るい)” の例文
郁次郎の身に秘密があったばかりに、ご息女の花世どのには、意外な苦労をかけ、貴殿にはるいを及ぼして、あたら自害をさせてしまった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ローマ教会の教権が中世哲学にるいしたごとく、国権がわが現今の哲学界を損うてる。彼らの倫理思想のいかに怯懦きょうだなることよ。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そうしておけば、悪魔はそのくらうべきものがなくなる。闇黒の世界に闇黒を食うて、ついに闇黒以外のものにるいを及ぼすということがなくなる。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
粂八はその後、三崎座で四、五年ほども打ちつづけていたが、一座の座頭ざがしらたるに適しないらしい彼女の性格がるいをなして、一座の者に離反された。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とただ取られると知りながら、二十両の金を遣りまして甚藏を帰しますと、其の三藏の妹おるいが寝て居ります座敷へ、二尺余りもある蛇が出ました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
(なぜなら犯禁ぼんきんは一時の非である。愛名あいみょうは一生のるいである。)彼は一生の間帝者ていじゃと官員を遠ざかり、まだらなる袈裟けさをつけず、常に黒き袈裟裰子とっすを用いた。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
しかしまた同一の選挙人には同一の情実にるいせられる弱点が附きまとって残っていないとも限らないから
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
馬琴自身が決して歴史の参考書として小説を作ったのでないのは明らかで、多少の歴史上の錯誤があったからとて何ら文芸上の価値をるいするに足らないのである。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
まごまごしてると、自分にるいが及ぶかもしれないから、前線にもう出ると言った。店には窓際に中国人の客がひとりいるきりだった。寒いのに雪花膏アイスクリームをたべている。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
その代り借りた者はすべての財産を没収されるのみならず、その親類にまでるいを及ぼす事があります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
目的が違うんだから仕方がないと云うのは、他にるいを及ぼさない範囲内において云う事であります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
廖平こゝにおいて人々にって曰く、諸人のしたがわんことを願うは、もとよりなり、但し随行の者の多きは功無くして害あり、家室のるい無くして、膂力りょりょくふせまもるに足る者
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
初めこの勝三郎は学校教育がるいをなし、目に丁字ていじなき儕輩せいはいの忌む所となって、杵勝同窓会幹事の一人いちにんたる勝久の如きは、前途のために手に汗を握ることしばしばであったが
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
孔明こうめい兵を祁山きざんいだす事七度ななたびなり。匹婦ひっぷ七現七退しちげんしちたい何ぞ改めて怪しむに及ばんや。唯その身の事よりして人にるいおよぼしために後生ごしょうさわりとなる事なくんばよし。皆時の運なり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「嬶大明神は御亭主の心掛次第さ。お互の家庭にも可なりいるようだが、るいは他に及ぼさない」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こと重大となり姿を隠す。郵便ではるいを及ぼさん事を恐れ、これを主人に託しおく。金も当分は送れぬ。困ったら家財道具を売れ。そのうちにはなんとかする。読後火中」
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
大使ルージェール様の御身にしものことがあったら、国際関係にもるいを及ぼす大問題だ。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
但先月の嵐がるいをなしたのか、庭園の百日紅、桜、梅、沙羅双樹さらそうじゅ、桃、李、白樺、欅、厚朴ほう、木蓮の類の落葉樹は、大抵葉を振うて裸になり、柿やトキワカエデの木の下には
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
人の霊が自ら高しとして我と我身のるいをなす
彼奴等かやつらも、為損しそんじたらば、内匠頭の舎弟大学がどうなるか、浅野一族の芸州や土佐などにも、何ういうるいを及ぼすかくらいは、考えておる筈じゃ
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕には蔵書ができず、また学者になれないのもそういう性質の欠乏がるいをなしていると思います。大庭君なども君のそういう性質をほめていました。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
それでテンゲーリンの臣下がいろいろの事をやったに付け込んで、その主人のテーモ・リンボチェにまでるいを及ぼして、遂に縲紲るいせつの中に横死おうしするに至らしめたのである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
太祖が孝孺を愛重せしは、前後召見のあいだおいて、たま/\仇家きゅうかためるいせられて孝孺の闕下けっか械送かいそうせられし時、太祖そのを記し居たまいてことゆるされしことあるに徴しても明らかなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
従ってこちらへるいが及んで来ない。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ぶち破り、あげくに梁山泊へ落ちのびて行ったとあれば、当然、肉親のあなたへもるいがかかり、後日のとがめはのがれぬところでございますからね
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元々この重蔵は、ご城下ずみの一浪人、表向き君のご家臣たる者ではござりませぬゆえ、よも後日のるいをご当家へ及ぼすことはなかろうと存じられます。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かかる武士たちへ、よしなきるいを及ぼしては済まぬ。武蔵はそう考えついて、十分に人々の好意を謝し、一足さきに、楽しい河原のむしろを辞して飄然ひょうぜんと去った。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この地方にも諸侯の制度がきびしくかれてきたので、当家に潜伏していたピオは、狛家にるいを及ぼしてはならぬと、ある夜、無断で抜け出したまま、遂に
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「このたびの敗れは、すべてこれ、の落度にほかならぬ。御辺にも、るいわずらわしたが、ゆるされい」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それも、先方の望みだから仕方がない。おれには、桔梗どのの親共の苦しい気もちは充分にわかっているのだ。そして、お前たちにも、その苦しみが、やがては、るい
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「光悦どの、それではこうして戴きましょう。万一のことでもあって、あなたへお怪我でもさせたり、るいを及ぼしては、申し訳がありませぬゆえ、一足先におひとりで」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また武蔵が、今の身辺のるいを、あの平和な母子おやこの生活におよぼすまいとして、わざと、彼の家へ立ち寄らないでいるこちらの気持も、十分理解してくれているようであった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが彼らの叔父にあたる孔賓こうひんというのが、青州城内で店舗てんぽを持っていたので、るいはこの叔父に及び、孔賓は以来、官の手に捕われて、奉行所の一牢にぶち込まれている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかもこの上、領民を苦しませ、御本家を始め、親藩にるいを及ぼし、逆徒の汚名を求めて、それが、亡君への忠義になるとは、九郎兵衛にはどうもわからん。わしはくみせんよ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いやいや、それもあの思慮の深い内蔵助殿が、御当家や又、御後室の瑤泉院様に些細ささいるい
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もとより危険は覚悟、ただ当家へるいを及ぼそうかと、それがいささかの心がかり」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逆臣尊氏の縁者という悪名にるいされてか否か、歴史の上ではほとんど影を消されており、もちろん今日の盲人諸君にしても、自分たちの先人せんじんに覚一があったことなどおそらく知るまい。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長兵衛の後家おきんるいを及ぼすので、遥かに怨みをのんでいるという有様である。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……またぞろ、父の名に、るいを及ぼしてはならぬゆえ、生命だけは助けておくが
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また只今そちは、城下ずみの一浪人と申したが、桔梗河原の試合この方、忠房は家重代の家臣とも思うている。たとえ当家に後日のるいがあるとなしとにかかわらず、決してそちを見殺しにはならぬ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつてお若い頃、お父ぎみの後醍醐の難にるいせられて、讃岐さぬきへ流されてゆく途上、加古川で船を待つまに、兼好の弟子の命松丸から、ふところ飼いの仔雀をもらって、たいそう慰められたことがある。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藩の聞えを思い、父にるいを及ぼすまいとするために。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「万一、そのため、るいを楠木家におよぼしては」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)