老耄おいぼれ)” の例文
病みあがりの蟷螂かまきりのやうなあの痩せこけた老耄おいぼれ親父にうまうまかたられてしまつたぞと、親友を侮辱したのも偽りのない事実であつた。
黙れ黙れえい老耄おいぼれ! 場所もあろうに他人ひとの前、吾を大盗とかしたな! 虎狼の心を抱いた姿と吾に雑言ぞうごんしたからには虎狼の姿を
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひょっと筋の違った意趣ででもしたわけなら、相手の十兵衛様にまずこの婆が一生懸命で謝罪り、婆はたといどうされても惜しくない老耄おいぼれ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
……はたで見ます唯今の、美女でもって夜叉やしゃ羅刹らせつのような奥方様のお姿は、老耄おいぼれの目には天人、女神をそのままに、尊く美しく拝まれました。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
控え室においても、接待員はみな老耄おいぼれだった。まったく過去のものとなっているそれらの人物には、やはり同じ種類の召し使いが仕えていた。
ある種の逸話になると眼に涙まで浮かべた。その気弱さに気づくときには、ばかな老耄おいぼれだとみずから叫んで笑いこけた。
われわれの年寄るというは精力の枯れるのいいである。よし身体が弱り果てるも、心ばかりは老耄おいぼれたくない。よし老耄おいぼれても、愚痴ぐちだけはいいたくない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ひどく痩せていて、尻がべっこりと凹んでいるよぼよぼの、廃馬も同様の老耄おいぼれ馬であった。それでもしかし、父親や母親を驚かすのには、それで十分だった。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
『黙れ、老耄おいぼれ、拾ったやつが一人いて、もどした奴が別に一人いたのよ。それで世間の者はみんなばかなのさ。』
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
老耄おいぼれた無能な醜い悪魔を見るような心地がして、私はいつもそれが通りすぎた線路の上にかっとつばきをした。
微笑 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
この老耄おいぼれが一人でお引き受けいたしていたのでございますが、六時頃に夕飯をおすましになりますと、旦那様は、御書斎から何か書類の束をお持ち出しになって
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ははあ、よそのものはみても、わたしをばみられないとおっしゃるのだな。どうせ、この老耄おいぼれはくたばるのだからいいけれど、そうした道理どうりというものはないはずじゃ。
三月の空の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
老耄おいぼれの冬でも、毎日のように吹く風でも来い、へこたれはしないぞというくらいな元気は出るものだ。
私見たいに老耄おいぼれちゃもうお仕舞いですよ、ほんとうに、皺苦茶苦茶で人間だか猿だか分りゃあしない。と云い云い二人の娘を見た眼には明かに憤怒の色が漂って居た。
お久美さんと其の周囲 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ナニ其髪の毛なら手前より己様おれさまの方が先に見附たのだ実は四本握って居たのをソッと三本だけ取て置た、夫を知らずに残りの一本を取て好い気に成て居やがる老耄おいぼれ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
あの図太い老耄おいぼれ、鼠の輸入なんてどうも可笑しいと思っていたがなんのこと真珠の密輸をカムフラージュするためだったのか、よし今日こそ、のっぴきならぬ証拠を抑えて
軍用鼠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おお、大儀。大儀。それで予の腹も一先ひとまず癒えたと申すものじゃ。が、とてもの事に、その方どもは、予が車を警護かたがた、そこな老耄おいぼれを引き立て、堀川の屋形やかたまで参ってくれい。」
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ふりかぶった強刀を老耄おいぼれ微塵になれッとばかり斬り下げて来た——その疾風迅雷の早技に間髪を入れる隙もなかったので、あわや作左衛門も血煙りの下になったかと見えた一刹那
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて「俺はな、お前に養って呉れとは云わない。ただ、この老耄おいぼれ脛噛すねかじりをして、ゴロゴロしていることだけは、頼むからめてくれ、どうだ分ったか。分ったのか分らないのか」
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
……それだのに、こんなにまで信頼を受けてはトテモ僕はたまらないのです……こんな、老耄おいぼれのヘボ探偵を、どうして君がそんなにまで信頼してくれるのか、僕は殆んど了解に……
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして、自分を老耄おいぼれのように思っている署長や司法主任の鼻を明かしてやろう。
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
「律義にも程があるぞ。だってあんな老耄おいぼれの警官に、何がわかるもんか!」
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
伊留満喜三郎 何と、老耄おいぼれ、正気に帰つたか。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
「この老耄おいぼれめ」
(新字新仮名) / 魯迅(著)
老耄おいぼれた頑固者が
飢えたる百姓達 (新字新仮名) / 今野大力(著)
