端居はしい)” の例文
四絃しげんのひびきがすると、端居はしいしていた侍たちだの、次の間にいた童女わらべや召使までが、席へ近くにじり寄って皆耳をすましていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
折しも小春の空長閑のどけく、斜廡ひさしれてさす日影の、払々ほかほかと暖きに、黄金丸はとこをすべり出で、椽端えんがわ端居はしいして、独り鬱陶ものおもいに打ちくれたるに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
えがけども成らず、描けども成らず」とえん端居はしいして天下晴れて胡坐あぐらかけるが繰り返す。兼ねて覚えたる禅語ぜんごにて即興なれば間に合わすつもりか。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
世間をおそれる身が長く端居はしいはできないので、二人の仲直りを見とどけて綾衣は早々に奥へはいった。昼でも暗い納戸には湿しめってかび臭い空気がみなぎっていた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
冷々ひやひやと濡色を見せて涼しげな縁に端居はしいして、柱にせなを持たしたのは若山ひらくわずらいのある双の目をふさいだまま。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
春が過ぎて夏に入る頃は、身のまわりが軽くなるに従い、室内生活から解放されて屋外の空気に親しむようになる。其角に「たそがれの端居はしいはじむるつゝじかな」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
においも深き紅梅の枝を折るとて、庭さき近く端居はしいして、あれこれとえらみ居しに、にわかに胸先むなさき苦しくかしらふらふらとして、くれないもや眼前めさきに渦まき、われ知らずあと叫びて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
すべてが細かい蠢動しゅんどうになってしまうのである。薄暮の縁側の端居はしいに、たまたま眼前を過ぎる一匹の蚊が、大空を快翔かいしょうする大鵬たいほうと誤認されると同様な錯覚がはたらくのである。
映画の世界像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
七月はじめの宿居とのいの夜、ゆくりなく御腰掛の端居はしい出逢であい、積る話をして本意をとげた。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
さてその日もようやく暮れるに間もない五時頃に成っても、叔母もお勢も更に帰宅する光景ようすも見えず、何時いつまで待っても果てしのない事ゆえ、文三は独り夜食を済まして、二階の縁端えんさき端居はしいしながら
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
つくばひのよくれてをる端居はしいかな
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
そして、壊れたつま戸や屏風びょうぶを立てまわして端居はしいしている法然の前へ行って、何かしばらく話しているらしく見えた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次のの——がけの草のすぐ覗く——竹簀子たけすのこ濡縁ぬれえんに、むこうむきに端居はしいして……いま私の入った時、一度ていねいに、お時誼じぎをしたまま、うしろ姿で、ちらりと赤い小さなもの
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「今宵の」の一語は「月今宵」などの「今宵」と同じく、あきらかに年に一夜の今宵であることを示している。七夕の夜の縁側えんがわか何かに端居はしいして西瓜を食う。空には天の川が白々とかかっている。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
端居はしいしぬ主まうけにくたびれて
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
で、あわただしく、戻って来て、縁先に端居はしいしている師の永徳に、そのままを告げてみると、永徳は
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時に一縷いちる暗香あんこうありて、垣の内よりれけるにぞ法師は鼻をうごめかして、密にうち差覗さしのぞけば、美人は行水を使いしやらむ、浴衣涼しく引絡ひきまとい、人目のあらぬ処なれば、巻帯姿まきおびすがた繕わで端居はしいしたる
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
端居はしいして垣の外面とのもの世を見居る
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
細かい竹の葉がくれに、時雨堂の中がすッかりのぞけた。奥には蚊帳かやが釣ってある。白衣びゃくえの法月弦之丞は唐草と向かいあって、えん端居はしいに蚊やりのかやをいぶしていた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あきらかなる時、花のおぼろなるゆうべ、天女が、この縁側えんがわに、ちょっと端居はしいの腰を掛けていたまうと、経蔵から、侍士じし童子どうじ払子ほっす錫杖しゃくじょうを左右に、赤い獅子にして、文珠師利もんじゅしりが、悠然と、草をのりながら
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
庭石に蚊遣かやり置かしめ端居はしいかな
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
佐渡は、通されて、閑雅な一室に坐り、供の縫殿介ぬいのすけは、縁の板の間に、端居はしいしてかしこまっていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
縁台にかけし君見て端居はしいかな
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
黄昏たそがれを待ちかねて、縁の御簾みすを捲かせ、端居はしいして夜風を待つのが唯一つの楽しみらしかった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
端居はしいとは我膝抱いて蝶が飛び
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
例の鼻寺の方丈に端居はしいして、日本左衛門はしきりと団扇うちわをうごかしています。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しとみの下近く端居はしいしたまま夜半よなかの冷たいものがじっとりといつぎぬもすそ法衣ころもの袖に重たくなるのも忘れ果てて、相思の胸のときめきをお互いにただじっと聞き合っているに過ぎない二人なのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三位卿は、かこち顔な見張の端居はしい
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、端居はしいして出迎えている。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)