すね)” の例文
彼女はすねも足も露わのまま起ちあがった。そして、自分のこうした思い付きが我ながら子供ッぽく思われて、彼女は思わず微笑んだ。
初雪 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
頬白ほゝじろなにかゞ菜種なたねはな枯蓬かれよもぎかげあさゆきみじかすねてゝたいのかくはえだをしなやかにつて活溌くわつぱつびおりた。さうしてまたえだうつつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私はすでに二十五歳にもなっていて、最早親のすねかじっているのも工合が悪くまた家庭の事情もいつまでも私を養うわけにはゆかなくなっていた。
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
あまり暑いので耳たぶへ水をつけたり、ぬれ手ぬぐいですねや、ふくらはぎや、足のうらを冷却したりする安直な納涼法の研究をしたこともあった。
涼味数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
といふは自分達は失敬ながら世界を知らないで蚊のすねのやうな痩腕を叩いて日本主義の国粋主義のと慷慨かうがい振る癖に
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
萌黄色もえぎいろの「キッテル」といふ衣短く、黒きすねをあらはしたる童、身のたけきはめて低きが、おどろなす赤髪ふり乱して、手に持たるむち面白げに鳴らしぬ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
という所へ出て来たのは、せいは五尺七八寸もあって、すねに毛の生えて居る、熊をみたような男がのそりと立って
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ぴきが一すねにとまっても、いたさもかゆさもかんじないほど徳太郎とくたろうは、野犬やけんのようにすわっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
にんじんは壁に額とすねとを押しつける。壁を突き破らんばかりに押しつける。両手で尻っぺたを隠す。鳴動が始まると同時に襲来する爪の鋒先ほこさきを防ぐためである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
そこで兄は、さきの妻のトシエと、笹の刈株で足に踏抜きをこしらえ、すねをすりむきなどして、ざれついたり、甘い喧嘩をしたり、わらびをつむ競争をしたりしていた。
浮動する地価 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
青扇は団扇でしきりにすねを払っていた。すぐ近くにやぶがあるので、蚊も多いのである。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
つばめの飛ぶ小雨の日に、「新藁、しんわら」と、はだしの男がすねに細かい泥をねあげて、菅笠すげがさか、手ぬぐいかぶりで、駈足で、青い早苗を一束にぎって、売り声を残していった。
色合いはあか色がかった熱帯色。だが、ノラよ。スリップにつけたレースがまんかいしてスカートからすねのあたりに××××るのはあまり感心しないがどうしたものか。赤い蛇皮へびかわの靴。
新種族ノラ (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
歩き漸く家の五六軒ある處に至り片端から叩き辛じて車を一輛仕立させしが二人は下駄を踏みかへしすねまで泥の尻からげ浴衣がけで荷物はないグズ醉の旅人たびゝとなれば驚き呆れて車の梶棒を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
反絵は毛の生えたたくましいそのすねで霧を揺るがしながら石窖の前へ馳けて来た。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ぐずぐずせずと酒もて来い、蝋燭ろうそくいじってそれが食えるか、鈍痴どじさかなで酒が飲めるか、小兼こかね春吉はるきちふさ蝶子ちょうこ四の五の云わせず掴んで来い、すねの達者な若い衆頼も、我家うちへ行て清、仙、鉄、政
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
帶し月代さかやきもりのごとくにはえいろ赤黒あかくろまなこするどく晃々きら/″\と光りし顏色にて殊に衣類は羊羹色ようかんいろなる黒のもん付の小袖にふるき小倉のおびをしめ長刀形なぎなたなりになりたる草鞋わらぢ穿はきながらすねにてしり端折はしよりまた傍邊かたはらつゑ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
正直の理想にも叶って居らん……と思うものの、また一方では、同じく「正直しょうじき」から出立して、親のすねを噛っているのは不可いかん、独立独行、たれの恩をもては不可いかん、となる。すると勢い金が欲しくなる。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
すねに傷もつ思ひが、絶えないしるしであつた。
麦穂すね刺す小径の上に、小草をぐさを蹈みに
萌黄色もえぎいろの「キッテル」という衣短く、黒きすねをあらわしたる童、身のたけきわめて低きが、おどろなす赤髪ふり乱して、手に持ちたるむちおもしろげに鳴らしぬ。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
たくしあげた僧衣の裾からはみ出している、日焼した逞しいすねを見ただけで、眼のくらむ思いがした。その日焼けが並大抵の日焼けではないのだ。赤銅しゃくどう色なんてところを通り越していた。
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
小兼春吉お房蝶子四の五の云はせず掴むで来い、すねの達者な若い衆頼も、我家うちへ行て清、仙、鐵、政、誰でも彼でも直に遊びにこすやう、といふ片手間にぐい/\仰飲あふる間も無く入り来る女共に
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
八大家文を読み論語をさえ講義し天下を経綸けいりんせんとする者が、オメオメと猿が手を持つありすねを持つの風船に乗って旅しつつ廻るのと、児戯に類する事を学ばんや。東京に出でばかかる事はあるまじ。
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
突然とつぜん平手ひらてすねをたたくと、くすぐったそうにふふふとわらった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)