木乃伊ミイラ)” の例文
の眼たかの眼で再び函の中を調べ始めたのであったが、ちょうど木乃伊ミイラの足許に当る部分あたりから、さまざまのものが現れ始めた。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
木乃伊ミイラ取りが木乃伊になって、大弓に凝り始めたという情報が、大久保にやっている下男の権治ごんじの口から店の方へ伝えられました。
「鶯張は今の人が何程いくら工夫しても出来ないというが、建築家の意見は何うだね? 矢張り埃及エジプト木乃伊ミイラ見たいに堙滅いんめつした技術かしら?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
夫人は、灯もない夕暮の自室に、木乃伊ミイラのようにせ細ったからだを石油箱の上に腰うちかけて、いつまでもジッと考えこんでいた。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
自分の女房を連れて來ると、怪男子はいつて、間もなく他の部屋から一個の人間を運んで來たが、それは女の木乃伊ミイラであつた。
奇怪な客 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
左右の膝に置いた手が分捕ぶんどりスコップ位ある上に、木乃伊ミイラ色の骨だらけの全身を赤い桜の花と、平家蟹の刺青ほりもので埋めているからトテモ壮観だ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一婦人作家というのは、「木乃伊ミイラの口紅」の作者のことでしたろうか。官能の面の解放者というのはどういうところでのことだったかしら。
凄い寂しい車塚の郷の、三軒の廃屋の真ん中の家の、黄昏たそがれのように暗い部屋の中に、人形ひとがたを完全に備えている、五個いつつ木乃伊ミイラが並んでいた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
木乃伊ミイラ取りが木乃伊になった形のカミィル巡査と、こう鳥渡の間に三つの自殺が、しかも完全に同じ状況の下に続発して
ロウモン街の自殺ホテル (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
佐分利はその劇なるを知りながらかかつたのは、大いに冒険の目的があつて存するのだらうけれど、木乃伊ミイラにならんやうにふんどしめて掛るが可いぜ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「何にも知らないこの青年に智恵をつけるにも程がある。これじゃまるで智恵をつけたために生きながら人間を木乃伊ミイラにするようなものじゃないか」
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ところが犯人は、そういう最も安全な方法を択ばないばかりでなく、現在見るとおり木乃伊ミイラみたいにくるんでいて、不可解な防温手段を施しているんだよ
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
然るに文人に強うるに依然清貧なる隠者生活を以てし文人をして死したる思想の木乃伊ミイラたらしめんとする如き世間の圧迫に対しては余り感知せざる如く
そしてやはり干からびた木乃伊ミイラのような人物が点在している。何と云っていいか分らないが、妙にきらきら明るくていて、それで陰気なおどろおどろしい景色である。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
我々は官憲の眼をくらますために木乃伊ミイラの教訓的な役割をいつまでも演じていたくはないのです。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
明治になってから或る人に訊きますと、そのおかしな人間の首というのは多分木乃伊ミイラのたぐいだろうという話でしたが、どうですかねえ。なにしろ、よっぽど変なものでした
半七捕物帳:04 湯屋の二階 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
七百年前の工芸の木乃伊ミイラや絵や武具などを前に、科学の壁の中で飽かず眺め入っている会場のたくさんな近代人は、それ自体がなにか“真昼の奇蹟”みたいに私には映った。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木乃伊ミイラ取りが木乃伊というたとえは古いこと、薬草取りに来て、生命を取られ損ないなんていうのは、お話にならねえんでげす、これと申すも日頃の心がけがよくねえからでげす
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
木乃伊ミイラによって人類の統治せらるるを夢想すること、退廃したる信条を復興すること、遺物ひつに再び金箔きんぱくをきせること、修道院を再び塗り立てること、遺骨ばこを再び祝福すること
美妙が大祖たいそと称するところの、八十五歳の養祖母おます婆さんは、木乃伊ミイラのごとき体から三途さんずの川の脱衣婆おばあさんのような眼を光らせて、しゅうとめおよしお婆さんの頭越しに錦子をにらめつけた。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
のみならず発掘されてから諸方へ運ばれた木乃伊ミイラがその行先でいろいろな祟りを起したという例もまたすくなくない。かつてロンドンの大英博物館にエジプトのある王妃の木乃伊が陳列された。
怪談綺談 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それは、頭に火皿をのせ、手に二股の杖をついて、その書物をネフェルカプターの墓所へ返して行ったことである。王子から書物を受取った時、ネフェルカプターの木乃伊ミイラはニヤリと笑った。
セトナ皇子(仮題) (新字新仮名) / 中島敦(著)
さう言ふウハついた噂をひろげる時勢ではなし、第一其よりも、あの荒涼たる灰燼の中に、美しい木乃伊ミイラを横へた幻影を人に持たせるには、清く美しかつた魁車も、既に三十年は生き過ぎて居た。
しょうなきまでに白げられたる、木の骨——というより外に、与える名がない——と、砂に埋まれた楕円石や、稜角の鋭いヒイラギ石やは、丁度、人間の屍骸が、木乃伊ミイラとなって、木偶でくか陶製の人物か
