稀代きだい)” の例文
田原町の經師屋きやうじや東作、四十年輩の氣のきいた男ですが、これが描き菊石あばたの東作といはれた、稀代きだいの兇賊と知る者は滅多にありません。
一朝手裏剣をとっては稀代きだいの名手である点、なるほど「山椒さんしょうは小粒でもピリッとからい」にそむかないとうなずかせるものがある。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あわれ稀代きだいの殺人魔「人間豹」も、もはやのがれるすべはなかった。ロクロの廻転かいてんにつれて風船の綱はみるみる縮まって行く。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
印度の国はガンジス河の河岸で生れました稀代きだいの槍使いはこれでござい、ごらんの通り、身の丈わずか四尺一寸なれども、槍を使うては神妙不可思議
この少納言は、伽陵がりょうと云う名高い笙と、大食調入食調だいじきちょうにゅうじきちょうの譜とを、代々御家に御伝えになっていらっしゃる、その道でも稀代きだいの名人だったのでございます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いいですか、いまその稀代きだいのペンギン鳥が、あの水槽から現われて諸君の目の前で、奇想天外の曲芸を演じます。
照すこと宛然さながら照魔鏡せうまきやうの如くなる實に稀代きだいの人なりしが此頃音羽七丁目の浪人大藤武左衞門父子奉行所へ駈込かけこんで娘お光こと云々しか/″\個樣かやうの譯ありて家主庄兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
前にちょっとふれたように、光明皇后は不比等と橘三千代とのあいだにお生れになったのだが、この橘三千代は天平の背後に躍った稀代きだい辣腕らつわん家であった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
私達は彼女の好みで鼻のとがったランチャを選んだ。三週間の契約だった。それはスポウツ・カアのように背の低い、真っ黄いろに装った稀代きだいの伊達者だった。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
まんまと首尾よく私を欺しおおせる一方に、事情を知っている鮮人朴を射殺しながら、情夫の樫尾と共にどこへか姿をくらました稀代きだいの毒婦であった……という事実が
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
戌年いぬどしうまれの、将軍綱吉が、隆光や、桂昌院の献言をいれて、世の人間たちへ発令した、畜生保護令ちくしょうほごれい——いわゆる“生類しょうるいおんあわれみ”と称する稀代きだいな法律の厳行である。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
稀代きだい怪魔かいま「蠅男」の暴逆ぼうぎゃくのあとを追うて苦闘また苦闘、神のような智謀をかたむけて、しかも勇猛果敢な探偵ぶりを見せた青年探偵帆村荘六も、いま一歩というところで
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「俊夫君どうも有り難う。この中には、警視庁で数年来行方を捜していた、稀代きだいの貴金属盗賊がいるよ。いずれゆっくりお礼にゆく。君たちは、あそこの自動車で帰ってくれたまえ」
暗夜の格闘 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
一メリコフの行方ゆくえなどさがしもしなかったろうが、突然消えせた理由だけは、後日処刑された稀代きだいの女スパイ、フォン・リンデン伯爵夫人ことマタ・アリの告白によって判明したのだった。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
もと南蛮寺におりました入留満いるまんが、九条のかたほとりに隠れておることを、愚僧は仔細しさいあってよう存じております、この入留満は、邪法を使う稀代きだいの悪僧で、時ならぬに枯木に花を咲かせ、ある時は
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「朝月は稀代きだいの名馬だ。よくぞ働いてくれた」
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
遺言ゆいごんによって、ベートーヴェンの墓のかたわらに葬られたが、それが三十一歳で夭折ようせつした、稀代きだいの天才のせめてもの満足であったことであろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
かくして、名探偵明智小五郎と小林少年は、またしても、稀代きだいの怪盗二十面相とのたたかいに、みごと勝利をおさめました。
黄金豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「そのほか、慈眼大師じげんだいし銅製どうせい誕生仏たんじょうぶつ釈尊しゃくそん苦行くぎょうのお木像もくぞう、同じく入涅槃像にゅうねはんぞう、いずれも、稀代きだいの名作にござりまする」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
(そのまた玄関に比べてみても、どのくらい僕らは小さかったのでしょう!)しばらくこの建築よりもむしろ途方もない怪物に近い稀代きだいの大寺院を見上げていました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
稀代きだいの乱暴かなと思いました。よし、それが刃でなくて尺八であったとは言いながら、これ抜打ちの辻斬とあいえらばぬ仕方です。この上もなき無礼、この上もなき狼藉です。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
