書肆しょし)” の例文
この書刷行を重ねること多く、文字も往々鮮明を欠くものがあるようになったので、今度書肆しょしにおいて版を新にすることになった。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
出版の都度々々書肆しょしから届けさしたという事で、伝来からいうと発行即時の初版であるが現品を見ると三、四輯までは初版らしくない。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
これよりさき生田葵山書肆しょし大学館と相知る。主人岩崎氏を説いて文学雑誌『活文壇かつぶんだん』を発行せしめ、井上唖々と共に編輯へんしゅうのことをつかさどりぬ。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
この書は書肆しょしの熱意にて、極めてすみやかに出来、ふりがなを一度失いしためにあるいは校正の麁洩そせつもあらんかとそれのみをおそれます。
彼はビリングズにでも挿画を描かして、ティックナ社といったような有名な出版書肆しょしから、それを立派に世に出してくれると思うんだ。
一月八日に保は東京博文館のもとめに応じて履歴書、写真並に文稿を寄示した。これが保のこの書肆しょしのために書をあらわすに至った端緒たんちょである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「猫」の下巻を活字に植えて見たらページが足りないから、もう少し書き足してくれと云う。書肆しょしは「猫」をもって伸縮自在と心得て居るらしい。
私たちの著作を叢書そうしょの形に集めて、予約でそれを出版することは、これまでとても書肆しょしによって企てられないではなかった。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昨年三月神祇院じんぎいんで印刷に附して関係者に頒布はんぷせられたが、今回書肆しょしの請により同院の許しを得て新たに刊行したものである。
古代国語の音韻に就いて (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
弟の書肆しょしでは急いでいる。初版通りで済ませば済むものを、旅先まで昔の幽霊を背負ってあるく自分も自分だなと深い心の底から溜息も出る。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
なるべく簡明なほうがよい。このたびわが塾に於いて詩経の講義がはじまるのであるが、この教科書は坊間ぼうかん書肆しょしより求むれば二十二円である。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
「そんな必要があるもんですか、こういう本はたいてい、書肆しょしから上顧客へ謝礼に贈るものですよ」と佐久馬は云った
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その後、その書肆しょしが破産したために、本当は一文にもならなかった仕事を、一生懸命に熱心に続けていったのだった。
出世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その日は神田の出版書肆しょしから出版することになった評論集の原稿をまとめるつもりで、机の傍へ雑誌や新聞の摘み切りを出して朱筆しゅふでを入れていると
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
先生はそういうものを書くことを好まれず、またそのひまももたれなかったが、或る書肆しょしの懇請をことわりきれず、それを引きうけられたのであった。
学究生活五十年 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
もしもそうでなかったらいかに彼の名文をもってしても、書肆しょし十露盤そろばんに大きな狂いを生じたであろうと思われる。
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
曾つて、内蔵助は、時の儒者、太宰春台だざいしゅんだいの著書「三王外記さんのうげき」の評判をきいて、大阪の書肆しょしからとりよせてみた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第一に彼は十円札を保存することに成功した。第二にある出版書肆しょしは今しがた受取った手紙の中に一冊五十銭の彼の著書の五百部の印税を封入してよこした。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
岩波の文庫のものはその絶版のままになっていたが、その後(昭和十八年)聖紀書房という書肆しょしから歴史物集として上梓じょうしされたのがこの改訂版の最初であった。
明和五年三月、雨はれて月おぼろにかすむ晩春の夜、座敷のあかりまどの下で編みつくり、書肆しょしに渡す。題して「雨月物語」ということにした。剪枝畸人せんしきじんしるす。〓
されど資力なくしてはこの種の大事業を成就じょうじゅし得ざるを以て彼は字書編纂へんさんの約束を以て一時書肆しょし冨山房ふざんぼうに入りしかど教科書の事務に忙殺せられて志を遂ぐる能はず。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
彼らは彼に頼んで、それを展開させ——(そっくり書かせ)——自分の名前で大書肆しょしから出版さした。するともうその楽曲全体を自分の作だと思い込むのであった。
出版書肆しょしの信用と目されるものにたよったり、著書の定評的評判にたよったりして本を読んでゆく。
今日の読者の性格 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
一二の出版書肆しょしへまわされた果てに、庸三のところへ出入りしている、若い劇作家であり、出版屋であった一色いっしきによって本になったのも、ちょうどそのころであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
八人の子を生んでも衰えぬ容色を持っている。越後から出てほんの一書肆しょしにすぎなかった大橋氏は、いまでは経済界中枢の人物で、我国大実業家中の幾人かであろう。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
