白紙はくし)” の例文
斯う言ひながら、また梨をき初めたお光の右の中指の先きが、白紙はくしはへてあるのを、小池は初めて氣がついたふうで見てゐた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「明けても駄目です。或る仕掛がしてあるので、今夜九時にならないと、文字が出て来ません。今御覧ごらんになっても白紙はくしですよ」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は紅絵に見るが如く空間を白紙はくしのままに残す事を許さず、壁、天、地等にそれぞれ淡くやわらかき色を施し以て画面に一種の情調を帯ばしめたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
抒情詩じょじょうしでは子規の俳句や、鉄幹の歌の生れぬ先であったから、誰でも唐紙とうしった花月新誌や白紙はくしに摺った桂林一枝けいりんいっしのような雑誌を読んで、槐南かいなん
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
醫者いしや爼板まないたのやうないたうへ黄褐色くわうかつしよく粉藥こぐすりすこして、しろのりあはせて、びんさけのやうな液體えきたいでそれをゆるめてそれからながはさみ白紙はくしきざんで
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
氣分きぶんすぐれてよきとき三歳兒みつごのやうに父母ちゝはゝひざねぶるか、白紙はくしつて姉樣あねさまのおつくり餘念よねんなく、ものへばにこ/\と打笑うちゑみてたゞはい/\と意味いみもなき返事へんじをする温順おとなしさも
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あらず! そこへったのは数枚のふところがみで、みなの視線しせんが、それにみだされて散らかったせつな、じん中宮ちゅうぐうにいた星川余一ほしかわよいちが、風でりついた一枚の白紙はくしを片手で取りのけながら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わきまへずして大膽だいたんの者ども不屆千萬ふとゞきせんばん言語同斷ごんごどうだんの致し方なり然しながら御門の事なれば其方ともにも嚴敷きびしく取計も成難なりがたかくせよとて大岡殿白紙はくしへ一首の狂歌きやうかをなされ是を御門へはるべしとなり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
次の頁は只の白紙しらかみで、一字も文字が書いて無いではないか。これは不思議……今まであった話が途中で切れるはずはないと思いながら、慌てて次の頁を開いたがここも白紙はくしで何も書いて無い。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
をしへをうけようと、電氣でんきけて、火鉢ひばちうへへ、ありあはせた白紙はくしをかざして、そのあかいインキで、ヴヱスビヤス、ブエスビイヤス、ヴエスヴイヤス、ヴエスビイヤス、どれがたゞしいのでせう
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ところ石町こくちょう鐘撞堂新道かねつきどうしんみち白紙はくしうえに、ぽつんと一てん桃色ももいろらしたように、芝居しばい衣装いしょうをそのままけて、すっきりたたずんだ中村松江なかむらしょうこうほほは、火桶ひおけのほてりに上気じょうきしたのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
彼女は紙入の中から白紙はくしで包んだものを抜いて小切手のそばへ置いた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
取出した紙切を、一枚一枚あらためてみたが、それは、ことごとく白紙はくしであった。なんにも書いてなかった。白紙の重要書類というのがあるであろうか。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それらの繪馬ゑままじつて、女の長い黒髮の根元から切つたらしいのが、まだ油のつやも拔けずに、うやうやしく白紙はくしに卷かれて折敷をしきに載せられ、折敷のはしに『大願成就だいぐわんじやうじゆとらとしの女』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
私はそれを白紙はくしの上に取って、ニヤリとほほえんだ。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)