正面しょうめん)” の例文
見れば、正面しょうめん床几しょうぎに、だかさと、美しい威容いようをもった伊那丸いなまる、左右には、山県蔦之助やまがたつたのすけ咲耶子さくやこが、やや頭をさげてひかえている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
煙の満ち充ちた飾り窓の正面しょうめん。少年はこの右にたたずんでいる。ただしこれも膝の上まで。煙の中にはぼんやりと城が三つ浮かびはじめる。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
まん中がふくらみだして、とうとう青いのは、すっかりトパーズの正面しょうめんに来ましたので、みどりの中心と黄いろな明るいとができました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのうちに、子供こどもらは、正面しょうめんへずらりとお行儀ぎょうぎよくならんで、兵隊へいたいさんのほうて、バイオリンにわせてうたいはじめました。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
正面しょうめんからぶつかって、手捕りにしてくれようと、壁辰はお妙を離して、め切ってある台所の板戸に手をかけた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
はっとして、目をあげてみますと、じぶんのまっ正面しょうめんに、しかもたった二メートルのはなさきに、ものすごい絶壁ぜっぺきが、きり立っているではありませんか。
わたくしはうれしくもあれば、また意外いがいでもあり、わるるままにいそいで建物たてもの内部なかはいってますと、中央ちゅうおう正面しょうめん白木しらきつくえうえにははたして日頃ひごろ信仰しんこう目標まとである
正面しょうめん本院ほんいんむかい、後方こうほう茫広ひろびろとした野良のらのぞんで、くぎてた鼠色ねずみいろへい取繞とりまわされている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
正面しょうめんに広い舞台ぶたいができていました。もなく甚兵衛は、大きなひょっとこの人形をちだし、それを舞台ぶたい真中まんなかえまして、自分は小さなむちを手にち、人形のそばに立って、挨拶あいさつをしました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そしてだんだん十字架じゅうじかまど正面しょうめんになり、あの苹果りんごにくのような青じろいの雲も、ゆるやかにゆるやかにめぐっているのが見えました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
正面しょうめん梅雪入道ばいせつにゅうどうをはじめ、四天王てんのう以下の大衆も、かたずをのんで、民部の太刀と伊那丸のようすとを見くらべていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるいは消え失せてしまわないまでも、二年前には見られなかった、柔かい明るさを呼吸していた。殊に広子は正面しょうめんにある一枚の油画に珍らしさを感じた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ものの二ちょうばかりもすすんだところひめ御修行ごしゅぎょう場所ばしょで、床一面ゆかいちめんなにやらふわっとした、やわらかい敷物しきものきつめられてり、そして正面しょうめんたなたいにできた凹所くぼみ神床かんどこ
ただしくきることは、どうして、このように不安ふあんなのであろうかと、正直しょうじきにいうと、はじめて、叔父おじさんは、正面しょうめんから、じっとぼくかおて、真剣しんけん態度たいどしめしたのでした。
世の中のために (新字新仮名) / 小川未明(著)
こうの青い森の中の三角標さんかくひょうはすっかり汽車の正面しょうめんに来ました。そのとき汽車のずうっとうしろの方から、あの聞きなれた三〇六番の讃美歌さんびかのふしが聞こえてきました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あかき光を正面しょうめんにうけて、薪束まきたばのうえにこしをかけているかげこそ、まさしく伊那丸いなまるであり、その両側りょうがわにそっているのは、木隠龍太郎こがくれりゅうたろう加賀見忍剣かがみにんけん、いつも、すきなき身がまえである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長老は大様おおように微笑しながら、まず僕に挨拶あいさつをし、静かに正面しょうめんの祭壇を指さしました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そうっておじいさんはにっこりともせず、正面しょうめんからわたくしするど一瞥いちべつあたえられました。