匠のかざりを捨て人の天真の美をあらわさんと勤めたる甲斐かいありて、なまじ着せたる花衣ぬがするだけ面白し。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
船長せんちやう周章あはてゝ起上おきあがつたが、怒氣どき滿面まんめん、けれど自己おの醜態しゆうたいおここと出來できず、ビールだるのやうなはらてゝ、物凄ものすごまなこ水夫すゐふどもにらけると、此時このときわたくしかたはらにはひげながい、あたま禿はげ
世に栄え富める人々は初霜月の更衣うつりかえも何の苦慮くるしみなく、つむぎに糸織に自己おのが好き好きのきぬ着て寒さに向う貧者の心配も知らず、やれ炉開きじゃ、やれ口切りじゃ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
世に栄え富める人〻は初霜月の更衣うつりかへも何の苦慮くるしみなく、紬に糸織に自己おのが好き/″\のきぬ着て寒さに向ふ貧者の心配も知らず、やれ炉開きぢや、やれ口切ぢや
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
プッツリとばかりも文句無しで自己おのが締めた帯をはずして来ての正宗まさむねにゃあ、さすがのおれもえぐられたア。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
京都きやうやら奈良の堂塔を写しとりたるものもあり、此等は悉皆みんな汝に預くる、見たらば何かの足しにもなろ、と自己おの精神こゝろを籠めたるものを惜気もなしに譲りあたふる
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
なお自己おのが不幸に沈淪ちんりんしている苦痛を味わいかえして居るが如きものもあった、又其の反対にあくまでも他をあざけりさいなむような、氷ででも出来た利刃の如きものもあって
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これらはみんなきさまに預くる、見たらば何かの足しにもなろ、と自己おの精神こころめたるものを惜しげもなしに譲りあたうる、胸の広さの頼もしきをせぬというにはあらざれど
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自分が主でも無い癖に自己おのが葉色を際立てゝかはつた風を誇顔ほこりが寄生木やどりぎは十兵衞の虫が好かぬ、人の仕事に寄生木となるも厭なら我が仕事に寄生木を容るゝも虫が嫌へば是非がない
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
拙き人の自己おのが道具の精粗利鈍を疑ふやうなるをりを指して云へる語なることを。
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
小樽おたるに名高きキトに宿りて、夜涼やりょうに乗じ市街を散歩するに、七夕祭たなばたまつりとやらにて人々おのおの自己おのが故郷のふうに従い、さまざまの形なしたる大行燈おおあんどう小行燈に火を点じ歌いはやして巷閭こうりょ引廻ひきまわせり。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
むかしむかし棄老国とばれたる国ありて、其国そこに住めるものは、自己おの父母ちちははの老い衰へて物の役にも立たずなれば、老人としよりは国の費えなりとて遠き山の奥野の末なんどに駆りつるを恒例つねとし
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)