“渾沌:こんとん” の例文
“渾沌:こんとん”を含む作品の著者(上位)作品数
寺田寅彦6
ロマン・ロラン6
泉鏡花4
宮本百合子3
岡本かの子3
“渾沌:こんとん”を含む作品のジャンル比率
文学 > フランス文学 > 小説 物語23.1%
自然科学 > 自然科学 > 科学理論 科学哲学9.1%
自然科学 > 物理学 > 物理学8.7%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
まだ社会の裏面を渾沌こんとんとして動きつつあった思想が、時としては激情の形でほとばしようとすることがある。
わずかにでた南京豆なんきんまめの芽が豆をかぶつたままで鉢の中に五つばかり並んで居る。渾沌こんとん。(五月三十一日)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
吾人が事象に対した時に、吾人の感官が刺戟されても、無念無想の渾沌こんとんたる状態においては自分もなければ世界もない。
文学の中の科学的要素 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「世情はまだ渾沌こんとんだわえ。夜明けるたびに、何が勃発しているか、油断もならん。イヤ、どえらい事になったものよ!」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちに、かかる渾沌こんとんの中から、剣戟けんげき、鋭利な言葉、勇ましい笑声など、数条の光線がほとばしり出てきた。
葉子の心はただ渾沌こんとんと暗く固まった物のまわりを飽きる事もなく幾度も幾度も左から右に、右から左に回っていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
渾沌こんとんとした問題を処理する第一着手は先ず大きいところに眼を着けて要点をつかむにあるので、いわゆる第一次の近似である。
物理学の応用について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
やがて渾沌こんとん瞑々めいめいとして風の鳴るのを聞くと、はてしも知らぬ渺々びょうびょうたる海の上をけるのである。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あなたがもう一歩進めて、その渾沌こんとんたるものとはなんだと質問するなら、又私は窮さなければなりません。
何か渾沌こんとんの気があって二二ガ四と割切れないところに心をかれるのか、それよりももっと真実なものがこの歌にあるからであろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
広い、広い、渾沌こんとんたる支那内地に居住する外国人の多くは、この硬派か軟派かを本当の仕事としていた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
黄昏たそがれ過ぎの渾沌こんとんとした、水も山もただ一面の大池の中に、その軒端のきばる夕日の影と、消え残る夕焼の雲のきれ
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
エマニュエルはまだ自己形成中であって、クリストフのいつの時代よりもいっそう渾沌こんとんとしていた。
もろもろの感覚によって起される執著がもととなり種子たねとなって幻想の渾沌こんとんを構成する。
あの名魚「秋錦しゅうきん」の誕生たんじょうは着手の渾沌こんとんとした初期の時代に属していた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼らは二人だけで、法則のない一つの世界をなし、恋に駆られた一つの渾沌こんとん界をなしている。
今まではなるべくなら避けたく思った統計的不定の渾沌こんとんやみの中に、統計的にのみ再現的な事実と方則とを求めるように余儀なくされたのである。
量的と質的と統計的と (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
すべてそれらのものは、破片となり塵芥じんかいとなり渾沌こんとんたるものとなってしまった。
ここにも一見渾沌こんとんのごとく思われる動きのうちに、厳密な必然のあることが感ぜられる。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
独りわが現代文化の状況に至つてはそのおもむく処渾沌こんとんとして捕捉しがたし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
閃く稲妻のようにひろ子の心を一つの思い当りが走った。それが、泣きれたひろ子の精神の渾沌こんとんを一条の光となって射とおした。ひろ子は、重吉の手をとって、
風知草 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
わたしは今、自分の病室で静かにあの当時のことを回想していると、一八八四年のあのシーズンのことどもが異様に明暗入り乱れて、渾沌こんとんたる悪夢のように見えてくる。
東西南北は一つのはちの中ですりまぜたように渾沌こんとんとしてしまった。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それはあたかも、幻惑してる思想の中における渾沌こんとんたる物象に似ていた。
不安、愛着、悔恨、すべて渾沌こんとんたる悩みが、心のうちでぶつかり合った。
そしてその歌調の渾沌こんとんとして深いのに吾々は注意を払わねばならない。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
