紫縮緬むらさきちりめん)” の例文
何か出て来るかもしれないと勘次が上部うえへ指を入れると、触った物があるから引き出した。紫縮緬むらさきちりめん女持の香袋においぶくろ、吾妻屋のぬいがしてある。
先日こなひだ亡くなつた喜劇俳優やくしや渋谷天外は、何処へくのにも、紫縮緬むらさきちりめんの小さな包みを懐中ふところにねぢ込むで置くのを忘れなかつた。
左近方には四郎左衛門が捕はれて死んだ後に、此徳利が紫縮緬むらさきちりめん袱紗ふくさに包んで、大切にしまつてあつたさうである。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
まず、その小風呂敷に目がつくと、紫縮緬むらさきちりめんのまだこくなのに、五七の桐が鮮かに染め抜いてあります。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
着し座す其形勢ありさまいと嚴重げんぢうにして先本堂には紫縮緬むらさきちりめんしろく十六のきく染出そめいだせしまくを張り渡し表門には木綿地もめんぢに白とこんとの三すぢを染出したる幕をはり惣門そうもんの内には箱番所はこばんしよ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いや最前から各々方おの/\がたのお話を聞いていると、可笑おかしくてたまらんの、拙者も長旅で表向おもてむき紫縮緬むらさきちりめん服紗包ふくさづゝみはす脊負しょい、裁着たッつけ穿いて頭を結髪むすびがみにして歩く身の上ではない
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
紫縮緬むらさきちりめん錏頭巾しころずきんをかぶり、右の顳顬こめかみにあたる所に小きじょうを附け、紫縮緬に大いなるからす数羽飛びちがひたる模様ある綿入に、黒手八丈くろではちじょうの下着、白博多の帯、梅華皮かいらぎざめの一本差
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
上段の十畳、一点のよごれもない、月夜のような青畳、紫縮緬むらさきちりめんふッくりとある蒲団ふとんに、あたかもその雲に乗ったるがごとく、すみれの中から抜けたような、よそおいこらした貴夫人一人。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いやにふけちまつたでせう。みんなさうつてよ。」とおいとは美しく微笑ほゝゑんで紫縮緬むらさきちりめん羽織はおりひもの解けかゝつたのを結び直すついでに帯のあひだから緋天鵞絨ひびろうど煙草入たばこいれを出して
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しかし服装はあまり大したものではなく普通の上等程度だったそうで……被布ひふ紫縮緬むらさきちりめんに何かちらちらと金糸の刺繍ししゅうをしたもので、下は高貴織りか何からしく、派手な柄で
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
金剛石ダイアモンドと光を争ひし目は惜気をしげも無くみはりて時計のセコンドを刻むを打目戍うちまもれり。火にかざせる彼の手を見よ、玉の如くなり。さらば友禅模様ある紫縮緬むらさきちりめん半襟はんえりつつまれたる彼の胸を想へ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
伯父の血をひいた余とても御多分にれぬ。八年前の秋、此万碧楼に泊った余は、霜枯時しもがれどきの客で過分の扱いを受け、紫縮緬むらさきちりめんの夜具など出された。御馳走ごちそうも伯父の甥たるにじざる程食うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
内蔵助の前へ、妙の手からさし置かれたのは、紫縮緬むらさきちりめんの丸頭巾であった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紫縮緬むらさきちりめんの小さい袱紗包ふくさづつみを出すのでした。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
退紅色の粗いかたの布団を掛けた置炬燵おきごたつを脇へ押し遣って、きりの円火鉢の火を掻き起して、座敷の真ん中にいてある、お嬢様の据わりそうな、紫縮緬むらさきちりめんの座布団の前に出した。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
周防守のお妾さんの部屋では箪笥たんすから紫縮緬むらさきちりめんの小袖を取り出して、それを局境つぼねざかいの塀の返しへ持って行って押拡おっぴろげて張っておいたそうだが、それで金銀は一つも盗られなかったとやら。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
出立し大坂さしおもむき日ならず渡邊橋向のまうけの旅館へぞちやくしたり伊賀亮が差※さしづにて旅館の玄關げんくわん紫縮緬むらさきちりめんあふひの御紋を染出せしまく張渡はりわたひのきの大板の表札へうさつには筆太ふでぶとに徳川天一坊旅館の七字を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
卷上れば天一坊はあつたけからざる容體ようだいに着座す其出立には鼠色ねずみいろ琥珀こはく小袖こそでの上に顯紋紗けんもんしや十徳じつとくを着法眼袴はふげんはかま穿はきたり後の方には黒七子くろなゝこの小袖に同じ羽織茶宇ちやうはかま穿はき紫縮緬むらさきちりめん服紗ふくさにて小脇差こわきざし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)