きわみ)” の例文
人と自然と、神の創造つくり給える全宇宙が罪の審判のために震動し、天のはてより地のきわみまで、万物呻吟しんぎんの声は一つとなって空にちゅうする。
むかしの人は世が衰えると、遊び場が栄えると言ったが、これが真実ならば現在は邦家衰頽ほうかすいたいきわみに至ろうとしている時である。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
婦人の上はしばらく。男子にして修飾を為さんとする者はすべからく一箇の美的識見を以て修飾すべし。流行を追ふは愚のきわみなり。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ここにおいて読書を廃してまた前途を考ふるに、資性愚鈍にして外国文学を専攻するも学力の不充分なるため会心の域に達せざるは、遺憾のきわみなり。
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
上戸じょうご本性で、謹みながら女を相手に話もすれば笑いもして談笑自在、何時いつも慣れ/\しくして、そのきわみは世間で云う嫌疑けんぎと云うような事を何とも思わぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
不経済のきわみと云わなければならないが、ああしていると全く安心の出来る食料が得られるし、その搗き砕けやぬかは、家畜の飼料その他に有力な利用となる。
第一俳諧随筆類と祝詞と前後したることは不体裁のきわみ也。最初に発刊の趣旨を置き、次に祝詞祝句を載せ、その次に随筆類その次に俳句などにて宜しかるべくと存候。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
◯来世的光明の徐々として彼に臨みしは何にるか。これ彼に降りたるわざわい、禍のための痛苦、痛苦のきわみの絶望に因るのである。「来世の希望は奈落ならくふちに咲く花なり」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
こういう成文じょうぶんは、実に、非実用のきわみ、愚の到りで、あの忙しい停車場の雑沓で、へんてこな外国語の本を開いて、駅夫相手にこんなことを言ったってとても始まらない。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
真に、恥知らずのきわみでした。自分はその薬品を得たいばかりに、またも春画のコピイをはじめ、そうして、あの薬屋の不具の奥さんと文字どおりの醜関係をさえ結びました。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼らはその仕事が需要されるある場所に移住するか、または貧困のきわみ窮死するかしかない。
参河みかわ武士の典型たる大久保彦左衛門の子孫にあらずして、むしろ賄賂もしくは養子、株の売買なりとは、すこぶる驚怪きょうかいきわみなれども、事実は決してこれを否定するあたわざるなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それがまた黒木の茂った静寂な環境と調和して、寧ろ凄味ある湯ノ湖を中心に、陰鬱ではあるが、極めて荘重な風景を現している。日光の秋はここに至って時と処と共に其きわみに達した。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
大海原おほうなばらひがしきわみから、うら/\とのぼつてあさひひかりも、今日けふ格別かくべつうるはしいやうだ。
おりから淡々あわあわしいつきひかり鉄窓てっそうれて、ゆかうえあみたるごと墨画すみえゆめのように浮出うきだしたのは、いおうようなく、凄絶せいぜつまた惨絶さんぜつきわみであった、アンドレイ、エヒミチはよこたわったまま
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
この怪人たちの陰謀のそばつえを食ったサイゴン港こそ、悲惨のきわみであった。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
女性が酒に対する反感のきわみ、その年久しい分配供与の任務を抛擲し、いやしい身分の者の独占にゆだねた結果は、今日はまた一段と酒の消費を無節制にしたので、是はまったく世人が歴史の沿革を
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかし、グルストン街の壁の文字だけは、最初のそして最後の、純正な犯人の直筆じきひつである。この唯一の貴重な証拠が、心ない一巡査の手によって無に帰したのは、かえすがえすも遺憾のきわみであった。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
五百円がせたというのは思いがけないきわみであった。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大空のきわみはどこにあるのか見えない。
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
心から、真に生命のきわみから
たたかいの中に (新字新仮名) / 今野大力(著)
これは不幸のきわみの日に
都鄙とひ一般に流行して、その流行のきわみ、しきりに新奇を好み、山村水落に女子英語学校ありて、生徒の数、常に幾十人ありなどいえるは毎度伝聞するところにして
文明教育論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それを何の配合物もなく「レールの上に風が吹く」などとやられては殺風景のきわみに候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
女にれられて、死ぬというのは、これは悲劇じゃない、喜劇だ。いや、ファース(茶番)というものだ。滑稽こっけいきわみだね。誰も同情しやしない。死ぬのはやめたほうがよい。うむ、名案。
グッド・バイ (新字新仮名) / 太宰治(著)
われ爾らに告んソロモンの栄華のきわみの時だにもその装いこの花の一に及ばざりき、神は今日野に在て明日炉に投入れらるるくさをもかくよそわせ給えばまして爾らをやああ信仰うすき者よ
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
刻々とせまる黒き影を、すかして見ると女は粛然として、きもせず、狼狽うろたえもせず、同じほどの歩調をもって、同じ所を徘徊はいかいしているらしい。身に落ちかかるわざわいを知らぬとすれば無邪気のきわみである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
◯そしてビルダデの如き論理の一面を以てのみ物を見る人に、ヨブの前章のことばが愚劣と見えたのも誠にやむを得ないのである。実際ヨブの返答は、理論の上においては不可解のきわみである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
畢竟ひっきょう記者は婚姻契約の重きを知らず、随て婦人の権利を知らず、あたかも之を男子手中の物として、要は唯服従の一事なるが故に、其服従のきわみ、男子の婬乱獣行をも軽々けいけい看過かんかせしめんとして
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)