断末魔だんまつま)” の例文
旧字:斷末魔
青大将あおだいしょうが真二つにちぎられてのたうちまわるのだ。尺取虫しゃくとりむしと芋虫とみみずの断末魔だんまつまだ。無限の快楽に、或は無限の痛苦にもがくけだものだ。
火星の運河 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして、シリンの断末魔だんまつまらしい、ウームといううなり声が、かれの耳そこにハッキリと聞こえた。いよいよ事態は重大となった。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、竹の落葉の上には、それらしいあとも残っていません。また耳を澄ませて見ても、聞えるのはただ男ののどに、断末魔だんまつまの音がするだけです。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
人垣は物の崩れるように、ゾロゾロと倒れているお菊の方に移りましたが、蘇芳すおうを浴びた虫のようにうごめ断末魔だんまつまの娘をどうしようもありません。
この夜叉王は徹頭徹尾てっとうてつび芸術本位の人で、頼家が亡びても驚かず、娘が死んでもかなしまず、悠然として娘の断末魔だんまつまの顔を写生するというのが仕所しどこ
それはかく、あのときわたくしはは断末魔だんまつま苦悶くもんさまるに見兼みかねて、一しょう懸命けんめいははからだでてやったのをおぼえています。
トルストイの様な人でトルストイの様な境遇にある者は、彼様な断末魔だんまつまが当然で且自然であります。少しも無理は無い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と悲しい声を張りあげて、断末魔だんまつまのように身体をふるわせて掻口説かきくどいていた。その痴川を麻油は母親のように抱いてやって、けたたましく笑い出したが
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
と、巨大な牛の断末魔だんまつまの鳴き声にも似た、汽笛の音が、はげしい風に吹きちぎられながら鳴りひびいた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
怪談のうちでも、人間が死ぬ断末魔だんまつま刹那せつなに遠く離れてる、親しい者へ、知らせるというのは、決して怪談というべきるいでは無かろうと思う、これは立派な精神的作用で
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
私は蒼い顔をして、断末魔だんまつまのようなせわしない息遣いきづかいをしつゝ、心の中でこう叫んで見る。
恐怖 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、いつぞや毒にあたって死んだ犬の断末魔だんまつまの啼き声を思い出してきたからであった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
刹那せつな、鞘をあとにおどった武蔵太郎が、銀光一過、うわあッ! と魂切たまぎ断末魔だんまつまの悲鳴を名残りに、胴下からはすかいにねあげられたくだんの男、がっくりと低頭おじぎのようなしぐさとともに
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
顳顬こめかみがふくれ、のどがつまり、彼は断末魔だんまつまの叫びをあげかける。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
断末魔だんまつまの勇気でまた斬りつけたのが鍛冶倉の肩先。
燃え狂ふ恋慕れんぼがく断末魔だんまつま
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
断末魔だんまつま——濁りゆく
寂寞 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
くちびるを押し開き、生きた人間ではとても不可能な程大きな口にして了ったという、その断末魔だんまつまの世にも物凄い情景が、彼の目先にチラついたのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その身体が後ろから突きのめしたように、前に倒れているのは、断末魔だんまつまの苦悩のせいでしょうか。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
判事も僕のはげしい態度にまゆひそめはしたが、あの博士の断末魔だんまつまが聴えたのちに、階段を降りて行ったらしい跫音あしおとドアにぶつかる音をきいたということを非常によろこんだ。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その疾駆し去ったあとには、負傷ておいの者、断末魔だんまつまの声が入りみだれて残る。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あのかげもなく、いさらばえる面影おもかげ、あの断末魔だんまつまのはげしい苦悶くもん、あの肉体にくたい幽体ゆうたいとをつなぐ無気味むきみな二ほんしろひも、それからあの臨終りんじゅうとこあたりをとりまいた現幽両界げんゆうりょうかいおおくの人達ひとたちあつまり……。
たおされたその男は、平常ふだん、信心家であったとみえ、断末魔だんまつまのひと声
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殺人者が目の前にいるとも知らず血みどろになって狂い廻る断末魔だんまつま光景ありさま、最初の間、それらが、どんなにまあ私を有頂天にして呉れたことでしょう。
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
およそ其試写会に立会った程の人々は、期待していた若き一婦人の断末魔だんまつまの姿を見る代りに、ま白きタイルの浪の上に、南海の人魚の踊りとは、かくもあるかと思われるような
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いよいよお綱も断末魔だんまつまか?
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それぞれ個性を持った犬共の叫び声が、物狂わしき断末魔だんまつまの聯想を以て、キンキンと胸にこたえた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
空中の怪魚の、断末魔だんまつまは、流石さすが豪胆ごうたんな帝国の飛行将校も、正視せいしするに、たえなかった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「よくごらんなさい。死骸しがいですよ。断末魔だんまつまです。知死期ちしごです。わたしの自慢の作品ですよ」
悪霊物語 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
恋人との逢瀬おうせから帰って来たのは、その日の午後三時頃、丁度格太郎が長持の中で、執念深くも最後の望みを捨て兼ねて、最早や虫の息で、断末魔だんまつまの苦しみをもがいている時だった。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかも断末魔だんまつま苦悶くもんを現わす、何とも云えぬ物凄いうなり声だ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
断末魔だんまつまの不気味な笑いを笑っているのでございました。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)