単純に見るとそこには渾沌こんとんと単一とがあるばかりとも思われよう。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
同時に、それは彼の生涯の渾沌こんとんを解くだいじなかぎとなった。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
空虚の中に、渾沌こんとんたるものが動き、やみが揺めいていた。
そして立花は伊勢は横幅の渾沌こんとんとして広い国だと思った。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
同じくすぶった洋燈ランプも、人の目鼻立ち、眉も、青、赤、鼠色のの敷物ながら、さながら鶏卵たまごうちのように、渾沌こんとんとして、ふうわり街燈の薄い影に映る。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
凡ての矛盾と渾沌こんとんとの中にあって私は私自身であろう。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
渾沌こんとんたるものが即座に作った深淵しんえんであった。
有るものは東洋風の渾沌こんとんとした無可有の世界だけです。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
元子的渾沌こんとんの中から偶然の結合で分離析出が起こるという考えは、日本その他多くの国々の伝説と同様であるが、それを元子論的に見た点がはなはだ近代的であることは前述のとおりである。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私は柳北りゅうほくの随筆、芳幾よしいく綿絵にしきえ清親きよちかの名所絵、これに東京絵図を合せ照してしばしば明治初年の渾沌こんとんたる新時代の感覚に触るる事を楽しみとする。
渾沌こんとんを防ぎとどむべきなんらの防壁もなかった。
彼らは自分の思想のうちに生きながら、自分の芸術について瞑想めいそうしたり、あるいは渾沌こんとんたる事相の下に、人間の精神の歴史中に跡を印すべき、人の気づかぬ小さな光を見分けたりした。
——やつぱりまあ渾沌こんとんたるものだからです。
もし物質間の引力が距離によらず同一であったり、あるいは距離の大なるほど大であったと仮定したら、天地万物の運動はすべて人間には端倪たんげいする事の出来ぬ渾沌こんとんたるものになるであろう。
方則について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
渾沌こんとんとした世の中に生きてきたのですもの。
頃者このごろ我文学界は侠勇を好愛する戯曲的詩人の起るありて、世は双手を挙げて歓迎すなる趣きあり、侠勇をうたふの時代、未だ過ぎ去らざるか、そもそも他の理想未だ渾沌こんとんたる創造前にありて
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
二人は中央の帝の渾沌こんとんを訪問した。
荘子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
頭が渾沌こんとんとしてしまって空廻りだ。
苦しい、孤独な渾沌こんとんの時代。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
革命の渾沌こんとんたる開闢かいびゃくの時において、ぼろをまとい、怒号し、荒れ回り、玄翁げんのうをふり上げ、鶴嘴つるはしをふりかざし、狼狽ろうばいせる旧パリーに飛びかかって毛髪を逆立てたそれらの者は
渾沌こんとんとしたはじめにかへる
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
しかし、その先が渾沌こんとんだ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、面白いおはなしのこの上なく上手な話し手としての名誉と、矜恃きょうじとを失った彼女は、渾沌こんとんとした頭に、何かの不調和を漠然と感じる十二の子供として、夢と現実の複雑な錯綜のうちに遺されたのである。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
おおむかし、まだ世界の地面は固って居らず、海は流れて居らず、空気は透きとおって居らず、みんなまざり合って渾沌こんとんとしていたころ、それでも太陽は毎朝のぼるので、或る朝、ジューノーの侍女のにじの女神アイリスがそれを笑い
猿面冠者 (新字新仮名) / 太宰治(著)
なんという恐ろしさだろう! 深いやみ、ランプの荒々しい光、渾沌こんとんのなかから出てきたばかりの頭脳の幻覚、周囲にたちこめている息苦しいざわめく夜、底知れぬ影、その影の中からは、まぶしい光線のように強く浮かび出してくる
むかし、ばらばらに取り壊し、渾沌こんとんふちに沈めた自意識を、単純に素朴に強く育て直すことが、僕たちの一ばん新しい理想になりました。いまごろ、まだ、自意識の過剰だの、ニヒルだのを高尚なことみたいに言っている人は、たしかに無智です。
花燭 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ニュートンが一見捕捉しがたいような天体の運動も簡単な重力の方則によって整然たる系統の下に一括される事を知った時には、実際ヴォルテーアのうたったように、神の声と共に渾沌こんとんは消え、やみの中に隠れた自然の奥底はその帷帳とばりを開かれて、玲瓏れいろうたる天界が目前に現われたようなものであったろう。
科学者と芸術家 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)