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
第一種(人体編)人体の奇形変態、死体の衄血じくけつ、死体強直、木乃伊ミイラ
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
眼が木乃伊ミイラのようにからからに乾いていた。私は口をつぐんだ。
狂い凧 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
木乃伊ミイラが生き返ってきたって、あいつほどものすごくはない。
まるで木乃伊ミイラのように滑走った
(新字新仮名) / 大江鉄麿(著)
見る影も無いビッコの一寸法師で、木乃伊ミイラ同然に痩せ枯れた喘息ぜんそく病みのヨボヨボじじいと云ったら、早い話が、人間の廃物だろう。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
白い天井には、黒いはえが停っている。停っているがすこしも動かない。生きているのか、死んでいるのか、それとも木乃伊ミイラになっているのか。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
鑑哲は木乃伊ミイラのような身体を起して、薄黒い顔でふり仰ぎました。杖にした青竹を力に上半身をささえるのが精一杯です。
いずれにせよ、古代埃及エジプト木乃伊ミイラは今日すでに研究し尽されておりますが、古羅馬時代における屍体埋葬の方法は、今日なお一切知られておりません。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
富士教団の守護神たる、エンノ行者の荘厳の木乃伊ミイラが、昔ながらの形を保ち、そこに籠っているのであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
けれども、あれほど偉い女が、水分を失った屍体が木乃伊ミイラ化する事実を、知らぬ筈はないと思うがね。
夢殿殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
文学者ぶんがくしやを以てだいのンきなりだい気楽きらくなりだい阿呆あはうなりといふ事の当否たうひかくばかりパチクリさしてこゝろ藻脱もぬけからとなれる木乃伊ミイラ文学者ぶんがくしやに是れ人間にんげん精粋きつすゐにあらずや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
木乃伊ミイラとりが木乃伊になられちゃ困る。まあ、いずれ、またはまり場処もあろうさ」
杉垣 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「そりゃ、そんなものかも知れないが、世間には木乃伊ミイラ取りの木乃伊というのがある」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ねえ諸君、まさか、木乃伊ミイラ取りが木乃伊になっているのじゃないだろうね」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それと反対に、こんな半木乃伊ミイラのような女に引っかかって、自分の身をどうするのだ。そう思って逃げ出しかけたことも度々あった。だが、おかみさんの顔をつくづく見るとどちらの力も失せた。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
近頃エジプトの医学校で木乃伊ミイラの解剖分析に従事している学者がある。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「においがいい」(評判がいい)ということが問題だった。実際それらの尊ぶべき群れの意見のうちには香料があった、そしてその思想にはインド草のかおりがしていた。それは木乃伊ミイラの世界だった。
悉皆すっかり失策しくじってしまったね。木乃伊ミイラが木乃伊取になるという奴さ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
三千年ばかり前のツタンカーメンの墓の中から出て来た、実物の木乃伊ミイラとはすこし色が違うが、これがホントの色じゃろう。
髪切虫 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鑑哲は木乃伊ミイラのやうな身體を起して、薄黒い顏でふり仰ぎました。杖にした青竹を力に上半身をさゝへるのが精一杯です。
彼は新聞紙利用の脅迫状を、蠅の木乃伊ミイラとともに提出し、主人の懇願こんがんすじをくりかえして伝えて、保護方ほごかたを頼んだ。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もしかすれば潮の加減で漂着した、木乃伊ミイラではあるまいかしら? なぞと、話し合ったことでありました。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
頭巾を冠り行衣を着、一本歯の鉄下駄を穿き、片手に錫杖しゃくじょうを握ったところの、それは気高い老人であったが、しかし活きてはいなかった。他ならぬ人間の木乃伊ミイラであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして、顔だけを除いて、全身を木乃伊ミイラのように毛布で巻き付けられているのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
辻斬というものは、人の気の絶えた辻に行ってこそ多少の凄味もあるというものだが、合戦の場へ辻斬に出たからとて、幕違いの嘲笑を受けて、結局、自分の身を木乃伊ミイラにするが落ちだ。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
れてはならぬ)と、美衣美食をおそれ、夜のものの温まるをおそれ、経文きょうもんを口でむのをおそれ、美塔の中の木乃伊ミイラとなってしまうことをおそれたが、門跡として見なければならぬ寺務もあり
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)