不幸にも私の夫がそうした男で、更に不幸なことには、その夫の家に偶然稀代きだいの名作人形が保存されていたのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
赤い振袖を着た稀代きだいの美男が、復讐ふくしうの快感に浸つて、キラキラと眼を輝やかす樣は、言ひやうもなく物凄まじい觀物です。
銘を天福輪てんぷくりんと切った稀代きだいの剛刀——ぐいと、背後うしろざまに落とし差した下谷の小鬼、伴大次郎、黒七子の裾を端折ると一拍子、ひょいと切戸を潜って戸外そとへ出た。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一寸法師いっすんぼうしの話に出てくる鬼も一身の危険を顧みず、物詣ものもうでの姫君に見とれていたらしい。なるほど大江山おおえやま酒顛童子しゅてんどうじ羅生門らしょうもん茨木童子いばらぎどうじ稀代きだいの悪人のように思われている。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
こうして、あたり前の百姓家におさまって、雨降り仕事に草鞋をこしらえているところを見れば、だれが見ても、あたり前の百姓で、これを稀代きだいな盗賊と見るものはありません。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その傷の中に、春日野ゆかりの帯揚の中に入って居たろうと思う、あの稀代きだいの宝石を隠して居ないと、誰が保証するんだ
呪の金剛石 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
大きな帆前船を持ち、何十人という子分を養い、数年の間、たくみに支那日本の官憲の目をくらまして、莫大な金銀をかすめ取った、稀代きだいの海賊であった。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ですから翁は蒐集家としても、この稀代きだい黄一峯こういっぽうが欲しくてたまらなくなったのです。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこに鹿の角の刀けに二口の豪刀、大迫玄蕃が自慢の差料さしりょうで、相州そうしゅう猿畠さるばたけの住人、お猿畠の佐平太兼政が火と水を取ったという、新刀中での稀代きだい業物わざものの据えられてある——のはいいが
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「それもよろしゅうござる、お留めは致さぬが、しかし兵馬どの、拙者の見受け申すところでは、その机竜之助とやらは稀代きだいつかである、ほとんど今の世に幾人とない遣い手である様子じゃ」
死んだ禰惣は稀代きだいの惡黨と知れた上、彦太郎の主家を思ふ衷情が知れて、昔のお裁きの極端な融通性ゆうづうせいを發揮し、形ばかりの遠島で二年目には江戸に還れました。
博士は今、この稀代きだいの大悪人、絶好の敵手を見出して、武者震いを禁じ得ないていであった。鋭い両眼は、まだ見ぬ大敵への闘志に、爛々らんらんと輝きはじめたかと見えた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その代り(再び笑う)——その代りわたしは一夜の内に、稀代きだい大賊たいぞくになれるのです。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
せき孫六まごろくの作に、大小二口ふたふり稀代きだい業物わざものがある。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
死んだ弥惣は稀代きだいの悪党と知れた上、彦太郎の主家を思う衷情が知れて、昔のお裁きの極端な融通性を発揮し、形ばかりの遠島で二年目には江戸に還れました。
そして、この稀代きだいの殺人鬼と名探偵とは、電話口に声をそろえて、さも面白そうに笑い合うのであった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
神谷青年は、まったく度胆どぎもを抜かれてしまった。明智が稀代きだいの名探偵であることは聞いていた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
熊井熊五郎といふ稀代きだいの兇賊を相手にしては、十年間の經驗でも自分一人だけでは覺束おぼつかなく、矢張り錢形平次の智惠と力を借りる外は無いことはあまりにもよく解つて居るのでした。
しかし、いくら信じがたいにせよ、稀代きだいの殺人鬼が、刑事たちの包囲を受けているとあっては、捨てておくわけにはいかぬ。北森氏は直ちに一郎の部屋を出て現場にかけつけた。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
反対に、波越警部がポケットのピストルを取出して、稀代きだいの兇賊に狙いを定めた。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だが、その実は、この女こそ、稀代きだいの女賊「黒トカゲ」の変装姿であった。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
宝石王玉村家の令嬢と持てはやされ、女王の様にふるまっていた妙子が、又、稀代きだい毒婦どくふとして、世間を、警察を、思うがままに飜弄していた彼女が、この服罪は余りと云えばみじめであった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
稀代きだいの強敵を向こうに廻して、彼の闘争心は燃え上がったのだ。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わしのネクタイ・ピンについている稀代きだいの大真珠だ。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
稀代きだいの宝玉
黄金豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)