書肆しょしより切に再版を請求しきたれるをもって、ここに旧稿のまま再び印刷に付することとなす。
遂に自ら発行書肆しょしを訪ねて、第二版には必ずジェレミー・ベンサム著と題してくれよと頼んだ。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
書肆しょしからなるべく多く追加原稿をそろえてつけるようにとの要求を受けたが、前版以後におりおり雑誌上にかかげた文は別に「煩悶と自由」と題して、最近に出版したゆえ
我らの哲学 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
暫く私の素人的臆測を施せば、書肆しょしは既に之を天保十四年に準備して翌年の新板として世に出そうとしたのが、作者も歿し年号も改った、というような事情ではなかったろうか。
春水と三馬 (新字新仮名) / 桑木厳翼(著)
書肆しょし古泉堂の主人、紺野小太郎老人の、まがう方なき水晶のレンズが、不吉な血をもって彩られた大平氏宅の庭に落されて居たということは、そもそも何を意味するのであろうか。
好色破邪顕正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
十九世紀、フランス、ルイ・フィリップ王の時に、パリの有名な書肆しょしの主人で書盗が居た。彼は相当に尊敬せられ、世間の信用もあった男であったが、書盗癖だけが彼の瑕だった。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
私の同窓の友人で、かつてダヌンチオの戯曲フランチェスカの名訳を出し、後に冬夏社なる出版書肆しょしを経営した鷲津浩君も、一昨年からそこに江戸屋というおでん屋を開いている。
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
書肆しょし気附けでビーストンに手紙を出したことがあったが、その返書の中でビーストンは異国に知己ちきを見出したことを喜ぶとともに、本国では日本ほどにもてはやされず単行本も一
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
またこの本の出版に関し書肆しょしから受けた厚誼こうぎに対し、厚く謝意を伝えたく思います。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
当り作が出てからは、黙っていても、雑誌社から頼みに来る、書肆しょしから頼みに来る。私は引張凧ひっぱりだこだ……トサ感じたので、なに、二三軒からの申込が一一寸ちょっとかさなったのに過ぎなかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
時雄は常に苛々いらいらしていた。書かなければならぬ原稿が幾種もある。書肆しょしからも催促される。金もしい。けれどどうしても筆を執って文をつづるような沈着おちついた心の状態にはなれなかった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
一時京橋のある書肆しょしから発行されるという評判があって、そのまま立消えになったのが、どうしたのか今配布用の小冊子になって小林の手にある。巻末には発行所も印刷所も書いてない。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
これは野村・梅村両書肆しょしの合刻本で、ふつう野梅堂やばいどう版とよばれている。
雨月物語:04 解説 (新字新仮名) / 鵜月洋(著)
書肆しょしにあってもこの時局下出版困難の際に拘わらず、勇を鼓して費用構わず発行したからには、算盤が採れんでは困るであろう、イヤ大に売れんと商売にならんと泣き顔になるであろうと察する。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
書肆しょし富山房も誠意がないではなかったが、買った本は誰が買ったか分からぬので、正誤表の送りようがないと云うことであった。
不苦心談 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
書肆しょし一誠堂編輯へんしゅう部其他に勤務したが、永く其職に居ず、晩年はもっぱ鉛槧えんざんに従事したが、これさえ多くは失敗に終った。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
宛名はツイその近傍の著名な書肆しょしで、「先達せんだっての○は何々へ届けてくれ、本人が義務を怠たったら自分が返債する」
加えなければならぬ。『六の宮の姫君』は短篇集『春服しゅんぷく』に収められている。発行書肆しょしは東京春陽堂しゅんようどうである
文放古 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
京都などの書肆しょしの出店が五軒ほどある、それらで古書を扱っていたし、古道具屋などでもときに奇覯きこうの書をみつけることが無くはない、臨慶史りんけいしとか歳令要典とか
ひやめし物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
では書肆しょしと契約なしに手を着けたのかと聞くと、全くそうでもないらしい。と云って、本屋の方がまるで約束を無視した様にも云わない。要するに曖昧あいまいであった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかるに不折君は人に頼まれたるほどの事ことごとくこれに応ずるのみならず、その期日さへ誤る事少ければ書肆しょしなどは甚だ君を重宝がりまたなきものに思ひて教科書の挿画さしえ
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
出版書肆しょしからスキー道具一式を貰い、「滑れ銀嶺、歓喜をのせて」雪上出版記念会を行ったというエピソードは、朗らかなようではあるが、私に一つのことを想い起させた。
自著の教科書のことで関係があるライプチヒやベルリン書肆しょしへも、ある部数を送った。
これは野村・梅村両書肆しょしの合刻本で、ふつう野梅堂やばいどう版とよばれている。
あえて書肆しょしの希望にまかせて再訂上梓じょうしすることにした。
三国志:01 序 (新字新仮名) / 吉川英治(著)