莫迦莫迦莫迦! 婆あなんぞが知るものか! 死に損ひの老耄おいぼれめえ! 口惜しい口惜しい口惜しいッ! うえんうえんうえんうえん……
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
今ばかな様子をしていますが、それは老耄おいぼれたからでしょう。徒刑場では狡猾こうかつな奴でした。私は確かにこの男を覚えています。
ああ、しばらく、一旦の御見、路傍みちばた老耄おいぼれです。令嬢おあねえさま、お見忘れは道理もっともじゃ。もし、これ、この夏、八月の下旬、彼これ八ツ下り四時頃と覚えます。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「大音を上げろ! 人を呼べ! 汝が呼ばねば俺が呼ぶ! 汝のような老耄おいぼれの声より、俺の声が大きいぞ!」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しこの婆さんの笑いが毒々しい笑いで、面付つらつき獰悪どうあくであったら私はこの時、憤怒ふんどしてなぐとばしたかも知れない。いくら怖しいといったって、たかが老耄おいぼればばあでないか。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
伝平は、老耄おいぼれ痩馬やせうまを、前の柿の木につないで置いて、すぐ馬小屋をつくりにかかった。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「えいッ、老耄おいぼれめ。汝の子の罪悪を、口賢くも、この羅門に塗りつけようとするか」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よくできたお方でした……こう申しては、なんですが、二年前にこの老耄おいぼれが、学校の方の小使をくびになりました時に、お邸の方の下男にお引き立てくださったのも、後で女中から聞いたことですが
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
エヽ喧擾やかましいわ、老耄おいぼれ、何にして食おうがおれの勝手、殊更内金二十両まで取って使って仕舞しまった、変改へんがいはとても出来ぬ大きに御世話、御茶でもあがれとあくまでののし小兎こうさぎつかわしまなざし恐ろしく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
探偵が道楽で退校された己様だ無学の老耄おいぼれに負て堪る者か
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
彼は運命にひどく苦しめられ弱らされており、すり切れたあわれな老耄おいぼれの魂とはなっていたけれども、まだやはりきびきびした自発的な人間であった。
人界におとされし血吸けっきゅう童子! わが法術を破らんものはこの人界にはよもあるまじ! 笑止笑止、老耄おいぼれめが
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……よくよくの名僧智識か、豪傑な御仁ごじんでないと、聞いてさえ下さりませぬ。——この老耄おいぼれが生れまして、六十九年、この願望がんもうを起しましてから、四十一年目の今月今日。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「気をつけやがれ! 老耄おいぼれめ! なんて真似をして歩きやがるんだ?」
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
大丈夫曲つた事はよもやいたすまいと思ふて居りまするが若い者の事、ひよつと筋の違つた意趣でゞも為た訳なら、相手の十兵衞様に先此婆が一生懸命で謝罪り、婆は仮令如何されても惜くない老耄おいぼれ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
なんて物好きな、わけの分らない老耄おいぼれなんだ、あいつは!
(新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「この老耄おいぼれめがッ——」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母親はその子供を再び見ることもなく、子供は自分の母親をほとんど知りもしないで終わる。そしてそれもみな、林檎りんごを盗んだあの老耄おいぼれのためというのか。
……早い処が、はい、この八ツ目うなぎ生干なまぼしを見たような、ぬらりと黒い、からびた老耄おいぼれも、若い時が一度ござりまして、その頃に、はい、えかい罪障を造ったでござります。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
渡せ! さあさあ、二品を渡せ! いやか、老耄おいぼれ、いやというなら斬るぞ! ……これ、俺様はな、強い男だ! その上途方もなく敏捷すばしっこい男だ! 皆さまも大変怖がってくださる。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夜なども、馬のことが気になってろくろく眠れないというような具合で、伝平は、母親がその病児を養うようにして馬の面倒めんどうを見ているのだった。そして、老耄おいぼれの痩馬は、次第に肥り出して来た。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「おのれッ、老耄おいぼれ
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暗夜のうちから一条の光で切り取られた「老耄おいぼれ」そのものの面かと思われた。少年はそれをじろじろながめた。
分別の尽き、工夫につまって、なさけなくもおしえを頂く師には先立たれましたる老耄おいぼれほかすがろうようがない。ただ、ひとえに、令嬢様おあねえさま思詰おもいつめて、とぼとぼと夢見たように参りました。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あの老耄おいぼれ、フ、フ、何を……が、澄江には恩をかけた。……この手で……」
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)